お願い
「奈子ちゃんに会えない日々は地獄のような時間でした」
私を抱き寄せて、三木村さんがしんみりと呟く。本当に辛かったのが伝わってきて、不謹慎だけど嬉しくなる。
「そこで奈子ちゃんにお願いがあります」
「何ですか……?」
「ハメ撮りさせ」
「嫌です」
三木村さんの言葉をぶった切って即答した私に三木村さんが不満そうな顔をする。嫌に決まってるでしょ?!何に使われるか分かったもんじゃない!いや、本当は用途なんて一つしか思いつかないけどね!!
「お願い」
「可愛い顔してもダメです。恥ずかしいからやだ!」
三木村さんは顎に手を当てて考え込む。顔が綺麗な人が真剣な顔をすると破壊力がすごい。頭の中は煩悩だらけなのが玉に瑕だけど。
「じゃあ、ハメ撮りは今回は諦める」
今回はって聞こえた気がするけど聞かなかったことにする。
「その代わり、俺の妄想を叶えてほしい」
「妄想……?」
「会えなかったこの数週間、俺はまた妄想の中で奈子ちゃんといーっぱいえっちなことしたんだ」
ま、まあそれは、私もしましたけど……。
「その妄想で奈子ちゃんにしてもらったこと、現実でもお願いしたい」
「う、た、例えば……」
「それはホテルに着いてからのお楽しみでしょ」
三木村さんはとっても楽しそうに笑う。運転席の方から深い深いため息が聞こえてきた気がするけれど、気のせいだと思うことにした。
***
「おかえりなさいませ、三木村様、北山様」
「田所さん久しぶり〜」
いつものホテルで田所さんにご挨拶する。三木村さんはフロントに行くと、いくつか朝食を頼んだ。明日の朝に、二人分。
「あ、あといつも通り、新しいシーツ運んでね」
「かしこまりました」
出来ればそれは私のいないところで頼んでほしかった……。私の羞恥心など知らない三木村さんは、機嫌良さそうに私の手を引いてエレベーターに乗る。その時の鼻歌がうちの会社のCMに使われているBGMだったから少し驚いた。
「奈子ちゃん、連絡してない間ちゃんとご飯食べてた?」
「うん、忙しかったけど、三木村さんに心配させたくないからちゃんと作って食べてたよ」
「はぅ……!俺の彼女可愛すぎない……?!」
胸の辺りを押さえて悶える三木村さんに苦笑いしていると、チン、と音がしてスイートルームに到着した。三木村さんはスキップでもしそうな勢いで部屋に入る。そして連れて来られたのは洗面所だった。
「まず一緒にお風呂に入りまーす。はい、奈子ちゃん。自分で服脱いで。俺に見せ付けるみたいにね!」
もう三木村博也妄想プレイは始まっているようだ……。