あ、傘、わすれた。
 窓の外を見ると、グラウンドの砂の色がいつもより濃くなっているのが分かった。そういえば母さんに夕方から雨が降るから傘を忘れないで、と朝食を食べてる時に言われた気がする。朝はあまりにも太陽が出しゃばっていたし、そのあとも怪しい雲行きはなかったのですっかり忘れていたが、昼食が終わり5時間目のチャイムが鳴ると同時に雨がぽつりぽつり、と数を増していく。
 早く帰りたいな、と思いながらも俺は一応出してあるノートに突っ伏した。今日は一心同体の眼鏡を、洗面所に置いてくるという普段ではありえないことをして黒板が見えない状態にある。ずっと眼鏡をつけている俺にとっては眼鏡を忘れるのは、体の一部を何処かに置いてきたと言ってもいいだろう。あ、例えの話ね、そんな眼鏡を大事にしてるわけじゃないから。
 体操着(まあ、これは制服で無理やりやったけど)忘れるわ、眼鏡を忘れるわ、傘忘れるわ、で不幸の連続。ついでにノートを録っていないからそれの復讐なのか、さっきの現代文の時間に先生から眼鏡してないともっと冴えない顔してるな、とかすっごくいじられました。あんちくしょー! ごほんごほん、取り乱してしまったが、そんでもってとてつもない不幸がある。今日は桐間と帰れないのだ。今日の放課後に桐間はいままで来ていなかったことを学年指導の先生と話をしないといけないようで、先帰っててとのことだ。待っていたいがそんなことして、なにこいつ調子にのってんの、とかになったら三日は立ち直れないので素直に帰ることにした。もしかしたら相合い傘できたかもしんないのに、ついでにその学年指導の先生は現代文の先生です、あんちくしょー!
 …と、まあいろんなことがあったが、とりあえず今日は濡れて帰ること決定になりつつある。だが濡れて帰ってやるもんか、ただでさえ桐間と帰れなくて精神が砕けそうなのに、濡れて帰るなど情けなさすぎる。俺の戦いはここからだ。俺は優しい隣人に話を持ちかけてみた。

「なー海飛、傘くれない?」
「じゃあ俺はどうすんの」
「濡れて帰りなよ、な、いいだろ!」
「良くねーよ、あほ」

 海飛はそういいながら俺の頭を殴ったが、無言で俺のノートを取り俺の分まで書いてくれている。いいやつだ、だが傘がない。つかえないやつだな!
 次は前の席の龍太に頼み込むことにして、龍太を見るが女の子とペチャクチャペチャクチャ羨ましいな! …って、おっと、本音が出てしまった。俺はポーカーフェイスを決めながら、龍太に話しかけた。

「おい龍太、傘持ってる?」
「俺が持ってると思うかよ。海飛、傘かしてよ」
「いやだよ。お前らなんなの、俺を傘だと思ってるだろ!」
「あはは、まあいいじゃん。俺と家ちかいし、相合い傘しよーぜ」

 傘だけでいいんだけど、と龍太が呟いたのは聞こえなかったことにする。龍太恐るべし。
 そういえば雨の日は相合い傘が絶えない。一人寂しく帰っているときにぶつかった相手がカップルだった、なんてなんとも気まずいことがあるくらいだ。そんなときに限って、浩は不在である。相合い傘か、したいな相合い傘。

「なー海飛、駅まででいいからさ、相合い傘しない?」
「だから海飛は俺とすんの!」
「ずる、龍太!」
「いやどっちともしないから! てか二人ともビニール傘買えよ!」
「龍太くん、金使いたくなーい、海飛金ちょうだーい」
「しゅんくん、金が50円しかないの…くすん。あ、じゃあお金貸して」
「二人とも図々し過ぎんだろ、だまれ!」

 いつも優しくなんでも聞いてくれる海飛は、なんだか今日は冷たい。なんでなんだろうか。あ、そっか、彼女ができたのかな。彼女が出来ると人が変わったように友達を捨てるからなこいつ、うんしかたない。俺は心が広いから許してやるぞ、羨ましいなんて思ってないんだからな、思ってるわけないだろ。あはは。

「うそだ、海飛、俺お前がうらやましいよ」
「は?」

 意味がわからない、と言う顔でこちらを見る。それはそうか、俺の心の声が聞けるなんてそんな便利な機能が、海飛に付いているはずもないわけで。
 いやでも、そんな便利な機能が付いているやつがいる。そう、後ろの後ろにいる相棒…
「しゅん、俺は相合い傘なんてしないからな。ついでに傘は貸さない」
 ぺらり、と教科書をめくりながら、俺を見ないで浩が呟く。どうやら後ろの後ろにいる浩くんは、俺の心が読めるからこそ厳しい人でした。
 まあ、そこで浩の傘に食いつく龍太は俺と同じようにふられていた。お気の毒に。とりあえず、五時間目の時間はやることなくてちょうど暇なので、相合い傘をしてくれる子を探す。女の子に声をかけたいとどきどきしながらできない俺のばか。










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