知らなかった顔

 ヤスくんの恋人に見せる顔を、ずっと見てみたいと思ってた。どんな顔をするんだろう。どんな目で見るんだろう。どんな触れ方をするんだろう。彼女がいたことがあるのはもちろん知っていたけれど、彼女といるのを見たことはない。私が見ないようにしていたというのもあるけれど。
 そんな、ずっと好きだったヤスくんと恋人同士になれて気付いたこと。ヤスくんは、私が想像していた以上にデロ甘だ。

「唯香ー、ただいまー」

 酔っ払った時は特に。ヤスくんが本社に戻って来てから、私たちは一緒に住むことになった。一年前にプロポーズしてくれたから、新居は結婚してから探すことになったけれどもうすぐだからヤスくんがこっちで部屋を借りるのは勿体無いということで私が住んでいたアパートで。少し狭いけれどそれでも一緒にいられるのは嬉しい。
 今日はヤスくんの歓迎会が開かれたらしい。本社に戻って来てから部署が変わって、私は違う部署だから行かなかった。帰って来たヤスくんは私の顔を見るなりヘラッと笑って私の肩にもたれてきた。

「っ、重いよ、」
「んー、ただいまー」
「……うん、おかえり」

 こうやってただいまって言われておかえりって返す。こんな些細なことがとても幸せだ。幸せに浸っていたら、ヤスくんが私を見上げていた。

「な、なに?」
「唯香嬉しそうな顔してる」
「えっ、うん、だって幸せだし」
「唯香ってほんと可愛い」

 今までただ甘かっただけの顔が、急に男の人の色気を纏う。戸惑っている間にちゅ、と柔らかく唇が触れて。すぐにキスは深くなった。

「んっ、あ……」
「……可愛い声」

 ヤスくんの大きな手が服の中に入ってきて背中を撫でる。ゾクゾクとして唇が離れかけると、すぐに後頭部を押さえられて更に深く交わった。
 思わずぎゅっと握ったスーツ。ちゅくちゅくといやらしい音を立てて舌を絡めてくるヤスくんに未だに緊張するのは、まだヤスくんが「憧れの人」という感覚が残っているからだと思う。少しだけ目を開けたら、蕩けるような目で私を見つめているヤスくんと目が合った。も、もしかして見てたの……?!

「っ、はぁ、見、ないでよ、」
「感じてる唯香可愛いから」

 可愛い、可愛い可愛い可愛い可愛い。二人きりの時、ヤスくんはとにかくその言葉を連呼する。その度に私はドキッとして、嬉しくなって。悔しいほどに私の心臓はヤスくんに従順なのだ。
 背中を撫でていた手は器用にブラのホックを外して、前に回る。ヤスくんの大きな手が胸を包んで、はぁと甘い吐息が漏れた。

「や、すく……っ」
「唯香、おいで」

 ヤスくんの首に腕を回して抱き付くと、ヤスくんは軽々と私を抱き上げた。何度もキスをしながらベッドに向かう。狭いアパートに住んでいてよかったと思ったのは秘密。
 私をベッドに降ろすと、ヤスくんはスーツを脱いでシャツも脱ぎ捨てた。ああ、スーツ皺になっちゃう。そんなことを考えたのも一瞬。ヤスくんは私の服に手を掛け、あっという間に脱がせてしまった。
 素肌で触れ合うと、何だか安心する。ヤスくんの体温を直に感じて、わざと体全部が密着するように擦り寄る。ヤスくんは私を優しく抱き締めて、甘いキスを何度も繰り返した。

「ヤスくん……」
「ん?」
「好き……」
「……ん……」
「大好き」
「……俺も」

 甘く微笑んだヤスくんのキスが降りて行く。顎、首筋、胸、お腹。その度にピクンと揺れる体。私とは違う男らしい肩や腕が、私の体をすっぽりと包み込んで。反応する体もヤスくんには筒抜けだ。
 ヤスくんはセックスをする時、絶対に私の体を離さない。いつも抱き締める。必ずどこかが触れていても足りないのだと、そう言っていた。私がどれだけ幸せを感じているか、ヤスくんは分かっているかな。

「あっ、あ……」
「唯香、こっち見て」

 ヤスくんの舌が胸に伸びる。いやらしく唾液をたっぷりと絡ませて、濡れていく。ペロペロと舐めて、吸って、勃ち上がったそれをコリコリと弄って。私の体はいやらしくヤスくんの舌に責められるそれを見て、また疼く。

「やら、しいよ……んっ、んんっ、あっ」
「唯香のほうがやらしいよ」

 ふっと微笑み、ヤスくんは顔を離した。ヤスくんに責められたそこは痛いくらいに勃ち上がって真っ赤になって、それでもまだ次の刺激を求めてピクピクしていた。恥ずかしくて、でも目を逸らさなくて。どうしよう、私、もっとエッチになっちゃいそう。ヤスくんが欲しくてたまらない。
 下半身もあっという間に裸にされて、明るい中でじっくりと見られる。恥ずかしいのに止められなくて、私は自ら足を開いた。

