1000hit記念企画
キスで目覚めるらしい?03
「酒が入ったままで風呂に入るアホがいるか!!」
私の耳元で、まるで作戦隊長のような大声で怒鳴るのは間違いなくボスだ。ない力を振り絞ってそっと顔を見る。戻ってる。いつものボスだ。水を吐きながら、ボス、と呼べば般若のような顔をして私を見る。
「私、ボスを呼んでいたんです。そしたら来てくれた」
「ああ、てめえが風呂に入った段階で嫌な予感はしていた」
「あの」
「体を拭くぞ。また風邪をひく」
彼はそう言って手際よく私の体を拭いていく。アルコールが回りすぎたのか体がうまく動かないから、ありがたいけれど、異性に、よりにもよってボスに体を見られているのは恥ずかしい。それに、いくら女でも力の入らない女の全身を拭くのは重労働でしょうに。
「重くないですか」
「あ?」
「私、今、力がうまく入らないので」
「ウエイトが足りてねえ。もっと食って動いて筋肉つけろ」
「あは、足りてないですか……」
確かに同年代の同じくらいの身長の、スポーツをしている女子に比べて体重は重くないから、筋肉は足りてないのだろう。最近は少しお腹周りが柔らかくなってきた気もしている。
「下着取りに行ってやる。ついでに医者も呼んできてやる」
そう言って私をソファに寝かせ、自分は私のクローゼットから服や下着を見繕って腕にかけていく。よく見たらボスも裸だ。9代目のボンゴレ奥義を受けたときについたという古傷もはっきり見える。ん?裸?
「うわっボスも裸!?」
一瞬火事場の馬鹿力的に動かした筋肉はアルコールの薬理であっという間に解ける。体はまたソファの座面に逆戻りした。ボスは内線で誰かと、多分医務班長と会話した後で呆れたようにこっちを見ていた。
「今更か」
「私は大丈夫なので、ボスも体を拭いてください」
「一人で服を着られるのならその間に体を拭いてやる」
「風邪ひきます」
「てめえほどヤワじゃねえよ」
「でも」
「るせえ」
押し問答を一方的に打ち切られ私はされるがままに服を着せられる。全て着せ終わってボスはやっと自分の体を拭いた。私は人の裸を直視する趣味はないので、目を閉じていた。大体音がやんだタイミングで目を開けてチラとボスを見る。彼は私が横たえられたソファの向かいにあるローテーブルに浅く腰掛けている。すごい筋肉だ。
「あの……ごめんなさい」
ボスは何も言わない。ただ、静かに私を見ていた。私は出来る限りボスの下半身を見ないようにしながら言葉の続きを口にする。
「ボスがカエルになったからって本質は変わらないのに、気絶したり存在をなかったコトにしようとしたりしてごめんなさい」
ちらりとボスの目を見る。その目には怒りの色は見えなかったが怒りとは違う激情が渦巻いているような気がした。一歩、また一歩と私とボスの距離が詰まっていく。少し距離を起きたいけれど、私は未だソファから一歩も動けない。
「気にしてねえ」
「酷いことしたのに、助けてくれて、ありがとうございます」
「てめえは崖に向かって突っ走る糞ガキと変わらん。一瞬たりとも目が離せねえ」
その言葉に色々なことを思い浮かべる。この世界における全ての発端になったリーファーコンテナ閉じ込め、熱を出してスクアーロ作戦隊長の胃に穴を開けかけたり、雪山で遭難してたり、変な事件に首を突っ込んで死にかけたり、今度はアルコールが回って浴槽に沈んでいた。これでは糞ガキ呼ばわりされても仕方ない。
「面目ないです」
「仕事は出来るくせして、自分のことはなっちゃいねえ。……いっそ部屋移すか」
雲行きの怪しくなってきた話に思わず口を突っ込もうとすると唇をそっと塞がれた。自分の体温よりも熱い、唇。誰のものかなど考えるまでもない。目の前であくどい笑顔を浮かべているこの男のものに他ならない。息がかかるほどの近距離。心臓が早鐘を打つ。顔が熱いのはアルコールのせいだけじゃない。
「オレの部屋の隣は開いているぞ。面倒も見てやる」
「いえ、結構です。というか面倒を見るのはメイドさんでは」
「そうか。気が変わったら言え。てめえの荷物の少なさならすぐに済む」
不穏な熱を孕んだにらみ合いは医務班長がやってくるまで続いた。
*
「ところで、ボスはどうやって戻ったんですか」
医務班長が持ってきた服に袖を通すボスの背中に聞いてみれば、着替えの手が止まった。マズいことを言ってしまったのだろうか。私は処置を受けている。と言ってもたかが(これで死にかけたのは恥ずかしい話だが)アルコールの過剰摂取なので点滴を受けて寝るだけというものなので、意外と暇なのだ。若さ故かおもったよりも回復が早かったし。
「覚えてねえのか」
「え?」
こころなしか、ボスの機嫌が1段階悪くなったように思える。えっとこの場合は覚えていないことで機嫌が悪くなったということだから、一体何だ?私は何をした?
