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柴崎先生の隣って落ち着く。本当、周りが言うマイナスイオンとやらが出てるんじゃないかって思うよ。
多くを語らない…、でも大切な事は話す。それが先生。きっと余計なことを話しても大切な事が伝えられなければ意味がない事を知っているからだ。
こうして隣に座るだけでもなんかホッとする。それなのに、肩に頭を置くとさらに。そんなに眠くなんてないのに眠くなるんだ。不思議だよ、ホント。
頭を優しく叩かれる。まるで、子供を寝かしつける母親のよう。頬から伝わる先生の体温と、自然の音が子守唄。…ほんと、眠くなっちゃって仕方ないや…。
志貴さんは今まで会った中で1番不思議な人だと思う。性格が…ではなく、雰囲気が。
優しげで、穏やかだけど…どこかミステリアス。それは全てを晒け出さない所から来ているのかもしれない。
こうして隣に座ると、それをもっと感じる。寂しいではなく、それがこの人なんだと思う。その存在がこの人をきっと作り上げている。
頭に乗る手。ゆっくり叩かれると、体は別に休息を求めてなんていなかったのにそちらへと引っ張られていく。不思議な人だ。けどホッとする。…あぁ、瞼が重い…。
「…ぁ…ねくん…ト…く…」
声が聞こえる。よく知る声。浮上する意識。瞼を開ければぼんやり映る緑。
「赤羽くん、イトナくん。そろそろ起きて」
「…柴崎先生?」
「志貴さん…」
「起きた?今丁度予鈴が鳴ったんだ」
よく寝てたね。眠たかった?と柴崎から聞かれた2人は先生寝てないの?と聞き返す。
「寝てたよ。けど、音で起きた」
「そうなんだ…」
「こんなにぐっすり寝れたの…久々だ」
「それは何より。俺もスッキリした。午後も仕事頑張れるね」
柴崎は木から背を離し立ち上がると、未だ座る2人に手を差し出す。
「さ、帰ろうか。遅れたら怒られる」
「先生は烏間先生に?」
「かもね。君達は、アレに。ほら」
差し出されるその手に手を伸ばして握れば引っ張られた。見掛けによらず、この人は力がある。
「はい、シャキッとして」
ポンっと背中を叩かれる。
「あと二つの授業、真面目に受けるんだよ」
「はーい」
「…分かった」
「偉い偉い。俺も頑張るから」
一つ伸びをしながら前を歩いて行く柴崎。彼もまたこれから仕事に追われるのだ。眠気覚ましにコーヒーでも飲むかな、と考える柴崎の背中にカルマとイトナは抱き着いた。
「なに?」
「頑張ってくる」
「とりあえずね」
「ふふ、君達らしい答えだね」
時計を見れば、ああ後1分じゃないか。
「ほらほら走りな。1分後にはあれが教卓の前で立ってるよ」
「はーい。じゃまたね、先生」
「志貴さん、ありがとう」
「いいえ」
走っていく彼らを見ていれば何処からか何かが飛んでくる。それを咄嗟に翳した手で受ける。
「随分無防備に寝ていたから起きないと思ったんだかな」
「あれ、そんなに無防備だった?」
「俺から見ればな」
投げられた方を見れば烏間が。手の中の缶コーヒーを見て礼を言うとプルタブに指をかけて開けた。
「リラックスは出来たか」
「それはもう十分なほどに」
「なら、残る仕事に精を入れてもらわないとな」
「はぁ、この天気の良い日に仕事とは悲しいね」
「もう少し休んでても良いんだぞ?」
「とんでもない。溜めるのは趣味じゃないから」
一口二口飲むと校舎へ。そんな彼を見て烏間は小さく笑う。
「それに今頃あの子達も授業受けてるだろうから、俺も仕事しないと」
「面子が潰れるからな」
「そーそー。示しがつかないしね」
残り僅かとなった缶コーヒー。これくらいなら飲み干そうとすればそれを掻っ攫われる。
「…それ俺にくれたんじゃなかったの?」
「一口くらい良いだろ」
烏間の手へと渡ったその缶コーヒー。残り僅かを飲まれてしまった。
「あーぁ、飲まれた」
「後で淹れてやる」
「約束ね」
「ついでに砂糖も入れてやる」
「烏間さん?」
「冗談だ」
そんな話をしながら2人は校舎の中へと姿を消した。
秋空の下、サボり癖のあるカルマとコッソリ機具を触るイトナが今日は真面目に授業を受けている姿を見て殺せんせーは感動の涙をおーいおいおい!と流したそうな。
「あいつ、号泣だぞ」
「その目やめてよ。俺泣かしてないのに」
「間接的には関係あるだろ」
「えぇ?無実なんだけどな、俺」
「柴崎先生!聞いてください!カルマくんとイトナくんがぁぁぁ!」
「とりあえず涙拭けば?その辺り洪水にするな」
「柴崎せんせ、俺真面目に受けたよ」
「俺も」
「いつもそうであってくれると、俺もっと嬉しいんだけどな」
「数学はいつもちゃーんと受けてるよ」
「機具触っていない」
「数学以外の時の話ね」
「烏間先生ぇぇぇぇ、カルマくんが!イトナくんが!」
「その顔で近付くな!」
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