「唯香のここ、すごく濡れてる。触って欲しい?」

 真っ赤になりながらコクンと頷く。ヤスくんはふっと笑って、スラックスを脱いだ。ボクサーパンツの上からでも分かる。ヤスくんのそれも大きくなって上を向いていて。コクンと息を呑んだら、ヤスくんは更に色気を纏った。

「あ、また濡れた。何想像したの?」

 ヤスくんは普段優男っぽいのにこういう時は少し意地悪になる。それも、発見なんだけど。私も私で、どうしたらヤスくんがもっと興奮するか、知ってるんだから。

「っ、ヤスくんの、意地悪……っ」
「ん?」
「ヤスくんだから、こうなるんだよ……?」
「……知ってる」

 ヤスくんは私が素直になると弱い。現に今も喉仏が分かりやすいくらいに上下した。動きが性急になる。私は更に手でそこを開いた。

「んっ、恥ずかしい……」
「……っ、」

 我慢できないといったようにヤスくんはそこに吸い付く。それまで小賢しい作戦を取っていた私も何も考えられなくなる。激しく責め立てられて、ビクンビクンと体が揺れる。甘い嬌声が途切れることなく口から漏れる。足の指の先まで力が入って、ピンと伸びる。

「あっ、あっ、ああっ、イく……っ」

 その瞬間、指が中に入ってきて。目を見開いて唇を噛む。頭の中には気持ちいい、それしかなくて。イキたい、もう、イキそう……っ、

「あっ、や、ヤスく……、イく……!」

 ビクンと体が強張って。頭が真っ白になって。次の瞬間、波みたいに快感が押し寄せてきた。ハァハァと肩で息をする。体が怠い。弛緩した私の脚をヤスくんは掴んで、そして勃ち上がったそれを一気に挿入した。イッたばかりの私は目を白黒させてまた軽くイく。きゅうっとヤスくんのそれをキツく締め付けて。あっ、あっ、とか細い声しか出ない。ヤスくんは私の頭を撫でて、視線を合わせた。

「ずっとイッてる?気持ちいい?」
「っ、あっ、あっ……」
「俺も唯香のナカ、すっげー気持ちいいよ」

 ゆるゆると腰を動かして、ヤスくんは唇を合わせる。全部ドロドロだ。思考も、体も。

「唯香、可愛い」

 いくら私が作戦を立てても。結局私のヤスくんを好きだという気持ちが大きすぎて絶対に勝てない。どんなヤスくんも、大好きなの。誰にも負けない。子どもの頃からずっと好きなんだから、重量級だよ。

「唯香、好きだよ」

 甘い言葉が耳から入って身体中に浸透していく。私は今ヤスくんに抱かれてるんだって実感する。怖いほど感じる。それはきっと、私のこの重い気持ちが一方通行じゃないから。ヤスくんに愛されてるって、ちゃんと感じるから。

「あっ、ん、ヤスく、気持ちい……」
「ここが好き?それともこっち?」
「ああ、んっ、どっちも、気持ちいよ……っ」

 私の更に気持ちいいところを探るみたいにヤスくんは動く。目はギラギラしていて野獣みたいなのに、口調は甘くて優しくて。気持ちいい、心地いい。

「唯香」

 名前を呼ばれるだけでゾクゾクする。獣みたいに激しく、それでも優しく甘く、愛し合って交わって。

「っ、唯香……っ」
「あっ、ヤスくん……!」

 私たちは同時に果てた。

***

「酔ってなかったの?」
「酔ってたよ。さすがにもう冷めたけど」

 私の体を綺麗にして、自分の体も綺麗にして。全部終わるとヤスくんは水を飲みにキッチンへ行った。

「唯香も飲む?」
「ううん、大丈夫」

 体が怠くて起き上がるのも辛い。トイレ行きたいな。

「トイレは?」
「んー」
「おいで」

 ヤスくんが私の腕を引っ張って起こすと、そのまま抱っこしてくれた。セックスの後は過保護なくらい甘やかしてくれる。ああ、今だけじゃないか。さすがにトイレはないけど。ヤスくんはいつも過保護だ。
 唯香だからだよってヤスくんは笑う。今までの彼女にはこんなに過保護じゃなかったってこと?私には子どもの頃から過保護だったのに。
 トイレが終わるとヤスくんはまた抱っこしてベッドまで連れて行ってくれる。その時にパンツを履かせてくれて、服も着せてくれようとするけれど、服を着るとヤスくんに素肌で触れられないから嫌がる。するとヤスくんは風邪引くなよって困ったように笑って私の体を包み込んでくれる。これが、幸せなんだ。

「ヤスくんってエッチももっと淡白なのかと思ってた。意外」
「その言い方だと普段淡白みたいじゃん!んー、何か、唯香見るとムラムラってして燃える」
「ロリコン」
「お互い大人だから!そんなこと言ったら唯香はおじさん好きになるよ?」
「30なんておじさんじゃないよ。それにおじさんになっても好きだし」
「……もう一回する?」
「もう寝る」
「冷たいなー。でもいいや。明日も明後日も明々後日も毎日できるし」
「生理あるから」
「クール!!」

 暖かいヤスくんの腕の中で、胸に顔を埋めて目を瞑る。セックスも気持ちいいけど、これも気持ちいい。心も体も、私の全てがヤスくんを好きだって言ってるんだ。

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