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「モテモテですねぇ」

「あいつは子供に好かれるタイプだからな」

「あんのガキ共…ッ!ベタベタベタベタ触っちゃって…ッ!」



教員室の窓から外を見る殺せんせー、烏間、イリーナ。その視線の先には…



「柴崎先生は今日俺と組手してくれるんだよ?だから手離してくれるよね」

「志貴さんはいつでも甘えていいと言ってくれた。だからこの手は離さない」

「やだなぁ、イトナくん。甘え甘えって最近君ずーっと甘えてない?そろそろ俺に柴崎先生譲ってよ」

「そういうお前は最近志貴さんが1人の時必ず後ろから抱き付いている。仕事の邪魔になってるのが分からないのか?」

「先生は邪魔ならちゃんと言ってくれるからね。言わないってことは、別に俺が邪魔じゃないってことでしょ。だからなんにも問題ないわけ」

「この人は優しい。だから邪魔でも敢えて言わない場合がある。そんな優しさに漬け込むお前は酷い奴だ」

「「……………」」


1人の男の腕を掴んで睨み合う2人。


「……そろそろ止めない?」


間に挟まれ、うーん…困った。と漫画風に言うなら少々汗がタラリ。そんな顔をする柴崎が居た。



「(仕事もある。でもこれもある。これがある中仕事は…厳しい。すると進まない。進まないと…溜まる)」


ある一つの連想が頭の中を過る。つまり結論仕事は出来ないということになった。この問題が解決しない限り。ではこの問題、如何様に解決しようか。




「…赤羽くん、イトナくん」

「なぁに、柴崎せんせ」

「……」

「今日の天気はなんでしょうか」

「「?」」


2人は首を傾げて空を見上げる。所々に浮かぶ白。そして広がる青。登る陽。穏やかに吹くそよ風。



「なにって…晴れじゃないの?」

「…秋晴れ」

「そうだね」


掴まれる手からスルリと腕を取る。掴むものを失った2人の手は静かに降ろされる。



「じゃあもう一つ質問。今はなんの時間?」

「お昼休み」

「(コクン)」


その答えに柴崎は一つ笑みを零すと2人に背を向け少し先を歩く。そして立ち止まり空を少し見上げる。



「こんな天気良いと仕事とかも嫌になるね」

「え、仕事人間の柴崎先生もそんなこと思うの?」

「意外だ…」


その言葉に笑いを零すと柴崎は少しだけ体を2人に向けた。



「…昼寝に付き合ってくれない?」

「「!」」

「たった15分程度だけど」


どうかな、と聞けば2人は本当に良いのか、と少々困惑する。昼寝をするなら1人のほうが良いのではないかと。



「1人で寝ると、なんか落ち着かなくて。付き合ってくれると嬉しいんだけどな」


ほら、と手を出せば2人はその手を掴む。それに優しく笑うとじゃあ行こうか。と声をかけて歩き出す。その際、教員室の窓から見ていた烏間にアイコンタクトを。



「(少しだけ仕事頼むよ)」

「(任せておけ)」


礼の代わりに烏間に少し笑うと彼も微かに笑い返した。それを見てから柴崎は両隣に居る2人の手を引いて校舎からそんなに遠くない木の下に座った。



「さてと…。…ほら、おいで」


ぽんぽんと地面を叩けば2人はそこに座る。



「毎日君達も忙しいだろう」

「そんなの先生だってそうじゃん」

「いつも仕事をしてる」

「それが俺のすべき事だからね。…でも君達は普通の生活にプラスして暗殺事もある。普通の中学生よりは忙しい筈だよ」


頼んだ側が言う事じゃないけど…と漏らす。彼らの普通を普通でなくしたのは国であり、その国の命令に従ったのは自分達だ。だからと言って、私生活全てに暗殺を重きに置いて欲しくない。



「のんびりする時間って大切なんだ。何も考えずただぼーっとする。勉強の事も、暗殺の事も、仕事の事も、未来の事も考えないで…ただ静かに過ごす。頭の中をたまにはリセットしないとね」

「…柴崎先生はこうやって俺らが隣にいてリセット出来んの?」

「十分ね」

「…本当か?」

「本当。じゃなかったら眠気なんて来ないからね」


その言葉にカルマが少し木から背中を離して柴崎の顔を見る。


「先生眠い?」

「んー…眠いかな」

「寝ても良い。昼寝のために来た」

「ふふ、なら君達もね」


2人の頭を自分の肩に凭れさせた。


「っ、ちょ、先生…」

「志貴さん…っ」

「良いから良いから。目瞑って」


ぽんぽん…と優しくゆっくりと、まるで母親が眠る子供にする様に。



「…自然の音って何よりもリラックスさせてくれる。頭にも体にも心にも、ちゃんと休息を与えてあげて」



少しして両肩が重くなった。それを感じて寝たんだな、と。ザワザワと、風の起こす揺れで葉と葉を擦る音。その葉の間から溢れる陽射し。まさに秋晴れ。見える青と白が広いキャンパスを鮮やかに彩る。

2人の頭から手を離してそっと元の位置に戻す。カルマは自分の足の上に置く手。イトナは地面に置かれる手。その両方の手を取る。



「…小さい手」


中学生ってこんなもんだったかな…なんて思う。自分よりは一回りまだ小さい。


「ごめんね。…ありがとう」


暗殺なんてさせてごめん。ごく普通の生活を送らせてあげられなくてごめん。でも、暗殺をしてくれてありがとう。毎日その中で前を向いて歩いてくれてありがとう。君達の笑う顔を見るとホッとするんだよ。変わらない笑顔を浮かべてくれる事に。



「…後、8分」


短いようで長いその時間。その時間の計りは分からない。8分後には予鈴が鳴る。その5分後には本鈴だ。しかし、ほんの少し…自分も目を瞑ろうか。


「(ちゃんと隣の子達は起こさないとね)」


授業欠席はいけない。そう考えて、子守唄と言う名の風の音を聞いて意識を落とした。








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