びっくりしたこと

「そう言えばさぁ、奈子ちゃん。俺たち5年ぐらい前に一回会ったことあるんだよ」
「えっ……?!」

 こんなイケメンに会ったことあったら覚えてるはずだけど……。振り向いてマジマジと三木村さんの顔を見つめる。うーん……

「俺ね、まだ若手の頃、奈子ちゃんの会社のCMに出たことあるんだ」
「その頃はね、芸名で活動してた。神木ヒロ」
「……あ!!」

 覚えてる!なんかちょっとチャラい感じの……。今の三木村さんは黒髪だし、日焼けしてた肌も今は色白だし、全然雰囲気が違う。
 私が入社後開発したもので初めて商品化まで漕ぎ着けた飴。バーで三木村さんに初めて会った時、渡した飴だ。
 あの時、初めて自分が開発した飴が商品になったのが嬉しくて、CMも見学に行かせてもらったのだ。その時に出演してくれた俳優さんの名前は、神木ヒロ。

「俺さ、あの頃悩んでたんだ。なかなか芽は出ない、CMも俺は脇役で主役は女優。俺この仕事続けていいのかなって」
「そうなんだ……」
「そんな俺にさ、奈子ちゃんが言ったんだ。これ食べて元気出してくださいって。それだけ、ほんとにそれだけなんだけど、奈子ちゃんが首から下げてた社員証の名前ガン見した」

 うーん、覚えてない。飴あげたっけ?多分配ってたんだろうなぁ。嬉しかったから。

「食べてみたら、奈子ちゃんみたいに優しくて甘くて爽やかな飴でさ。飴も奈子ちゃんも忘れられなくなっちゃった」

 バーで飴を渡した時、固まっていたのはそういうことなのかな。

「俺さ、必死だった。仕事頑張ったらまた奈子ちゃんに会えるかなって。同時に奈子ちゃんも探したかったけど、会社に問い合わせるわけにもいかないし、今なら他の手段思い付くけど若かったし。どんどん忘れていくんだ。顔も、声も。諦めかけた時、尚のバーで奈子ちゃんがあの飴くれた。一気に思い出した。顔、声、香り。この子だって、俺、奇跡だって思った」

 何だか不思議だった。私は当然三木村博也を知っていたけれど、そんな有名な人に、ずっと覚えられていたなんて。

「奈子ちゃんはほんと、俺の想像以上の人だった。可愛くて、優しくて、温かくて……」
「まだ、全然知らないのに……」

 ぎゅうっとお腹に回された手の力が強くなる。肩に、首筋に、ほっぺたに、唇が落とされる。

「幻滅するかも。ほんとはちょっとお口悪いし、だらしないし、仕事中は髪もボサボサだし……」
「どんな奈子ちゃんも可愛いと思う自信しかないなぁ」
「ほんとに……?」
「うん。あ、一個びっくりしたことはあったかな」
「え?」
「めっちゃくちゃえっちだった!!」
「っ、三木村さんのせいなのに……。嫌になった?」
「そんなわけないじゃん!!!最高!!!」

 その後お風呂でまたえっちしちゃって、のぼせてへろへろになったのは言うまでもない。


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