甘いキス

「翔くん、また来てね」
「帰っちゃ嫌ー!!」
「お、お兄様と呼ばせていただいても……」

 翌日、帰ろうとした翔さんの腕を掴んで泣きそうな祖母、母、妹。それはいいんだけど、久しぶりに会った私はどうでもいいのかな……?

「もう二度と来るな!俺だけはお前との結婚を認めないからな!」
「またお邪魔します、お兄さん」

 お兄ちゃんも翔さんの笑顔にやられてるし、何なのうちの家族。はぁ、とため息を吐きながら車に乗り込んだ。最後まで私に対してのコメントが誰からもなかったことに、私は少し拗ねている。

「すずちゃん、寄りたいところあるんだけどいい?」
「はい」

 寄りたいところってどこだろう。首を傾げながら、楽しそうに鼻歌まじりで運転する翔さんを見ていた。
 そこに着いた時には辺りは暗くなっていた。周りには私たちと同じようにカップルが沢山、そして皆寄り添っている。

「見て、綺麗でしょ」

 翔さんが指を差した先、山の下には息を呑むほどの夜景が広がっていた。うわぁ、とありきたりな声しか出ない。ここは翔さん曰くとても有名な夜景スポットらしい。山の上に公園があって、夜景を見るように整備されている。

「前に悠介たちと来たんだ。男四人で」

 ということは、女の人と来たことはないのかな。少し安心していると、翔さんが楽しそうに私の手を引く。街灯が少しあるだけで辺りは暗く、翔さんもいつもみたいに注目を浴びなくて。私たちは寄り添いながら黙って夜景を見ていた。
 それからどれくらい経っただろう。

「そろそろ帰ろっか」

 翔さんの言葉に小さく頷く。最後に頭に焼き付けるように夜景を見て、翔さんの手を握った。それにしても、暗いからかカップルが人目を気にしていない。抱き合ったり、キスしたり。雰囲気もあるしなぁと辺りを見回していたら、翔さんが不意に私を振り返った。

「すずちゃん、ここでなら人前でキスしていい?」

 翔さんは雰囲気に当てられるようなタイプじゃないだろうに、と不思議に思っているとぐいっと腕を引かれて腰を抱かれた。

「……いつも、外にいる時我慢してる。すずちゃんに触れたいの」
「っ、かけるさ、」

 いつにも増して翔さんの雰囲気が甘く感じるのは、もしかしたら私がこの雰囲気に当てられているからか。近付いてくる顔に目を瞑ってしまったのは、きっと。暗くて周りが見えないからだ。そう思いたい。
 何度か触れるだけのキスをして、翔さんは満足気に微笑みながらまた歩き出した。最近の翔さんは感情をよく表に出してくれるから嬉しいし少し可愛い。機嫌がいい時はスキップしそうなほどで、ニコニコしていて。そういえば翔さんがそうなったのは結婚が決まってからだから、それが理由なら嬉しいなぁと思う。
 駐車場に入った時、翔さんが突然立ち止まった。車はまだ先にあるのに、どうしたんだろう。そう思って翔さんの顔を覗き込もうとすると。翔さんが困ったように私を見た。

「ど、どうしたんですか?」
「どうしよう」
「え?」
「すずちゃんに触れたくて仕方なくなっちゃった」

 え?え?と戸惑う私の手を引いて、翔さんは足早に車まで行き、助手席のドアを開けてくれる。私が乗り込むとすぐに自分も乗り込んで、さっさと車を発進させた。

「翔さん……?」
「夜景見てたらさ、すずちゃんとこんな綺麗な夜景見れて幸せだなぁと思って。すずちゃんと出会えてよかったなぁと思ったんだ」

 話す翔さんの横顔は嬉しそうでも切なそうでもあり、ぎゅっと胸が締め付けられる。翔さんは綺麗な指でそっと私の手を包み、指が絡まっていく。そっと握り返せば、翔さんは安心したように私をチラッと見た。

「すずちゃんと出会えて、それで、もうすぐそのすずちゃんが俺の奥さんになってくれる。俺、本当に幸せだよ」
「翔さん……」
「そう考えてたらさ、すずちゃんが愛しくて仕方なくて、触れたくなった。ごめん、今日はどこかで泊まっていこう?」

 ドキンと心臓が高鳴った。翔さんの言っている意味が分かったから。毎日のように抱かれているのに、どうしてだろう。毎日毎日、翔さんにドキドキする。翔さんも、そう思ってくれていたらいいのにな。
 ホテルの部屋に入ると、すぐに後ろから抱き締められた。わっと驚いて変な声を出した私のことなど気にせず、翔さんは私の首筋に顔を埋める。身長差があるからこの体勢辛くないかなぁと思ったけれど、翔さんは安心したように息を吐いた。

