恋人は俺様執事 | ナノ

p.10

◇◆◇◆◇◆


 甘い余韻に包まれたまま、朝を迎えた。
 小鳥のさえずりが心地よく耳に入ってくる。

「お嬢様、朝でございます」

 清澄な目覚めを遮るように頭上から声が飛んだ。
 ゆっくり目を開けると、すっかり執事顔に戻った創が私の肩をそっと揺すっている。
 いつの間にか乱すことなく服が着せられていることに気付いて、私はハッと起き上がった。

「あれ…私の部屋?いつの間に…?って……昨日のことは、夢じゃないよね?」

 そんな私の独り言に、くすくすとおかしそうに創が笑って。
 香りの良いモーニングティーをテーブルに置き、耳に顔を近づけて小声で言う。

「三度目のお姫様抱っこはありませんよ?お嬢様」

「……っ!」

 やっぱり、夢なんかじゃなかったみたい。
 恥ずかしいような、ホッとしたような。
 くるくる表情を変える私を創は楽しげに眺め、思い出したように言う。

「ああ、そういえば…東堂様が本日もお見えになるようですよ。余程お嬢様のことが気に入ったようですね」

 僕は気に入りませんけど、と創が執事らしからぬことを言うから、ちょっぴり笑ってしまった。

「創、もしかしてヤキモチ妬いてくれてるの?」

「はい?」

「大丈夫よ。心配しなくても、私が愛してるのは創だけだもん」

 そう言って目の前にあった創の頬に、チュッと小さな音を立ててキスを落とす。

「はぁ……お嬢様、何を寝ぼけたことを。ヤキモチなんて妬くわけないでしょう」

 創は私を見つめてフッと困ったような笑みを向けると、耳元で囁く。

「だってお前は、俺のもんだからな?一華」

 そして、甘い声は私の心を誘惑する。

「今夜はお嬢様の部屋で、可憐に鳴かせて差し上げますよ?昨日の分まで、たっぷりと…ね?
愛してるよ。俺の―――俺だけの、お嬢様」

恋人は俺様執事【完】
2013/04/10

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