体を重ねても、どれだけ近くにいても、私たちは所詮兄妹なのだ。

「翔……抱いてよ」

 学校から帰ってきた私は、リビングで絡み合うお兄ちゃんと彼女を見てしまった。ソファーに座るお兄ちゃんの膝の上で彼女が服を脱いでいく。お兄ちゃんの顔は見えない。でも、最近お兄ちゃんが私に触れてくれるから忘れていた。お兄ちゃんが、お兄ちゃんであることを。お兄ちゃんに、特別な人がいることを。
 目の前が真っ暗になった。私は所詮、お兄ちゃんにとって暇潰しなんだ。
 声を聞きたくなくて2階の自分の部屋に入った。今頃お兄ちゃんはリビングであの人を愛しているのかな。あの熱い舌で、指で、そして……
 涙が込み上げてくる。そばにいてくれたらそれでいい。そう本当に思っている。でもお兄ちゃんに触れられる度私はわがままになっていってしまった。お兄ちゃんが他の人に触れるのが、たまらなく嫌。私だけのお兄ちゃんでいてほしい。そんな、絶対に叶わないことを願ってしまう。
 お兄ちゃんだけいてくれたら、それでいいのに。お兄ちゃんが欲しい。心も、体も。

「すずちゃん、泣いてるの?」

 突然声が聞こえて、ハッとして顔を上げた。そこにはお兄ちゃんが立っていて、私より悲しそうに綺麗な顔を歪めている。どうしてここにいるの?そう思うと同時、私はお兄ちゃんに抱きついていた。

「……お兄ちゃん、私をお兄ちゃんのものにして」

 お兄ちゃんだけのものに、して。お兄ちゃんは一瞬目を丸くした後、恐ろしいほど綺麗に微笑んだ。

「……すずちゃんは、俺だけのもの。ずっと、一生」

 頬にお兄ちゃんの体温を感じた次の瞬間、噛み付くようなキスが降ってきた。

「んっ、ん……お兄ちゃ、すき……っ」
「すずちゃん」

 ベッドに寝転ぶお兄ちゃんの上で淫らに腰を振る。自分で胸を揉むと、お兄ちゃんは嬉しそうに「可愛い」と微笑んでくれた。服を着ていると細く見えるお兄ちゃんの体はしっかりと筋肉がついていて硬い。そんな胸に手を置くと、確かな鼓動が肌を伝って脳まで届く。お兄ちゃんの存在を感じる度に私の子宮はきゅんと疼いて中のお兄ちゃんを締め付けてしまうのだ。

「……すずちゃん、可愛い」
「あっ、お兄ちゃ、すきっ」
「俺も好きだよ」

 え……?驚いて動きを止めてしまった私の腰を掴み、お兄ちゃんは起き上がる。そして私の頬をペロリと舐めた。

「ずっとずっと、好きだった。本当はずっと君を俺のものにしたくてたまらなかった。すずちゃん、俺はずっと前から君だけのものだよ」

 信じられなくて、そっとお兄ちゃんの頬を抓ってみた。

「痛いよすずちゃん」

 ふふっと笑ってお兄ちゃんは私を抱き締めてくれる。その確かな体温に、私の目からはポロポロと涙が零れた。

「……すずちゃん、愛してる」
「あっ、ああっ、お兄ちゃ、」
「名前」
「っ、翔、翔……っ」

 体を倒され、お兄ちゃんが覆い被さる体勢で腰を打ち付けてくる。手をしっかりと掴まれ、どれだけ奥に来ても逃げられない。奥深くまでお兄ちゃんに犯されながら、私は悲鳴にも似た声を上げた。

「……すず、これからは俺のことだけ考えて」
「んっ、あっ、ああっ」
「息苦しいくらい、君だけを愛してあげる」

 お兄ちゃんの低い声が呪文みたいに脳内で響く。何も考えられないまま、頭に薄いモヤがかかったみたいに。私はお兄ちゃんのことだけを考えた。これからどうなるかなんて、どうでもいい。お兄ちゃんがいてくれたら、それだけでいい。


 ウトウトしていると、誰かが喚いているのが聞こえた。隣で眠っていたお兄ちゃんがいないことに気付いて少し顔を上げる。私の部屋のドアの前に立っていたのはあの女の人で、お兄ちゃんに縋り付いて何か言っている。私と目が合った瞬間、その女の人は般若のように眉を吊り上げて私に掴みかかろうとした。でもお兄ちゃんがそれを制す。そして言った。

「……俺のすずに手出したら生まれてきたこと後悔させる」

 と。低い声だった。私はベッドから下りてお兄ちゃんの背中に抱きついた。お兄ちゃんのシャツは大きくて膝の上まで隠れる。上半身裸のお兄ちゃんの体にはさっき私が夢中で付けたキスマークが散らばっていた。

「……すず、ずっと俺と一緒にいてくれる?」

 必死で頷くと、お兄ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた。

「……じゃあ、二人になれるところに行こう」

 二人だけの世界に、余計なものはいらない。

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