そんなこんなで六時間目も近くの席の人に言っても、誰も了承はしてくれない。何故だろう、皆つめたいくらいだ。俺嫌われてるのか。

「か、かいとー」
「もうお願いだから話しかけないでくれ」

 やっぱり冷たかった。
 そして時は放課後、仕方なく濡れて帰ることにした。意を消して昇降口から出ようとすると、雨を感じなかった。上を見ると、黒い傘が俺の上にあった。

「使えば?」

 きききき、桐間ー!
 桐間の名前を声に出せず、代わりに目だけかっぴらく。俺は一瞬びっくりしすぎて心臓が止まったのかと思った。そのかわり今半分石化している。桐間が不思議そうに俺を叩くので、痛みで現実に舞い降りたが、俺の上におい被さる傘を見て、先ほどの言葉がリピートした。
 きっと幻聴だ、桐間がこんなにかっこいい顔をしてこんなにかっこいいことを言うなんて。

「え?」
「だから、使えばって。俺は金持ってるから、途中で傘買えばいいし。」

 男前過ぎるって、桐間さん。桐間は俺に傘を握りされると、そのままそこを去ろうとする。俺は意のまま桐間のワイシャツを掴むと、振り返ってくれた。

「悪いから、」
「ふん、じゃあ待ってろ。一緒に帰るよ」

 いいよ、と続けようとすると桐間はそう告げて、俺に背を向ける。俺は言い返せず、桐間のワイシャツを離した。無理矢理ではあるが、嬉しいことだ。むしろバチが当たるのではないかというくらい、幸せである。俺は桐間が来るのを待ちながら、傘をしっかりと握りしめた。

‐‐‐‐‐

「やっぱり待ってたんだ」

 お前精神図太いね、と桐間が俺に感心したように言う。あはは、それほどでもねーよ、桐間誉めすぎだ。にこにこと返せば、何故か桐間は呆れた顔をした。
 傘を勢いよく広げて二人で足を踏み込む。灰色の雲が夕方の空を隠して、薄暗くなった帰り道を二人で歩いた。傘を持ってる桐間は不満そうに俺を見る。

「入れてやってんだからお前持てよ」

 押し付けられた傘を、仕方なしに持つと違和感を感じた。桐間を見ても答えは出ない。だが、すぐに気付いた。

「あ、俺と桐間ってあんま身長変わんないんだな」

 言えば、桐間は眉間にシワを寄せながら俺を見る。そうか、いまさらだもんな。俺はそこまで身長は高くないし、その上残念ながらひょろい。だが桐間は体型だけは筋肉は付いているし、標準より上ではあるが、身長だけはぎりぎり中くらいより高いくらい。

「いや、俺の方が高いけど」
「まあそうなんだけどさ、浩とかと相合い傘した時俺が傘持つと皆屈まなきゃいけなくなるだろ。だけど桐間は普通にしてるしさ。桐間が同じくらいの身長で良かったー」

 言いながら笑いかけると、何故か桐間はひと間を置いて俺の傘を奪って自分で持ち始めた。意外と優しいな、と思うがすぐに気付く。桐間は負けず嫌いだから、浩に負けたのが嫌なのだろう。そう考えると、なんだか桐間が可愛くみえてくる。ここで傘を奪えばかわいそうなので、甘えてみることにした。

「ありがとな」
「別に。俺の方がお前背高いからな、あたりまえなんだよ!」
「? おう。」

 なんで俺相手にそんなにむきになるのかは分からないが、一応返事はしといた。すると桐間は満足げに歩みを進める。
 先ほどまでは俺が持っていたから桐間の方に寄せることが出来たが、今は桐間が持っているので、桐間の肩は濡れるばかりだ。だが悪いとは思うし、桐間のほうに傾けたいが、俺を濡らさせないようにする桐間の行動がうれしかった。ほんのり、雨の時相合い傘をするカップルの気持ちが分かった気がする。

「そういえばさ、授業中に一生懸命傘借りようとしてたよね」

 桐間が俺を見ながら、気まずそうに言った。聞いていたか、と恥ずかしくなる。あの時の俺の行動は異常者のように傘を探し回っていたからだ。そういえばお金がないなんて言っていないのに、桐間は「俺は金持ってるから、途中で傘買えばいいし。」と言っていたことを思い出す。ならば所持金が50円ということも知っているということになり、なんだかこっちも気まずくなった。

「いや、あの、別に傘がほしい訳じゃなくて、つまりその、」
「じゃあ何。あのでかいのとか、金髪とか隣の席のよくわかんないやつ好きだから?」
「あ、そうそう! だいすきだから、あは」

 傘が欲しかったなんてバレたら、どんだけ心の狭いやつと思われるので言い訳すると、桐間がフォローいれてくれた。
 良かったと思いながらも、頷けば桐間のテンションは一気に下がる。そして頭上にあった傘がいきなり退けられて、ざー、と雨が俺を濡らした。驚きながら桐間を見ると、膨れた頬が機嫌を悪いと俺にいやなほど分からさせる。

「じゃあそいつらと帰れば」

 桐間さーん、そりゃないっすよ!
 話を聞いていたなら分かるはずだ、俺はあらゆる人と言う人にフラレタ。しかも俺が桐間を大好きということくらい分かっているだろう。なのに、こんなことを言う桐間は意地悪だと思うし、なんで怒っているのかも分からない。
 なんか、いらいらしてきた。
 俺はわなわなと体を震わせ、先に歩く桐間に後ろから抱きついてやった。桐間は大きく目を見開く。無言で離そうとするがなかなか離れない俺に、さすがに口も開いた。

「ば! お前なにしてんだ、離れろ!」
「嫌だ、離れない!」
「っ、てなんで顔ちけーんだよ」
「眼鏡ないから距離感つかめなくて、えへ」
「えへじゃねー! 離れろ、ストーカー」

 なかなか折れてはくれないので、もう仕方ないと俺は桐間の首に巻き付くと、桐間に向かって叫んでやる。

「誰よりも好きだから、むしろ愛してるから! 傘に入れてよ、理依哉くん!」

 一生懸命背中に顔を擦り付けて懇願した。これで折れてくれるだろうと思えば、傘はまだ俺にかかっていない。手強いな、桐間理依哉。思いながら前を見れば、顔を真っ赤にして振り向く桐間がいた。
 どうやら、桐間は傘を放したようで、傘があるというのに二人して強い雨に打たれているということだ。未だ止まる桐間を不思議に思い覗けば、桐間は硬直したままだった。
 魔法が掛かったようだな。
 こんな桐間初めて見たのでまだ見ていたいが、二人して風邪を引いたなんて嫌な話しなので、傘を勝手に拝借して桐間の手を引っ張りながら帰り道を歩く。

 そのとき

 すこし、だが、そのあいだ、俺の手を俯いた桐間が握り返してくれた気がした。





END



一周年感謝です(;_;)本当にありがとうございました! ついでに傘をさしてるとき、桐間はさりげなくしゃがんでました。春は気付いていませんし、まず桐間の身長をなめてます(笑)おまけに海飛が春に冷たかったワケです。





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