君しかいらない

 隣で眠る翔さんの綺麗な顔を見つめていたら、コト、と小さな音が聞こえた。反射的に体を起こす。寝室のドアの前に女の人が立っていた。

「どうしてあなたなの?」

 彼女が呟く。翔さんを起こそうと体を動かしたのに、恐怖からか動かない。彼女は殺意に満ちた鋭い視線を私に向けてきた。どうして、私か?そんなの知らない。私にだって分からない。完璧な翔さんが私を選んでくれた理由なんて、分からない。でも、一つだけ分かるのは。

「すずちゃん、おいで」

 いつの間にか目を開けていた翔さんが布団を捲る。彼女には目もくれず、ひたすら私だけを真っ直ぐに見つめる瞳は綺麗で、澄んでいて。

「寒くない?これからはちゃんと服着て寝ないとね。でもすずちゃんの肌、気持ちいい」

 すりすりと胸元に頬を擦り寄せて、翔さんは私を抱き締める。目も耳も鼻も全て翔さんに占められた世界、さっきの彼女がどこに立っていて何をしているか分からない。怖いはずなのに、不思議。翔さんが目の前にいるだけで何もかもがどうでもいい。翔さんは少し体を起こすと、私の額に一つキスを落とした。

「すずちゃん、このまま二人だけの世界に行けるといいのにね」

 その言葉が、彼女に聞こえていたかどうか。翔さんなりの拒絶の言葉を、彼女は受け止められるのかどうか。……どうでもいいって思う私は、酷い女かな。翔さんの首に腕を回す。降ってくるキスに溺れながら、私は翔さんが自分だけのものなのだと実感していく。私は、翔さんのもの。翔さんは、私のもの。それだけが、一つ。明白なこと。

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