よし。柴崎は小さな拳を作ると、踵を返すようにして扉の方へ向かい、見える取っ手に手をかけた。のだが、その取っ手に指先が触れた瞬間に傾き、扉自体が遠ざかって行く。
お陰で柴崎の体は若干前のめりになり、体勢が不安定になった。それに慌てて彼は踏み出した足で踏ん張ろうとするも、傾く体は上手く体勢を整え切れなかったのか、そのまま前方へふらりと倒れていった。
「そろそろ痺れを切らす頃だと思ったら案の定だ」
「烏間…」
しかし倒れた後の特有の痛みが襲って来ず、それどころか温かく抱き止められる感覚がある。次いで降ってくる聞き覚えのある声に、柴崎は反射的に顔を上げた。
見ればやはり、ずっとずっと、なんならこれから探しに行こうとしていた相手、烏間が立っていた。
「俺を探しに行こうとしていたんだろう?」
「だって…理由も何にも聞かされずに此処に入れられたんだもん…。気になるよ」
「そこは悪かった。だが告げてしまっては意味がなかったからな」
だから黙っていたことに関しては許して欲しいのだとか。
するとますます柴崎の頭の上にははてなのマークが飛びに飛び散り、飛び回る。
告げてしまっては意味がない?どういうことなのだろうか。烏間は何か予定か、もしくは計画でも立てているのだろうか。
小首を傾げ、訝しげにする柴崎に烏間は小さく喉の奥で笑う。だがまぁ、こんな反応をされたって致し方がない話だ。
事実、烏間は特に何も告げずに此処へ彼を連れてきて、更には何も言わずに大凡20分程は待たせてしまっていた。そのため訝しげにされても当然のことなのだ。
「随分待たせたが、もう待たなくて良い。整ったからな」
「…ねぇ何が?何かしてるの?なんで此処に来たの?」
もう訳が分からないことばかりだ。早く答えを教えて欲しい。そんな風にして問うて来る柴崎に、それについてはあと少し待てと留めて、烏間は柴崎の手を取った。
「ほら、その膨れた顔を直してくれ」
「膨れてません」
「ふ、そうか」
取られた手が引かれる。足はそれに倣って、前へ一歩踏み出した。向かう方向はどうやら礼拝堂らしい。
そこへ行く道中も、中はシン──…としており、床の板が僅かに軋む音しか聞こえて来ない。
一歩、また一歩と進むたびに、柴崎は前を歩く烏間の背中を見た。
どうして彼は、此処へ自分を連れて来たんだろうか。こんな教会に、何をしに来たんだろうか。
辿り着いた先には過去、そして現代に至っても神の子と謳われるイエスの十字架がある。新約聖書によると、かのイエスは愛する弟子の密告により、その命を十字架のもとで終えたと言う。
悲しい話だ。けれどそれでも、神の子イエスは弟子を責めることも、恨むこともなく、その生涯を終えた。
教会に人の気はない。ひっそりと、とても粛然としている。牧師の姿も、シスターの姿も、何もない。
まるでここには彼と二人きり。烏間と柴崎しか居ない、酷く密やかな空間だった。
烏間の足が教壇の前で止まる。それにつられるよう、柴崎の足もその前で止まった。
繋がれた手はそのままで、烏間は前に見える色鮮やかなステンドグラスに目を向けた。まだ昼間ということもあり、外の光が美しくもその色彩を一層輝かせる。
「こんなところに来てなんだが、俺は神に誓う気はさらさらない」
「え?」
「だが他に良い場所がなかった。それに、見届けてもらうには他より最適だとも思った」
繋がれている手に、少しだけ力を感じる。そこに一度目を落とすも、柴崎の瞳は再び少し前に立つ烏間の横顔を映した。
少し、その彼が今深く息を吸った気がした。空間が静かな分、そんな、普段は聞き漏らしてしまいそうな音すらも鼓膜を揺らす。
靴底の擦れる音。衣服の擦れる音。呼吸の音。心臓の音。
その全てが、この空間に響き渡っているような錯覚を得た。
「14年前、俺がお前と出会えたのは…俺が選択した過去の一つだ。だから運命でも必然でも、偶然でもないと思っている。俺があそこへ行くと決めたから、俺はお前と出会うことが出来た」
