1‐1 恋の病




  =教室=


滝島「そう。俺と拓郎ちゃんの出会いは、桜舞い散る四月。そう、入学式のこと。

『あの、お名前聞いてもいいですか?』

そう、頬を赤くして、拓郎ちゃんは俺に声をかけたんだ。震える瞳が言っていた。俺、あなたが好きなんです、と。すがるように俺を見つめ、俺を求め、そして、あぁだめだ。言えねー」

鈴村「……あのさ、前にも言ったけどさ、あれは、ただ風邪気味だったからだ。テメェみたいな馬鹿の名前を迂闊にも聞いてしまったのは、ただ単に、俺の幼なじみが、聞けって言ったからで」

滝島「そんなとってつけた説明なんて、俺と拓郎ちゃんの間には似合わないよ。この大きな愛の前では全て無意味さ!」

鈴村「……次は、数学だよな。うん。石田先生早く来ないかな」

滝島「拓郎ちゃん。そんな照れ隠し、俺には通用しないよ? ほら、数学なんて忘れて、俺と逃避行しようぜ」

鈴村「嫌だね。一人でどっか行けよ!」

滝島「わかった。拓郎ちゃんがそこまで言うなら、一人で行くよ。行くからね」

鈴村「ああ、さよなら」

滝島「…………だめだ。俺、拓郎ちゃんをおいてなんてできない。言葉にならない淋しいが聞こえてくるよ」

鈴村「あ、病気だろ?」

滝島「うん。恋の病」

鈴村「だ、抱き着くな! この馬鹿! 離れろ! ここはどこかわかってんのか?」

滝島「学校の教室だよ」

鈴村「はいはい。わかってんなら離れろーってんだ!」

石田「その通りです。滝島くん」

鈴村「石田先生。もっと言ってあげて下さい。こいつ常識がわからないみたいで、俺、困ってるんです」

滝島「……照れるなよ」

鈴村「照れてない!」

石田「滝島くん。とにかく離れなさい。相手の気持ちを大切にできなくて、愛を語らないで下さい。いいですか? いくら、心ではそう思っていると感じても、鈴村きゃんが言葉にすることを否定したら、鈴村きゃんがかわいそうじゃないですか」

滝島「鈴村きゃん?」

鈴村「うるせー。石田先生はいいんだよ。俺の呼び方なんてなんでもいいだろ?」

石田「鈴村きゃーん」

滝島「ざけんな。キャラ崩壊早いだろ。石田先生。もっとクールな数学教師を演じてから素を出せよっ」

鈴村「石田先生を悪く言うな!」

滝島「………え?」

鈴村「いや、違う。勘違いだ。今すぐ、その緩んだ顔をやめろ!」

滝島「ごめんね。俺、石田先生ばかり構って。拓郎ちゃんが一番だし、あんな先生、眼中にもないから」

石田「こら、滝島くん! 鈴村きゃんが嫌がっているだろ! 離しなさい!」

滝島「今更、教師ぶるなよな!」

石田「……かわいそうな滝島くん。鈴村きゃんの離してってお願い聞いてあげられないなんて…」





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