「……愛してる、すずちゃん」

 甘く低い声が、耳を通って脳に届き、体が甘く痺れる。私もです、と鎖骨の辺りにある翔さんの腕をきゅっと握る。しばらくそのままでいると、翔さんが不意に呟いた。

「……ずっとこうしてたいって思うのに」
「え?」
「俺の体はこれだけじゃ満足できないみたい」

 お尻に固くなった翔さんの自身が押し付けられて、恥ずかしくて身を捩る。でも翔さんは私の手を握って、下着から取り出したそれを握らせた。

「っ、かけ、るさん……」
「ね、大きくなってるでしょ?すずちゃんの中に入りたいって」

 翔さんに手を握られたまま、手を上下させる。先端から溢れるトロッとした液体を指に塗りつけて、滑りをよくする。翔さんは甘い吐息を漏らした。

「すずちゃん、はぁ、このまま抱いていい?」

 わざと耳に息を吹きかけるように囁かれると、くすぐったさで体がピクンと跳ねる。思わずもう一方の手を壁に突いたら、翔さんの手がその手を握った。

「すずちゃん、こっち向いて」

 指が絡まる。手の中の翔さんは、更に質量を増していく。はぁ、と熱い息を漏らしながら振り向けば、翔さんに唇を奪われた。

「んっ、」

 体が熱くなっていく。自分の体の中心からトロリと液体が溢れてきたのが分かって、太ももを擦り合わせる。舌が絡まり、口内を蹂躙されるともう何も考えられなくて。唇が離れた時、トロンとした目で翔さんを見た自覚はあった。

「可愛い。エッチな顔」

 翔さんはそう囁くと、手を離して私のブラウスのボタンを外し始めた。中に着ているキャミソールはそのままに、その中の下着だけずらされる。どうするつもりだろうと見守っていたら、キャミソールにプクリと乳首が浮き出た。何だか裸になるより恥ずかしくて身を捩る。けれど翔さんの手がそれを許してくれるわけがなく、キャミソールの上から乳首を弾かれた。

「んんっ、」
「もっとエッチなことしてあげる」

 翔さんはそう言って、私の体を反転させた。向かい合わせになって、翔さんが目の前に膝立ちになる。そしてキャミソールの上から、乳首を舐め上げた。白いキャミソールだから、舐められると色が変わってくる。何度も舐め上げられ、キャミソールが透けて丸見えになってしまった。

「ん、可愛い」

 翔さんは微笑み、長い指でそこを弾く。恥ずかしくて、でも目が離せない。翔さんの髪をくしゃっと握れば、翔さんはふっと笑った。

「足、俺の肩に掛けて」
「え、」

 戸惑っている内に、右足を掴まれ翔さんの肩に掛けられる。びしょ濡れのそこが翔さんに丸見えで、恥ずかしい。翔さんは下着を除けると、そこに舌を伸ばした。お風呂入ってないのに、そう抵抗しようとしたけれど舌の感触に体が強張って動けなくなってしまう。穴に舌が入ってきて、舐め上げられて。敏感な突起を吸われると、膝が震えた。くちゅくちゅと卑猥な音を立てて、翔さんは丹念にそこに舌を這わせる。不安定な体勢なのも相まって、私の体は絶頂に押し上げられた。

「すずちゃん、挿れるよ」

 はぁはぁと肩で息をする私の足を掴んだまま、翔さんは立ち上がる。そしてそのまま挿入した。絶頂の余韻に浸っていた私は更なる快感に目を見開いて、でもしっかりと翔さんを受け入れる。わざとゆっくり抜き挿しを繰り返され、中が翔さん自身の形に変えられていく。気持ちよくて涙が目の端から溢れる。翔さんはその涙を舐めて、そのままキスをした。舌を絡ませ、全身で深く繋がる。素肌に触れられないのがもどかしくて、でもエッチで。全身がゾクゾクと震えた。一旦抜いて、後ろを向かされる。息をつく暇もなく、また入ってきた。

「あああっ、おっきい、」
「すずちゃん、気持ちいいよ」

 ゆっくりと、確実に。翔さんは何度も私の中に入ってきて、私に快感を植え付けていく。気持ちよくて立っていられなくて、でも腰をしっかりと掴まれているせいで座ることも出来ない。入ってくる度に体がふるふると震えて、翔さんのそれを締め付けてしまう。

「……ほんと、エッチな体」

 翔さんが上擦った声で呟く。翔さんが前に言っていたように、私はきっともう翔さん以外じゃ満足できないだろう。翔さんに開かれた体は、翔さんだけに反応する。濡れたキャミソールの上から、翔さんはまた乳首を摘んだ。きゅっと摘まれ、ピンと弾かれ、気持ちよくて子宮が疼く。

「すずちゃん、明日も休みだしゆっくりエッチしようね」

 翔さんの甘い囁きにまた体が熱くなって。一番奥に吐き出された欲望に、私はまた絶頂した。

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