清野咲也視点

 話すと決めた俺に、会田さんはそこら辺の店によろうと提案してくれた。確かに電車でする話ではないので、寄ることにすると、気を使ってくれたのか実家の最寄り駅の居酒屋に行きたいといってくれたのでいくことにする。
 居酒屋に着くと会田さんが適当につまみと飲み物を頼み、座敷に座った。どう話すか迷っていると、会田さんは催促することもしないで待ってくれた。

「…畠さんは、俺が高校入りたての時に、二年生で」
「…ああ」
「すごく有名な人でした。そして、遠い存在で最初は関わりなんてなかったんです。俺があの人に関われるはずもなくて。」
「ではどうやって知り合ったんだ?」

 口を開かないで聞くだけだと思った会田さんは、そういいながら口を開く。電車で畠さんのことを聞かれたときも思ったが、会田さんがこんなに俺に興味を持ってくれるなんて嬉しい。けれど興味を持たれたのが畠さんなんて、俺は不幸すぎる気がした。ウーロン茶を飲んで、続きを話す。

「俺ってどんくさいですから、いじめみたいなのも結構あって。その日はいつもより悪化して、金まで取られそうになったんですよ。そこで、通りかかった畠さんが助けてくれたんです。それから関わるようになりました」
「それで、か。」
「はい。俺、あの人が憧れで。俺なんかにやさしいし、金持ちの息子なのに普通の生徒と一緒だった。卒業するまであの人を慕ってました。」
「そう、だったのか」

 そうだ。それまで、俺は畠さんを好きだった。今の会田さんに接するように、一番星のように輝くくらい憧れだった。

「卒業の日、俺は畠さんに会いに行こうとしました。今までのお礼を言いたくて。けれど、そこで、見てしまったんです。俺をいじめていた同級生の頭を踏んで、笑っている畠さんを」

 今でも思い出すだけで、背筋が凍る。畠さんはぐったりした相手なんて気にせずに、蹴ったり殴ったりしていた。何度も謝れ、と言っていた気がする。
(でも、俺は…)

「でも俺は、止められなかったんです。怖くて怖くて。よく考えてみれば、畠さんに関わってからもんくをいわれることはあっても、酷い苛めには発展しないし時にはもんく言った相手が大怪我したときもありました。俺はあの人の手を汚して高校をのんきに過ごしていたんです。…それから携帯も変えて、畠さんと関わらないようにしたんですが…また、あってしまいました。」

 俺は止まらない汗を拭くと、会田さんを見た。会田さんは俺をみたまま、無表情のままである。
(ああ、やっぱり嫌われたんだ…!)
 それはそうだ。人の手を汚しておいて、その人が怖いと勝手に避けて、今は幸せにのうのうと生きているなんて。会田さんは、からん、と音をたてながらコップを取った。俺は覚悟して目をつむる。

「だから、なんだ?」

 はぇ、と俺は思わず情けない言葉を漏らしてしまった。会田さんは至って普通だ。

「いや、会田さん話聞いてましたか!」
「ああ、聞いていた」
「俺、同級生と助けてくれた人を自分のため見捨てたんですよ! 最悪です! くずです、人間のくず! わかりますか、これが人間のなかのくずの最高級です!」

 言い終わる頃には、息切れしていた。興奮のあまり膝たちしていた俺を、周りの人が注目していて、恥ずかしくなり黙って座る。
(自分で言ってて、悲しくなってきた…)
 俺は膝を抱え込むと、それをみて会田さんは、微かに笑った。え、今、笑ったのか。

「あいだ、さん?」
「いや、ちょっとおかしくて。その…ぼこされた同級生は報いだと思うが、さすがにやりすぎだな。まあ清野の気持ちは分からんでもない。俺も自分のためにしてくれてるとは言えど、そんな先輩がいたら怖いぞ。清野みたいに逃げるし関わらないようにする。まあお前は気にしすぎというわけだ」

 説得させるように言う会田さんは、話している間、ずっと笑いを堪えている。俺はパニックでおかしくなりそうだった。今まで隠してきた秘密、暴露してこんなに笑われるとは思わないだろう。嫌われないと知った瞬間、俺は安心して肩の力が抜けた。そして目の前の会田さんが目に入る。
(ああああ、笑いを堪える会田さん、素敵すぎますっ!)
 やっぱり会田さんは、かっこよすぎた。

「あ、ありがとうございます」
「いいや、お前は自分を卑下しすぎなんだ。」
「いや…」

「清野は優しいし、素直だし、真面目で良いところばかりだ。自信を持て」

 さあ、乾杯だ。
 言いながら会田さんは剥き出して笑った。気まずすぎて最初にしなかったため、今さら乾杯をするようである。
 不思議だ。あんなに俺は、塞ぎこんでいたのに、会田さんの言葉を聞くだけでこんなに自信がつくなんて。

「会田さん」
「なんだ」
「大好きです」
「え…あ、そうか」

 会田さんは真っ赤になりながら、目を反らす。俺が恋愛感情で言っているなんて思っていないんだろう。今はこれで良いと思った。
(帰ったら、畠さんに電話しよう)
 俺は、向き合えなかった過去に向き合おうと思う。 これも会田さんの言葉の魔法のおかげだった。


貴方の不思議な魔法の言葉
(ずっと耳にしまいこみたいくらいです)





(あっあの畠さん、今まで避けててすみませんでした!)
(え? あはは、いいよー。咲也くん、あいつらボコボコにする僕が怖かったからでしょ。)
(え)
(逆に怖がらせてごめん。怖がって当たり前だよね)
(ええ)
(僕、弱い者いじめするやつ大大大嫌いなんだ。抑えが効かなくなっちゃって。もちろん、咲也くんにはしないから、安心してね。)
(えええ)
(もしかして、疑ってる? まだ僕をこわい?)
(そそそそんなわけないですよ! まままままままた仲良くしたいです!)
(そう? 嬉しいな。じゃあ、仲直りだ! またよろしくー)
(は、はい…(俺が長年悩んだ意味はなんだったんだろう…))






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