「番頭はん」
「へぇ」
番頭は算盤に置いた手を止め、祖父とは似ても似つかぬお咲の美しい顔に見惚れた。
「うち、なんか手伝いたいんだす。用事ありまへんやろか?」
「松葉屋のとうはんに、そんな――」
お客様扱いにムッとしたお咲の様子に、善次郎は慌てた。
「そ、そない急に云われましても」
「なんでもやりますで。肩凝ってまへんか」
「か、肩?」
「勘定は下手やけど、習字は得意だす」
畳に手をついて顔を近づけてくるお咲の様子に、善次郎は焦った。
「なん、でも?」
「なんでも!」
善次郎はごくりと唾をのんだ。お咲はキラキラした目を見開いた。番頭は目を逸らした。
「……御不浄の掃除。とか?」
「任せてや!」
お咲は袖を間繰り上げ、パタパタと走っていった。その様子を襖の影から覗いていた和助はため息を吐いた。
「なんかお願いしそうになったやろ。実はな。わてもな――」
「やめてください。心臓に悪いだけだす!」