かぷかぷかぷ。
 俺があげた水面に浮かぶ餌を、メダカ達が食べていく。食うときのメダカの可愛らしいことと言ったらない。椅子に座り台に手をおきながら見ていると、ドアが開いた。先生かと思えばそこには陸が居た。

「こんなところに居たのかよー」

 陸はそう言いながら近寄ってくると、椅子を引っ張ってきて俺の隣に来る。一緒にメダカを見て、目を輝かせていた。餌がなくなったので黙って陸にメダカの餌を渡せば、陸は期待の目で俺を見る。あげていいの、と聞いているのだろう。目だけで返事をすれば、陸は餌を少量たらした。食いつくメダカを見て、また笑った。
 陸は俺と違って表情が豊かだ。そして他の人たちとは違い、心の底から何に対しても優しくて俺は彼が大好きだ。陸と居ると心が安らぐ。自分でも陸に依存しているのは分かる。だが、自分でもどうしようもない。いまこうやってメダカを一緒に見ているだけでも、幸せだった。


「雄ちゃんがメダカに餌あげてるなんて初めて知った。優しいな」
「いや、先生に頼まれて、断れなかっただけで…優しくなんかないよ」

 生物の先生は水槽とポンプがあるからと言ってメダカを買ったわ良いが、世話が出来ないと優等生の俺に押し付けた。餌は定期的に買ってはあるが本当に世話をしないので俺がやるしかないのである。
 だが、クラスのみんなの目の前でやれば注目を浴びてしまう。そんなの恥ずかしくて学校に来れなくなるので、こうしてこっそり放課後に来ているのだ。

「よく俺がここにいるって分かったね」
「釜播が教えてくれたんだー」

 なんだと!
 俺は固まってしまった。何故、釜播くんが俺の秘密を知っている。口を滑らしたことはないし、今まで人に見られたこともない。それなのによりによってあの馬鹿でまぬけで口の軽い釜播くんに知られたとは!
 今の衝撃な事実に俺のデリケートな心臓がずたずたに破られたなか、陸はおれと同じように台に手をついた。

「なーんか、最近釜播と仲いいよな」
「…本気で言っているのか」
「だって雄ちゃんが今まで他の人をそんなに嫌ったことってなかったろー」

 俺があいつを嫌っていると知っているのに、仲がいいなどとどの口が言うんだ。睨み付けようとすれば、陸は嫌な顔をして俺の前髪をするりと触る。
 妙な触り方に戸惑っていると、陸は餌を水槽の隣に置くと椅子から立ち上がった。さきほど座っただけだというのにどうしたのだろうか。

「陸?」
「雄ちゃんはさ、今まで俺以外に感情だしたこと、なかった。」

 恥ずかしながらも陸の言う通りだ。小さい頃から優しくて俺を見捨てない陸にしか、内面は見せられない。その言葉に頷きながら、水槽にてを伸ばした。欲張りなメダカは俺の指を餌だと思い、ガラス越しに口を動かす。もし食べられてもいたくはないだろう、考えていると恥ずかしさはなくなった。
 陸は話を忘れたように水槽に釘付けになった俺の名前を呼ぶ。いつもは小さい陸も、今だけは俺が椅子に座っているため大きくなっていた。見上げると、不機嫌な陸が立っている。

「どうしたの?」
「だからさっ、いつもの雄ちゃんなら釜播みたいなやつは相手にしてなかっただろ! 雄ちゃんは人を好きにならないし、嫌いにもならない。俺以外の人には無関心だった、なのに、釜播のことは嫌いとか言う…! 雄ちゃんが見てるのは俺だけでいいんだよ!」

 陸が並べた支離滅裂な発言に言葉を失った。陸は勢いのあまり、水槽が乗った台を叩く。水槽の中の水がゆらりと波をたてた。俺は陸の言ったことが理解できない。俺は釜播くんを見ていたつもりはないし、嫌いだからといって釜播くんを注目しているわけではない。話さないでいると、陸はしまった、と言う顔をしていつも通りの優しい笑顔に戻る。

「ごめんな、やっぱりなんでもない。ただ、寂しかっただけ」
「え?」
「だって、最近構ってくれないだろー」

 ふざけて子供のように無邪気に見せる歯が、かわいらしくてさっき言われた言葉については聞けなかった。聞く必要もないか、と俺は席をたつ。もとの場所に椅子を戻して、やはり小さい陸を見下ろした。

「陸、帰りどこか寄ろうか」
「うん、あ、じゃあ今日は俺に秘密事したから、雄ちゃんのおごりな!」
「…今日だけだからね」

 陸は出ていく際に、さようなら、と言いながらメダカの水槽をなぞる。それを見てほほえましくなり、静かに部屋を後にした。








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