120000hit | ナノ






時々不安になります。分かってはいるけど、やっぱり、不安になるんです。



「……」

「?…どうした?」

「え、な、なんで?」

「難しい顔してたよ。折角のちゃんとした休みなのに。…不安事?」

「…っ」



都内のカフェ。人は疎らでゆったりとした音楽が流れる。それがちょうど心地よくてこのカフェは好きな場所の一つ。そこに、そうそうゆったりとした休日が取れない彼との、久しぶりのデートなのだ。



「…不安事があるように見えた?」

「志貴は顔に出るから。分かるよ」


コーヒーを飲んで志貴くんは答える。彼と付き合いだしたのは彼が防衛監査本部に異動してきた時。前々から話は聞いていたし、知っていた。どんな感じの人かは深く知らなかったけれど。防衛省も広いから。

でも、いざ一緒に仕事をするととても優しくて、温厚で…。あぁ、人気あるのが分かるなって思った。



「…あのね、」

「うん」


こうして、急かさずゆっくり待ってくれるあたりとか、好きだなって思う。




「志貴くんは、優しいでしょ」

「そうかな…」

「優しいの。それに温厚…。周りからすごく人気あるの知ってる?」

「え、知らない」

「だよね…。志貴くん興味なさそうだもん」

「だって志貴が居るから良いかなって」

「…っ」


サラリとそんな言葉を言ってくる彼は本当に、もう…っ、なんなんだろう。



「…なんで私と付き合ってくれたの?」

「は?」

「だって、私じゃ志貴くんとは釣り合わないし、隣に立ってて良いのかなって思っちゃうから…」

「…それが不安事?」



その言葉に私は頷いた。周りから嫌味を言われるわけでもない。ただ、私が不安に思った。なんで私なんだろう。どうして付き合ってくれたんだろうって。



「好きに釣り合うも釣り合わないも必要?」

「ー!」

「志貴。俺は自分に釣り合う人だから、志貴と付き合ってるんじゃないよ」

「え…」


顔を上げた先に見えたのは優しい表情。



「一生懸命で、前向きで、でも時々落ち込んで…。泣く事もあるけどまた立ち上がる。…そんな志貴の姿を見て好きになったんだから」

「志貴くん…」

「…でも不安にさせたね。ごめん」

「そ、そんな!私が勝手に思っただけで、志貴くんは全然悪くないよ!」

「それでも。謝らせて」

「……うん」


一つ頷いて。手元のもう殆ど残ってないカップを触った。



「ねぇ志貴」

「なに?」

「行きたいとこない?」

「行きたいところ?」

「そう。折角のゆっくりした休みくらい、志貴の好きなところに行こう」

「いいの?」

「良いよ。ないなら、俺が決めるけど」

「ある!ずっと行きたかったところ!」

「なら、そこに行こうか」


伝表を手に席を立つ志貴くん。私も鞄を持って立ち上がる。


「お金払うよ?」

「こういう時は男が払うもんだよ」

「…ありがとう」

「いいえ」


言葉に甘えた。会計を済ますと外に出る。今日は天気が良くて絶好のお出かけ日和。晴れて良かった。



「今日は晴れたね」

「うんっ」

「志貴は雨女なんだけどなー」

「てるてる坊主作って吊ったからだよ!」

「ははっ、作ったの?わざわざ?」

「だって志貴くんとのデートの日くらい晴れて欲しかったから」

「そっか。ありがとう、作ってくれて」

「ふふ、ううん!」


カフェを出て歩く。車にする?と昨日の電話で聞かれたが、たまには歩いたり電車に乗ったりしたいと言えば隣の彼は賛成してくれた。




「どこ行きたいんだっけ」

「えっと…」


スマホを出して触ろうとする。だけど、それをパシリと止められる。


「?」

「電柱」

「へ…?」


少し前には電柱が。これは、触り続けていたら当たっていただろう。



「どの道当たりそうになる前に助けるけど、歩きスマホは駄目。危ないから」

「はーい。…心配したの?」

「当たり前だろ」

「ふふ」


端によって立ち止まってから触る。そうしながらも、あんな心配をしてくれる人はこの人以外いないだろうなぁと心が温まる。







>>




.
×