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甘い余韻に包まれたまま、朝を迎えた。
小鳥のさえずりが心地よく耳に入ってくる。
「お嬢様、朝でございます」
清澄な目覚めを遮るように頭上から声が飛んだ。
ゆっくり目を開けると、すっかり執事顔に戻った創が私の肩をそっと揺すっている。
いつの間にか乱すことなく服が着せられていることに気付いて、私はハッと起き上がった。
「あれ…私の部屋?いつの間に…?って……昨日のことは、夢じゃないよね?」
そんな私の独り言に、くすくすとおかしそうに創が笑って。
香りの良いモーニングティーをテーブルに置き、耳に顔を近づけて小声で言う。
「三度目のお姫様抱っこはありませんよ?お嬢様」
「……っ!」
やっぱり、夢なんかじゃなかったみたい。
恥ずかしいような、ホッとしたような。
くるくる表情を変える私を創は楽しげに眺め、思い出したように言う。
「ああ、そういえば…東堂様が本日もお見えになるようですよ。余程お嬢様のことが気に入ったようですね」
僕は気に入りませんけど、と創が執事らしからぬことを言うから、ちょっぴり笑ってしまった。
「創、もしかしてヤキモチ妬いてくれてるの?」
「はい?」
「大丈夫よ。心配しなくても、私が愛してるのは創だけだもん」
そう言って目の前にあった創の頬に、チュッと小さな音を立ててキスを落とす。
「はぁ……お嬢様、何を寝ぼけたことを。ヤキモチなんて妬くわけないでしょう」
創は私を見つめてフッと困ったような笑みを向けると、耳元で囁く。
「だってお前は、俺のもんだからな?一華」
そして、甘い声は私の心を誘惑する。
「今夜はお嬢様の部屋で、可憐に鳴かせて差し上げますよ?昨日の分まで、たっぷりと…ね?
愛してるよ。俺の―――俺だけの、お嬢様」
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