「そういえば、お前ら初デートとかどこいったんだよ。」

 いつものような昼下がり、人は少ない中庭のベンチに座りながら龍太は春に尋ねた。正確に言えば、春と桐間にである。春はいきなりの質問に周りを見渡すも、桐間は気にしもせず弁当に入ってた卵焼きに箸を刺した。

「どれからが、デートだったか、わかんね…」
「あ、あほか。二人で出掛けたらデートだよ!」

 桐間と会った日はすべてカレンダーに丸を点けていそうな春が何とも微妙な答えを出したものだから、龍太も思わず狼狽えてしまう。そんな龍太も見ず、こんな話は無視すると思われていた桐間も、箸に刺さった卵焼きを大事そうに見つめながら、呟いた。

「分かんないね。付き合う前から、二人でどこかに行ったし」

 付き合う、なんて単語を出されて春は照れながら桐間を見るが桐間には照れのての字もない。卵焼きを口にいれて、よく噛みながら次の獲物を探していた。
 桐間の気まぐれな恋愛話参戦には驚いたが、もう続けるとは思えないので龍太は春に視点を戻す。

「あー、じゃあ付き合った後は?」
「ん、えーと、放課後どっか寄ったりとか」
「は? 休日はねーのかよ」
「だって理依哉バイトだもんね」

 春が桐間の太ももを揺らすと、桐間はもくもくと食べながら頷いた。桐間の食べ方を見て、春はにこにこしながらただ横に居る。
 変なとこでいちゃつくんだよな、こいつら。
 桐間にべったりな春も、そんな春になにも言わない桐間も、龍太にとってみればただのバカップルだ。俺も早く相手作りてーな、と思いつつ、横目で今まで一言も喋らずに弁当をいち早く食べ尽くした浩を見るが、彼は龍太に興味はない様子。涙が溢れそうになるのを耐え、龍太はフッと笑った。

「おいおい、バイトつったって、1日くらい時間作ってやれよ」
「え、めんどくさい。休日にまでわざわざ、なんで会わなきゃいけないの」

 龍太のキューピッドの提案に桐間は思った通りの言葉で答える。ラブラブと言えど、桐間はこういうところ抜けていた。隣で春が気を落としているのも知らない。
 さすがに今まで話してなかった浩も、春を気の毒に思ったのか、春の頭をこっそり撫でた。龍太はそれを羨ましそうに眺めながら、桐間に人差し指をさす。

「いーからつべこべ言わずデートしてこい! お前それでも男か、ああ?」

 久しぶりに凄みのある顔で、龍太は桐間を睨み付けた。桐間は龍太の言葉が聞き捨てならないようで、いつもなら突っかかるはずもない龍太に突っかかる。

「は、バカなの。デートに行かなきゃ男じゃないってなに」
「ふん、お前こそバカかよ! ろくに恋人も喜ばせられないやつは、男じゃねーな!」
「く!」

 いつも龍太より上手な桐間も、さすがに恋愛のこととなると負けてしまった。負けたと膝を屈する桐間に、龍太はにやりと笑いながら春を見る。春がなにをたくらんでいるのだ、と見返せばまた桐間に指を指した。

「まだ月末だし、シフト出してねーだろ。なら来週の休日、休み取って春とデートしてやれ! しかもプランはお前が全てたてる! 俺はあとで聞いて点数つけてやる。どうだ?」

 してやったり、と笑う龍太に、桐間は反対意見をぶつけようとしたが、散々言われたので感情的になりながら二つで返事する。龍太に流された桐間を気の毒に思いながら、浩はあくびをした。


‐‐‐‐‐

 デートプランをたてるならこの一冊!
 表紙にでかでかと書いてある雑誌を食い付くように見ている桐間を見て龍太が笑っているが、桐間は聞こえていない。ただの王道なデートではなく、龍太に認められるデートでなくてはいけなかった。春を喜ばせることが本当の目的なのだが、負けず嫌いな桐間の頭にはそんな概要はすっぽりと抜けている。

「えー、なに? きりきり彼女とデート?」
「あはは、てゆーかぁ、彼女居たんだー」

 桐間が珍しくなにかに真剣になっているので、女の子がぞろぞろと寄ってきた。桐間を心配で見ていた春はその事態に腹を立てて桐間の所にいきたいが、やはり、女の力は強い。みるみるうちに桐間は見えなくなっていった。ぎりぎりと歯ぎしりする春を見て、浩はかわいいな、と春のあたまを撫でる。もちろん、振り払われるのだが。

「いや、彼女? じゃ、ないかな」
「え、もしかして、セフレ?」
「違うでしょ! えーと、そう、友達!」

 あまりにも息苦しい言い訳だが、桐間が珍しく一生懸命なのを見て、女たちはのんきにその友達幸せだねー! などいいながら桐間にべたべたとくっつく始末だった。春は女の子と絡む桐間を見たくないがために完全丸まっているため会話が聞こえていないが、浩と龍太は聞こえている。二人がわらっていたら桐間にキッとにらまれ、仕方なく笑うのを止めた。

「でさ、その友達、どんななのー?」

 桐間の周りにいた一人の女の子が、桐間に問いかける。桐間はその友達、いわゆる自分の恋人、春のことを浮かべた。恋人を友達と例えたのは少し気が引けたが、目の前にいる人たちは一回恋人がいると言えば顔を見るまでしつこいだろう。桐間は一応、春に申し訳なく思っているようだ。

「馬鹿であほで、品がない」

 春を貶す言葉を並べれば、女の子たちはツボに入ったようで、甲高い声で笑う。桐間も少し笑ってしまった。これを面と向かって言えば、春は顔を真っ赤にして怒るだろう、と思ったからである。
 何も春が心配することはなかった。これだけの人に囲まれながらも、桐間は春のことしか考えていないのだ。










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