そばにいる

「すずちゃん、愛しすぎておかしくなっちゃいそうだよ」

 ぐったりとした私の体をぎゅっと抱き締め、翔さんが囁く。翔さんが宣言した通り、翔さんは私の体を離さなかった。体力も精力も半端ない。分かっていたけれど、いつにも増して翔さんは止まらなかった。
 ベッドがギシギシと軋む音が子守唄のように聞こえる。疲れたし、眠い。もう声も枯れて出ない。それなのに私の体内にある翔さんの自身は凶暴なほどの熱を持っていて。奥に来る度、息が出来なくなる。

「すずちゃん、愛してる。すずちゃんも言って」
「ん、あい、してる」

 でも無邪気に嬉しそうに笑う翔さんを見ると、何でも許してしまうから。私はまた掠れた吐息を漏らした。
 奥で吐き出される感覚も、もう何回目か。いつもは私の体を気遣ってくれる翔さんだけれど、今日はどうしてかそうじゃない。何だか切羽詰まったような顔で、また私の体を貪り始める。今欲望を吐き出したばかりのそれがまた復活してきて、私は目を瞬かせた。

「っ、かけるさ、」
「すずちゃん、愛してる」

 何度も何度も。呪文のようにその言葉を吐き出す翔さんは、何かに取り憑かれているようで。不安になって手を伸ばすと、いつもと同じ体温がその手を包んでくれるから安心する。

「……お願い、どこにも行かないで」
「え……?」
「俺を一人にしないで」

 まるで赤ん坊のように私のお腹に頬を寄せて、縋り付くように抱き締める。翔さんの柔らかい髪を撫でてあげたら、安心するように微笑んで。翔さんはそっと目を閉じた。
 体力も限界だった私はそのまま眠ってしまい、目が覚めた時翔さんもそのままの体勢で眠っていた。重い、でも離したくないな。そう思って頭をきゅっと抱き締めた。
 それからまた少し眠って、次に目が覚めた時翔さんがいなかった。ぐったりとした体は怠く、動かない。遠くからシャワーの音が聞こえた。その音が止まり、しばらくすると翔さんが部屋に戻ってきて。

「ごめん、すずちゃん。体平気?」

 我に返ったらしい翔さんに、安心して微笑んだ。翔さんは起き上がれない私の体を、温かいお湯に濡らしたタオルで丁寧に拭いてくれた。もう少し楽になったらお風呂で洗ってあげるからね、と泣きそうな顔で言われて。さっきまで様子がおかしかったのはやっぱり理由があるのだと思った。

「お腹空いてる?何か頼もうか」

 私に背中を向けてメニューを取ろうとした翔さんの背中に、そっと触れた。体温を伝えるように。

「翔さん、私どこにも行かないよ……?」

 翔さんはピクッと反応し、すごい勢いで振り向いた。そして私の手を握り、体を倒す。ぎゅうっと苦しいくらいに抱き締められて、私は重い腕を上げて翔さんの背中に回した。

「……少し、思い出したんだ」
「え?」
「お母さんに最後に会った日。真っ暗な公園だった。星も月も見えない、真っ暗な雨の日。お母さんの赤い傘が頭に焼き付いてる」

 それは、翔さんが初めて口にした過去の残像だった。私の首筋に何度もキスをして、翔さんは私の存在を確かめる。

「……ごめんね。もう平気。すずちゃんがそばにいてくれるから。平気」

 安心したように、柔らかく微笑んで。翔さんは目を閉じた。

「……少し……眠る……」

 翔さんが起きている時も、眠っている時も。ずっとそばにいてあげたい。そう思いながら、額にキスをした。

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