「あっ、釜播〜!」
体育館にほのぼのした声が後ろからしたと思うと、そこにはへらへら笑った奴がいた。こいつは十山(トオヤマ)というやつでいつも飄々としている。ふざけた茶色の髪色にたれ目をつけたなかなかかっこいい顔をしていて、男女問わず人気者っちゃ人気者。ついでにこいつも同じバスケ部。(俺とは比べ物にならないくらい)少しモテるのも分かる。だが残念ながらこいつには、付属品がついてるせいでモテ度は下がりつつあった。
「今日は世間瀬の野郎ついてないんだな」
「いつもいるわけじゃないけど。二人ってほーんと、仲悪いんだなぁ」
雄ちゃんイイコなのに、と十山は笑う。雄ちゃんとは世間瀬雄大(ユウダイ)、世間瀬のことだ。どこがイイヤツだ、俺はあいつを思い出して顔を歪めた。
二人は先ほど聞いたように十山は世間瀬を雄ちゃん、世間瀬は十山を陸、と名前で呼び合うほど仲がいい。前に十山と世間瀬があまりにも仲がいいので、話を聞いてみたことがあった。その話によると二人は小学生の時から一緒らしく、なにより世間瀬が十山にべったりらしい。世間瀬が誰かを好くなどきもちわるい話だが、十山自身それに違和感はないのでバランスがとれているのか。
「んで、なんの用だよ」
「いやー、雄ちゃんどこにいるか知らないかなって思ったんだけど…知らないみたいだったからさ」
二人が離れるなど珍しい。世間瀬は十山以外友達がいないと言ってもいいほど、友達が少なかった。十山が休みのときは世間瀬がひとりで弁当を食べたりしていて、それを笑ったこともある。(笑ったらあのくそ眼鏡殴ってきやがったが。)
俺は頭を捻り、世間瀬が行くような場所を考えた。
「そうなのか。図書室にでもいんじゃね? あいつ本すきだし」
「行ったけどいなかったんだよな」
「じゃあ3階の第2生物室。あいつあそこにいるメダカに餌こっそりあげてんだよ」
「え、そうなのか。」
十山はぴた、と動きを止めた。そして大きな目で俺をとらえて、そのまま、ゆっくり目を細める。
こんな表情初めて見た。きっと怒っている、んだと思う。声をかけようとすれば、すぐに笑った。
「雄ちゃんのこと嫌いって言いながらも雄ちゃんのこといっぱい知ってるんだな」
そう独り言のようにいうと、うつむいていた顔を俺にあげてありがとう、と言いながら小走りで消えていく。どうやら怒っていると感じたのは、勘違いだったらしい。それもそうだ、あんな温厚なやつが意味もわからないところで怒るはずがない。
世話が焼けるな、俺は思いながら、スーパー美女な先輩から貰ったタオルを首にかけた。
そういえばあいついまから部活だってのに、サボる気かよ。
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