座敷わらしじゃないよ舞子だよ

「三上が何を考えているのか分からない……」
「舞子ちゃん、はい、あったまるよ」
「ありがとう……」

 人一人分空けて隣に座った辰巳くんは、私に缶コーヒーを渡してくれた。確かに温かい。冷たくなってしまった心が少しだけ解れる。
 立ち尽くしていた私に声をかけてくれたのは辰巳くんだった。私は辰巳くんに促されるまま会社近くの公園に来て、ベンチに座った。頭の中は白いモヤがかかったみたいにぼんやりしたままだった。

「辰巳くん、三上の考えてること分かる?」
「ごめん。俺彼氏じゃないからそこまではちょっと」
「だよねぇ……」
「でも言葉が足りてないことは分かるよ」

 言葉?意味が分からずポカンと口を開けて辰巳くんを見ると、辰巳くんはプッと吹き出した。この場合の「舞子ちゃん可愛いね」は褒め言葉じゃないと私にも分かる。

「きっと彼氏は舞子ちゃんのことがすごく好きなんだね」

 本当に?じゃあ何で突き放すの?私が三上のこと好きだって言ってるのに何で冷たくするの?本当は私に呆れたんじゃない?家事もできない、三上に頼ってばかりの私に。
 涙がみるみるうちに目の中に溜まってきて、私はそれをこぼさないように必死で歯を食いしばった。

「恋愛なんてさ、分かんないことばっかだよ。後悔することも多い。舞子ちゃんは彼氏のこと好き?」

 首をブンブンと縦に振る。辰巳くんはふんわりと微笑んだ。この人は、人を落ち着かせるのが上手い人だと思う。穏やかで、空気が澄んでいる。

「ちょっとずつちょっとずつ分かっていけばいいんだよ。一緒にいて、話して、相手の気持ち聞いて、自分の気持ちも言って。どうしても理解できないことがあるなら無理に飲み込まなくていいけど、本当に好きで一緒にいたい人なら、きっと一緒に乗り越えていけるはずだよ」

 また、三上を好きになった理由を考える。優しい人だということはずっと知っていた。イケメンなことも、ハイスペックなことも、面倒見がいいことも、笑顔が可愛いことも。でもずっと友達だった。同期だった。
 三上に突然プロポーズされたあの日。このまま婚活しててもどうせ上手くいかないし諦めて、告白してくれたハイスペックな同期ならいいか、なんて打算的な考えがあったのは事実。……でも、でも。

「三上ってね、すごく優しいの」
「うん」
「キスの時もエッチの時も、私が嫌がること絶対しないの」
「そっか」

 ただの同期の時には知らなかったこと。色っぽいところだったり、触れる手がすごく熱いところだったり、キスが上手い。もっともっと、触れて欲しくなって……

「私、三上のこと分かりたい」
「うん」
「離れるの嫌だ。他の女の人に三上を取られるのもぜっっっったいに!いやだ!」
「はは、そうだね」

 さっと立ち上がる。私は辰巳くんの方を向いて、頭を下げた。

「ありがとう、辰巳くん。何だかすごくスッキリした。辰巳くんには占い師さんが向いてるよ」
「えっ、そうかな」
「うん、ガポガポ稼げると思う!」
「あれ、それ悪い占い師さんだね」
「私、三上のとこ行くね!」

 ちゃんと、話さないと。三上の気持ちは三上に聞かないと分からない。一人でウジウジ考え込んでいてもネガティブになるだけで、正解なんて出ない。私は、三上とこれからも一緒にいたいのだ!

「辰巳くんもきっと幸せになれるよ!」
「うん、捕まえようとしてるところだよ」

 そう言った辰巳くんの背後にちょっと黒いオーラが見えた気がするけれど、漫画の見過ぎだなと誤魔化して手を振った。ニコッと微笑んでくれた辰巳くんにまた勇気を貰い、走る。そして大通りでタクシーを捕まえた。ドラマじゃないんだから。走らないでタクシー乗るよ。そのほうが早いじゃん。
 タクシーの中で運転手さんに「お嬢さん、何だか嬉しそうだね」と言われた。「これから彼氏に会いに行くんです」と答えた。さっき三上の冷たい態度に撃沈したばかりなのに、こんなにウキウキできるのは私の長所だと思う。切り替えが早い。

「近道してあげるね」

 運転手さんはそう言って抜け道を使ってくれた。ただ私は土地勘があまりないから本当に近道かどうかは分からない。でも運転手さんにまで勇気を貰えたみたいで嬉しかった。

「着いたよ」
「ありがとうございます!」

 見慣れた三上のマンション。私はお金を払って颯爽と降り立った。オートロックなのでまず三上に開けてもらわないとマンションにすら入れない。三上の部屋番号を押すと、カメラに映っているのだろう、三上の「は?何で?」って声が聞こえた。

「話したいから開けて。開けてくれないと全裸でここに朝までいるから」
「ほんとにやりそうで怖いわ。迎えに行くから待ってて」

 一人で部屋まで行けるのに。三上はやっぱり優しい。
 その場に座り込んで待っていると、しばらくしてドアが開いた。

「座敷わらしかよ」

 見なくても分かる。三上の声だ。私はバッと立ち上がった。「うわっ」と三上が声を上げた。三上に飛び付いた。首筋にぎゅうっと抱き付く。

「三上ぃ、大好きだぁぁぁ」

 泣いちゃうよ。だって、三上の匂い安心するんだもん。

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