「キスだ」
「はっ?」
「キスをした。おめえが、カエルのオレにな」
絶句する。風呂に入って急激にアルコールが回っていたから思い切りが良くなっていたのだろうが、そこまでするとは。水の中に居た時の記憶を掘り起こそうとするもうんともすんとも言わない。アルコールが記憶を寸断してしまったらしい。決して酒に弱い部類ではないのだが、まあ部屋に転がっていたカルヴァドスまるまる一本を飲んで風呂に入る暴挙に及べば、こうもなるだろう。つくづくあの時はどうかしていたとしか思えない。しばらく酒は控えようそうしよう。
そうか、初キスはボス(カエル)なのか。意中の異性とキスできたことを喜べばいいのか。それでボスももとに戻ったんだ。それでよかった。うん。
なんとなく釈然としない気分で黙り込むと、機嫌が悪いと思われたらしい。ボスが私が寝かされているベッドのすぐ近くに座った。そして彼は何を思ったのか、私の唇を指でなぞる。出来心で甘噛みするとくっと小さく笑う声がした。かかったなと言わんばかりに口の中で指を動かすボス。ぺっと指を吐き出すと、ボスはその指を自分でくわえた。引きつった表情で固まる私を心底面白そうに見ている。えっと、ボスの口の中で私の唾液とボスの唾液が混じって……ハァ?
「あの、ボス、一体何の心境の変化でしょうか」
「てめえの鈍さに待ちくたびれた結果だ」
「はあ」
え?キスしたらタガが外れたって一体どういうことなんですかボス。ちょっと童貞力高すぎませんか?いや、さっきから私にやっていることは童貞からかけ離れた行為だが。というかボスが童貞じゃないのは知ってるぞ!ネタは作戦隊長から上がっているんだからな!
カオスな思考に雁字搦めになって固まる私を余所に、ボスはかなり機嫌がいい。何があったのかはさっぱりわからないが、ご機嫌が麗しいことはいいことだ。主に作戦隊長の被る被害が軽減されるという点において。
……でも顔とか胸とかお腹とか私の体のあちこちを触るのは恥ずかしいからやめてほしい。やめてほしいとは思うのだが、彼がやたら楽しそうだから、止める声も勢いがなくなってしまうから困る。こうなってしまうと、私の部屋がボスの部屋の隣になる時はそう遠くない気がする。
私の耳元で、まるで作戦隊長のような大声で怒鳴るのは間違いなくボスだ。ない力を振り絞ってそっと顔を見る。戻ってる。いつものボスだ。水を吐きながら、ボス、と呼べば般若のような顔をして私を見る。
「私、ボスを呼んでいたんです。そしたら来てくれた」
「ああ、てめえが風呂に入った段階で嫌な予感はしていた」
「あの」
「体を拭くぞ。また風邪をひく」
彼はそう言って手際よく私の体を拭いていく。アルコールが回りすぎたのか体がうまく動かないから、ありがたいけれど、異性に、よりにもよってボスに体を見られているのは恥ずかしい。それに、いくら女でも力の入らない女の全身を拭くのは重労働でしょうに。
「重くないですか」
「あ?」
「私、今、力がうまく入らないので」
「ウエイトが足りてねえ。もっと食って動いて筋肉つけろ」
「あは、足りてないですか……」
確かに同年代の同じくらいの身長の、スポーツをしている女子に比べて体重は重くないから、筋肉は足りてないのだろう。最近は少しお腹周りが柔らかくなってきた気もしている。
「下着取りに行ってやる。ついでに医者も呼んできてやる」
そう言って私をソファに寝かせ、自分は私のクローゼットから服や下着を見繕って腕にかけていく。よく見たらボスも裸だ。9代目のボンゴレ奥義を受けたときについたという古傷もはっきり見える。ん?裸?