「……」
「それから、13年目まで…長く抱いてきた想いを捨てなかったのも、俺が選んで決めたことだ」
長かった。片想いから、ずっと。
途中紆余曲折もあって、ただただ側にいては今もこうして隣に居てくれる彼の背中を支えて、また支えられてきた。
柴崎が泣いた姿をちゃんと見たのは、彼の父が亡くなった数日後。その時が初めてだった。それまでは敢えて背中を向けたり、少し距離を置いたりと。徒らに彼の領域へ入ろうとはしなかった。
あれから、本当に色んなことがあった。途中彼はアメリカに渡って、けれどそこで多くのものを捨てて、そして多くのものを背負って帰ってきた。
去年一年間の任務でその鎖は消えたが、もっと早く、もっと直ぐにでも、彼のその枷を外してやれないものかと思ったことは一度や二度ではない。
「そしてあの日に、柴崎へ想いを伝えたことも、俺が選択した一つだ」
今はこうして笑ってくれている。
たまに料理を失敗したと落ち込んでも、一口食べて美味いぞといえば、眉を下げながらも彼は嬉しそうに笑ってくれる。
出し忘れたと思ったシャツを出そうと思えばなくて、彼に聞けば洗っておいたよと。そう言われることはもう何度目だろうか。
いつだって、柴崎はあの家で、あの部屋で、笑ってこの名前を呼んでくれる。
──「烏間」
ただそれだけだというのに、他から呼ばれるより一等特別なように思えて仕方なく感じたのは、いつからだろうか。
照れたり、膨れたり。たまに本を読んで泣いてしまったり。作った料理を食べては美味しいと喜んでくれたり。
雨が降ってきたと慌ててベランダに向かう彼から洗濯物を投げ渡されることも、一緒に夕飯を食べたあとに数独を解いたりすることも、たまにどちらともなくキスをすることも、…肌を重ねることも。
共に暮らして見えてきたものは本当に多い。
けれどそのどれもが、掛け替えのない…宝ばかりだ。
「神に誓ってやるほど自信が無い訳じゃない。だがそれでも、嘘じゃないことだけは見届けて貰おうと思って、此処へ来た」
もうどうにも、この手を離すことが出来ない。
離す気も起きない。
自分は存外一途であったことを教えてくれたのは他でもない、柴崎だ。
そして人を好きになり、人を愛する気持ちを教え、与えてくれたことも…全ては彼が、この側に居てくれたからだ。
烏間の靴の先が柴崎を向く。刹那、互いの目が合って、互いの体が向き合った。
とくり、とくり、とくり…。どちらのものか分からない鼓動が、空気を揺らす。
「その残りの人生は俺が貰う」
「…っ…」
「だから俺の残りの人生は、柴崎。お前が貰ってくれ」
柴崎が一瞬、細く息を飲む。そうして僅かに、その瞳を揺らした。
烏間の手が伸びてくる。少しだけ冷えて冷たくなった指先が、柴崎の目尻をなぞる。
「これから先は、二人で生きよう」
唇が軽く噛まれる。揺らいで、そのひと雫は落ちない。けれど一度瞬きをした瞬間、それははらりと静かに頬を滑り、木の床へと染み込んでいった。
小さく鼻がすすられる音がする。軽く烏間がその目尻を指の腹でなぞると、目の前に立つ彼の眉間には薄っすらと皺が刻まれた。
「…っ…本当、ずるいよね…」
ステンドグラスから注がれる光が、柴崎の瞳にある潤みに反射する。そうして持ち上げられた顔は、その瞳は、ちゃんと烏間を見ていた。
「いっつも、そうやって…一人で先に、色んなことしちゃうんだから」
「…そうか?」
「そうだよ…、……でも、いつもその背中に安心してた」
いつだってそう。昔から変わらない。彼の背中は温かくて、安心出来て、何度も何度も助けられてきた。
父が死んだ時も、その背中が周りから自分の存在を遮ってくれた。海に行った時も、側にいるんじゃなくて、あえてその背中を向けてくれた。
それがどんなに、嬉しくて、頼もしくて、安心したことか分からない。
