写真

 突然知らない電話番号から携帯に電話がかかってきて、博也くんの事務所に呼び出された。当然芸能事務所など来たことがない私はとても不安で、博也くんのことを探した。もちろん博也くんはいない。

「突然お呼び立てして申し訳ありません」

 応接間みたいなところに連れて行かれて、そこで待っていたのは博也くんのマネージャーの利根さんだった。座ってくださいと勧められた高そうな革張りのソファーの前のテーブルの上に写真が置かれていた。

「……っ」

 それは、博也くんと私が手を繋いで歩いている写真だった。どうやら芦屋くんのバーを出てタクシーに乗り込むところを撮られたらしい。外で一緒に歩いたのは、そこしかない。

「こ、これ、」
「来週発売の週刊誌に掲載されます」

 覚悟がなかったわけじゃない。相手が相手だから、いつかこんなこともあるだろうと思っていた。でも、いざ現実となるとやっぱり怖かった。体がふわりと浮いて、まるでとても不安定なところに立っているかのような、そんな。

「北山さん、大丈夫ですか?」

 よほど青ざめた顔をしていたのだろうか。利根さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「とにかくお座りください。今後のことを話し合わないと」
「っ、はい……。あの、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 博也くんは人気商売だ。こんな記事が出ると、多少なりとも仕事に影響が出るだろう。

「いえ、三木村のことは大丈夫です。事務所から恋愛禁止されているわけでもありませんし」
「で、でもこの前香月さんと……」
「週刊誌に出るスキャンダルが全て事実ではないことはこの業界では周知の事実ですから、仕事に影響は全くありません」

 利根さんはハッキリそう言い切った。私を安心させるためでもあるかもしれないけれど。

「心配なのは北山さんです」
「えっ」
「一応あなたは一般の方ですから、顔は写りません。ですがあなたを知っている人が見れば分かると思いますし、悪意を持ってあなたのことを調べる輩も現れます」
「……」
「しばらくは私が送迎します。ホテルもこちらで手配しますので、申し訳ありませんがそこから仕事に通ってください」
「そ、そんな、利根さんの手を煩わせるわけには……」
「前に他の俳優に一般の方とのスキャンダルが出ました。その時、相手の方の家は特定されファンが押し寄せました」
「っ、」
「お願いします。三木村のためにも、あなたを危険な目に遭わせるわけにはいきません」

 私はまだまだ、覚悟が足りていなかったのかもしれない。

「そして、もう一つお話があるんです」
「はい……?」
「実は……」

 利根さんの深刻そうな顔に、悪い予感が止まらなかった。


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