「うわっボスも裸!?」
一瞬火事場の馬鹿力的に動かした筋肉はアルコールの薬理であっという間に解ける。体はまたソファの座面に逆戻りした。ボスは内線で誰かと、多分医務班長と会話した後で呆れたようにこっちを見ていた。
「今更か」
「私は大丈夫なので、ボスも体を拭いてください」
「一人で服を着られるのならその間に体を拭いてやる」
「風邪ひきます」
「てめえほどヤワじゃねえよ」
「でも」
「るせえ」
押し問答を一方的に打ち切られ私はされるがままに服を着せられる。全て着せ終わってボスはやっと自分の体を拭いた。私は人の裸を直視する趣味はないので、目を閉じていた。大体音がやんだタイミングで目を開けてチラとボスを見る。彼は私が横たえられたソファの向かいにあるローテーブルに浅く腰掛けている。すごい筋肉だ。
「あの……ごめんなさい」
ボスは何も言わない。ただ、静かに私を見ていた。私は出来る限りボスの下半身を見ないようにしながら言葉の続きを口にする。
「ボスがカエルになったからって本質は変わらないのに、気絶したり存在をなかったコトにしようとしたりしてごめんなさい」
ちらりとボスの目を見る。その目には怒りの色は見えなかったが怒りとは違う激情が渦巻いているような気がした。一歩、また一歩と私とボスの距離が詰まっていく。少し距離を起きたいけれど、私は未だソファから一歩も動けない。
「気にしてねえ」
「酷いことしたのに、助けてくれて、ありがとうございます」
「てめえは崖に向かって突っ走る糞ガキと変わらん。一瞬たりとも目が離せねえ」
その言葉に色々なことを思い浮かべる。この世界における全ての発端になったリーファーコンテナ閉じ込め、熱を出してスクアーロ作戦隊長の胃に穴を開けかけたり、雪山で遭難してたり、変な事件に首を突っ込んで死にかけたり、今度はアルコールが回って浴槽に沈んでいた。これでは糞ガキ呼ばわりされても仕方ない。
「面目ないです」
「仕事は出来るくせして、自分のことはなっちゃいねえ。……いっそ部屋移すか」
雲行きの怪しくなってきた話に思わず口を突っ込もうとすると唇をそっと塞がれた。自分の体温よりも熱い、唇。誰のものかなど考えるまでもない。目の前であくどい笑顔を浮かべているこの男のものに他ならない。息がかかるほどの近距離。心臓が早鐘を打つ。顔が熱いのはアルコールのせいだけじゃない。
「オレの部屋の隣は開いているぞ。面倒も見てやる」
「いえ、結構です。というか面倒を見るのはメイドさんでは」
「そうか。気が変わったら言え。てめえの荷物の少なさならすぐに済む」
不穏な熱を孕んだにらみ合いは医務班長がやってくるまで続いた。
*
「ところで、ボスはどうやって戻ったんですか」
医務班長が持ってきた服に袖を通すボスの背中に聞いてみれば、着替えの手が止まった。マズいことを言ってしまったのだろうか。私は処置を受けている。と言ってもたかが(これで死にかけたのは恥ずかしい話だが)アルコールの過剰摂取なので点滴を受けて寝るだけというものなので、意外と暇なのだ。若さ故かおもったよりも回復が早かったし。
「覚えてねえのか」
「え?」
こころなしか、ボスの機嫌が1段階悪くなったように思える。えっとこの場合は覚えていないことで機嫌が悪くなったということだから、一体何だ?私は何をした?
「キスだ」
「はっ?」
「キスをした。おめえが、カエルのオレにな」
絶句する。風呂に入って急激にアルコールが回っていたから思い切りが良くなっていたのだろうが、そこまでするとは。水の中に居た時の記憶を掘り起こそうとするもうんともすんとも言わない。アルコールが記憶を寸断してしまったらしい。決して酒に弱い部類ではないのだが、まあ部屋に転がっていたカルヴァドスまるまる一本を飲んで風呂に入る暴挙に及べば、こうもなるだろう。つくづくあの時はどうかしていたとしか思えない。しばらく酒は控えようそうしよう。
そうか、初キスはボス(カエル)なのか。意中の異性とキスできたことを喜べばいいのか。それでボスももとに戻ったんだ。それでよかった。うん。
なんとなく釈然としない気分で黙り込むと、機嫌が悪いと思われたらしい。ボスが私が寝かされているベッドのすぐ近くに座った。そして彼は何を思ったのか、私の唇を指でなぞる。出来心で甘噛みするとくっと小さく笑う声がした。かかったなと言わんばかりに口の中で指を動かすボス。ぺっと指を吐き出すと、ボスはその指を自分でくわえた。引きつった表情で固まる私を心底面白そうに見ている。えっと、ボスの口の中で私の唾液とボスの唾液が混じって……ハァ?
「あの、ボス、一体何の心境の変化でしょうか」
「てめえの鈍さに待ちくたびれた結果だ」
「はあ」
え?キスしたらタガが外れたって一体どういうことなんですかボス。ちょっと童貞力高すぎませんか?いや、さっきから私にやっていることは童貞からかけ離れた行為だが。というかボスが童貞じゃないのは知ってるぞ!ネタは作戦隊長から上がっているんだからな!
カオスな思考に雁字搦めになって固まる私を余所に、ボスはかなり機嫌がいい。何があったのかはさっぱりわからないが、ご機嫌が麗しいことはいいことだ。主に作戦隊長の被る被害が軽減されるという点において。
……でも顔とか胸とかお腹とか私の体のあちこちを触るのは恥ずかしいからやめてほしい。やめてほしいとは思うのだが、彼がやたら楽しそうだから、止める声も勢いがなくなってしまうから困る。こうなってしまうと、私の部屋がボスの部屋の隣になる時はそう遠くない気がする。
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