「父さんが死んだ時も、その前に…余命を聞かされた時も、…どうしようもなく不安になった時も、…烏間はいつも側にいてくれた」
しっかりなきゃ、しっかりしなきゃと。思えば思うほど、あの時は不安で堪まらなかった。
けれど彼の顔を見て、話して、同じ時間を過ごしていると、とても気が楽になったのを今もハッキリと覚えている。
泣けなかった自分を泣かせてくれた時も、心労で倒れて医務室のベッドから目を覚ました時も。
いつも、いつも…本当に手を伸ばせば届く距離に彼は居てくれた。
「アメリカであんなことがあって、あの時に…烏間には伝えないって、本当は決めてたんだ」
「…そうか」
「いっそ捨ててしまって、全部なかったことにして…忘れてしまおうと思った」
学生時代のこと。四つの季節を共に過ごした、あの日々のことを。
思い出の一つとしてまとめてしまい、抱いた気持ちもその一つにしてしまおうと…何度も何度も思った。
その度に彼の、烏間のことを思い出して、アメリカの夜を毎日長く感じた。
会いたい。会いたい。そう思って、けれど会えてもどんな顔をして会えば良いんだろうと思ったときもある。
日本に帰国をしたあの日も、帰って来れた安心感と嬉しさは感じたが、同時に躊躇いと迷いがあったのも事実だ。
けれどそれも、空港で「柴崎」と名前を呼ばれた瞬間…驚きのあまり一瞬でもその思いが薄れていったこともまた事実だった。
──「おかえり」
──「…烏間…?」
──「帰国が今日だと聞いて、待っていたんだ」
少しは驚かせてやろうかと思っていたが、その様子だと聞くまでもないな。
そう言って、三年前と変わらない笑みを向けて話してくれる烏間を見て…あの日、あの時の柴崎はこう思った。
あぁ、本当に…どうしてこうなんだろう、と。
「でも…、…っ…でも、結局、捨てれなかった」
嬉しかった。本当に、たかが三年という月日だというのに、彼の声を聞いた瞬間どうしようもなく泣きたくなった。
そしてもう駄目なんだとも思った。
忘れようなんて、捨てようなんて、なかったことにしようなんて…そんなことは自分には出来やしないのだと。
怖かった。恋や愛は、いつか人を殺してしまうことがある。綺麗なものばかりじゃない。選択を誤ったら、もう二度と、どうにもならないことになってしまう。
願っても帰ってこない。どんなに心の中で懺悔の言葉を連ねても、それはもう届かない。
想いが怖かった。この気持ちのせいで、もし烏間までと…そう思うと怖くて。ならいっそ彼が生きてくれていたらそれでいいと、想いにあの時は蓋をした。
叶わなくても良かった。実らなくても良かった。話して、顔を見られて、声を聞けて、そこに居てくれるなら、それ以上に望むことはないと。
生きていなきゃ会うことも叶わない。生きていなきゃ、話すことも、声を聞くことも出来ない。だから彼が、この先ずっと生きていてくれるならそれだけでと…アメリカから帰ってきた三年間は何度思ったか分からない。
時折本心が溢れてきそうで、でも押さえ込んで、見えないふりをして…苦しかった。息が詰まるようだった。
だったら本当に、捨ててしまえば楽になれると思ったこともあったけど…やっぱり駄目だった。
結局はどんな風に思っても、考えても、彼との思い出も気持ちも、全て無かったことには出来なかったのだ。
「だからあの時、烏間が先に想いを伝えてくれた時、すごく嬉しかった」
「…、」
「その時に、初めて譲りたくないって思った…」
アメリカから帰ってきた時は、そんなことを一つも思わなかった。いずれ来る未来で、この隣を譲る時が来たならその時は…快く譲る気持ちでいた。
そうするべきだと思っていた。そうしなければ、きっといけないんだと思っていた。
柴崎の瞳が烏間を映す。そうして流れる一筋と共に、彼はその目元を和らげた。
「烏間の隣を、誰にも渡したくないって思った…っ」
「っ…」
