1−14 君の優しさに
=男子寮自室=
豊田「で、帰ってきたの?」
鈴村「うん。なんか、ごめんね」
豊田「なんで、拓ちゃんが謝るの?」
鈴村「だって、なんか、邪魔したみたいだから…」
豊田「え、ああ、大丈夫だよ。これはこれで、スリルがあっていいかもね」
鈴村「だけど、あ、やっぱ、俺、外に行くな。気にすることなく、フィニッシュをむかえてくれ」
豊田「いやだな。拓ちゃんがいてくれたほうがいいのに」
鈴村「え?」
豊田「気にしなくていいって」
鈴村「でも、俺も、そうなると辛いし、だから、わかるつもりだし」
豊田「拓郎、そんなもの欲しそうにすんなよ」
鈴村「え、なんて?」
豊田「誤解しちゃうぞって」
鈴村「なんで、そうなるんだ?」
豊田「あんまり、そう、じろじろと見ないでほしかったりする」
鈴村「あ、ごめんっ」
豊田「いや、拓ちゃんは悪くないんだ。ただ、久々に一人だからって、こういう本を読んでいた僕が悪いんだ。ごめんね」
鈴村「いや、違うよ、一人の時間は確かにあったはずだし、俺がいきなり帰ってきたのがいけなくて、その、だから」
豊田「優しくしないでよ。拓ちゃん」
鈴村「え?」
豊田「なんで、ひかないの? 僕のこの本がどんなのかなんてわかっているよね。昨日だって、あんなことしたのに、なんで、僕なんかと普通にこうして、話してくれるの? 今だって、なんで、そんなに、理解しようとしてくれるの? 嫌じゃないの? 同室の奴はホモでっ、気持ち悪くないの? ね? 拓ちゃん!!」
鈴村「昴? なんで、そんなこと言うんだよ? 昴は悪くないだろっ、だって、昨日のあれは俺のためでしょ? なら、全然いいよ。昴だし。うん。怖くなかったといえば嘘だけど、俺にとって大切なのは、終わったことじゃなくて、これからなんだよ」
豊田「……」
鈴村「それに、俺、わかんないんだ。男が男を好きになることに、あんまし偏見ないんだよ。ね、誰でもいいってわけじゃないんでしょ? 誰かを傷つけたいとか、おもしろ半分とか、そんなんじゃなくて本気なんでしょ? なら、俺は何も言わない。それでいいと思う」
豊田「俺はお前でよかった」
鈴村「昴?」
豊田「僕はね、拓ちゃんみたいな人と同じ部屋で、よかったよ。友達でいてくれることにも感謝しているんだ。拓ちゃんのそばにいられて、幸せ者です」
鈴村「ななな、何を急にっ」
豊田「照れなくていいのに」
鈴村「昴はもうすこしだけでも、恥じらいを知ったほうがいいっ!」
豊田「嫌だな、恥じらっているじゃないか?」
鈴村「へ? えぇえぇぇえ?!」
豊田「トイレ、拓ちゃん、そこ、どいてっ」
鈴村「あ、わりぃ」
豊田「ごめっ」
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