会田心視点

 今日あったことを振り返ると、お得意様の会社へ更新手続き。そしてその時に清野の先輩と会って、話して、自分の会社へ帰りウイルスの処理。ウイルスが消えると毎日している仕事へと戻った。
 そんななんてことのない1日だったはずなのに、俺は清野を気にしている。正確に言えば、清野の先輩のことについてだ。
 最後に言った言葉、携帯を何も言わずに変えるな、と言っていたが人との関わりを気にする清野が、なんの理由も無しに携帯を変えた連絡をしないなんて事はあり得ないと思う。そしてあの畠というやつは、清野を咲也くんと名前で呼んでいたし、親しいのだとは思う。けれど清野の方は、再会を嬉しがっていたどころか、こころなし怯えていた気がした。
(俺が気にすることでは、ないのだが…)
 清野が困っているなら助けたいと、思ってしまうのだ。だが、結局聞けずにいてもう帰りの電車を待っている。もし話してくれなかったら、などと考えると勇気が出なかったからだ。情けないな、俺。足で黄色いぼこぼこをなぞって、考えていると会田さん、と聞き覚えのある声がした。

「あ…」
「今日は俺もこっち方面から帰るんです、一緒に行ってもいいですか?」

 会社では見れない笑顔を見せて俺の隣に来る。断る理由がないので、黙っているとそれを肯定と見なして清野は来た電車に一緒に乗り席に座った。音をたてて閉まるドアを、清野はなぜかうきうきしたかんじで見ている。

「明日明後日休みですし今日は実家に帰ろうかと思いまして、実家と言っても30分くらいで着くんですけどね。あ、会田さんの4つ隣の駅ですよ!」
「そうなのか」
「はい!」

 だから少し楽しそうにしているのかと思った。たしか、前に家族の話をしたときに姉と母、自分を入れて三人家族だと言っていた。お父上は亡くなられたらしい。その時も嬉しそうに笑っていたのを思いだし、家族が好きなんだと実感させられる。俺は一人っ子で、両親はいるが仲が良いわけではなかったので、そんな清野がほほえましかった。
 あーだこーだと清野が話をするなか、申し訳ないが清野の話はほとんど耳に入っていない。俺はまだ、昼間の出来事を引きずっていた。
(後悔してたなか、せっかく聞ける機会が出来たんだ。聞くしかない、聞くしか…)

「清野」
「え、あ、はい?」
「畠…さん、とは、高校の時、なにかあったのか」

 変なところで区切ってしまったり、声が小さかったり、違和感は満載だったが、どうにかなるだろう。どきどきしながら、清野の言葉を待つ。だが、清野からは一言も返ってこなかった。どうしたのかと、清野を見れば、さっきまで笑っていたはずの清野の顔は真っ青になり眉毛をハの字に下げて、俺を見ている。

「な、なんか畠さんにいわれたんですか!」
「いや…清野の様子がおかしかったから」
「え、あ…その」

 清野はいきなり焦ったように言うが、俺がそう返すと言葉を濁しながら俺から目をそらした。こんなに挙動不審な清野は見たことがない。やっぱりなにかあったのかと思えば、清野は言いにくそうに指をはねさせた。

「なんでもないです…」

 笑いながら言うと、よっぽど話題を変えたいのか色の違う話をはじめる。俺は、はじめて清野に嘘を吐かれた。

「それでですね、」
「清野」
「はい?」
「俺が信用できないか」

 清野の顔をしっかりみて言うと、清野の顔が泣きそうになるのがすぐに分かった。自惚れだったようだが、俺は清野が自分にたいしては特別に信頼していると思っていたので、これは流石に悲しい。
 清野は悔しそうに手で拳を作りながら、こちらを向いた。

「ちっ、違います!」
「気にするな、本音を言えば良い」
「ほんとに、ちがくて!」

 揺れる電車のなか、清野は俺のスーツをつかみながら、必死に訴える。だんだん清野がかわいそうになってきて、おれは反省した。
(そうだ、人には言いたくないことはある。それば信用とは、違う)
 もう聞くのはやめようと自分の中で解決すると、俺のスーツを引っ張る力が弱まる。諦めたのかと清野を見れば、清野は、俺を見上げていた。

「俺を嫌いに、なりませんか。」

 もう既に涙を浮かべ、不安げに言う。俺が頷いてやると、清野は泣きそうになっていた。










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