「散々、その時が来たらって思ってたけど…駄目だった…っ…、…烏間から言われて、もう良いんだって思ったら、…ずっと、…ずっと、その隣に居たいって思った…っ」
頬に当てられる手の平。それに触れて、瞼を落とす。
温かい。大好きな手。何度も何度も助けられて、支えられて、救ってくれた手。
一緒に暮らし始めたら、毎日が明るくて。一日はこんなにも早く過ぎるものなのかと驚いた時もあった。
失敗した料理も美味しいと言って食べてくれたり。たまにうたた寝をした時には起こさずいつも隣に座って、起きる時を待ってくれていたり。おはようって言えば、おはようって返してくれたり。おやすみって言えば、おやすみって返してくれたり。
傾けられる唇を受け入れたら、目が合えば、ほんの少しそこを和らげてくれて。
肌を何度重ねても、彼はいつも優しく…そして溢れんばかりの愛をくれた。
「…ねぇ、烏間」
「ん?」
好きになって後悔はない。捨てなかったことも、捨てきれなかったことも、諦めが悪かったことも、全部、後悔はない。
それ以上に烏間は沢山の幸せをくれた。沢山の愛をくれた。沢山の言葉と、温かさをくれた。
「…俺の残りの人生を全部あげるから、」
「、」
だからその分をこれから先、長い人生で返していきたい。そうして同じくらいに、彼へと贈りたい。
愛も温かさも、言葉も、幸せも。
もう両手では持てないよってくらいに、たくさん、たくさんあげたい。
「烏間の残りの人生を、俺にくれますか…?」
『幸せ』って、『仕合わせ』って書くときもあるらしいよ、と。
いつだったか、柴崎と烏間は今の部屋のリビングにあるソファで話したことがある。
偶然巡り合った良縁も、悪縁も、 全ては人と人とが出会って生まれたもの。人が生きて、この世に存在しているから、繋がり合えるもの。
良いことばかりが人生じゃない。悪いこともあって、泣いたり、悩んだり、迷ったりして、その中でまた人と人とが巡り合う。
そうやって、新たにしあわせだと思える出会いが生まれることもある。
その中で人は成長して、大きくなって、色んな感情を経験しながら、巡り合って来た人から多くのことを学び、そして多くのことを得る。
──「俺と烏間は、仕合わせの方が似合うかな」
──「どうしてだ?」
──「だって… 」
背中に回る腕。ほんの少しだけ見える互いの髪の毛。掻き抱かれた時から感じる温もりと、抑えきれない程のしあわせ。
流れる涙はちっとも止まらないけれど、零れる笑みだって止まらない。
──「だって、嬉しいことも、悲しいことも、たくさん経験して…やっとこうして今は一緒に居られるんだもん」
悲しいこともあった。辛いこともあった。逃げ出したくなる時も、全部放り投げてしまいたい時もあった。
でも同じくらいに、嬉しいこともあった。楽しいこともあった。たくさん笑って、騒いで、しあわせだなと感じた時だっていっぱいあった。
「柴崎、 」
「っ、うん…?」
「愛してる」
「ッ、」
「ずっとだ。…この気持ちを抱いた17の頃から、今も変わらずだ。だからこの先も変わらない」
──俺にはお前だけだ。
烏間の腕の力が強くなる。けれどそれに負けないようにと、柴崎もぎゅっと彼に抱き締めるも、止まってくれない涙が邪魔をしてくる。
「…っ…そんなの、俺だってそうだよ…っ、烏間のこと、ずっと前から大好きなんだから…っ」
「……あぁ、知ってる」
「負けないくらい、俺だって愛してるよ…っ」
もうこれくらい、これくらい愛してるんだからと手で表してやりたいけれど、今はそれどころではない。
しかし不意に体を離されて目が合ったとき、柴崎は驚いたようにその目をパチパチとさせた。
「烏間…泣い…っ、ん」
言葉を遮るような口付け。けれどそれは長く続かず、暫くもすればゆっくりと互いの唇は離れていく。
至近距離で視線が交わる。その中で薄っすらと見えたものに、柴崎は僅かに眦を柔らかくした。そうしてゆっくりと手を動かすと、その指の先で少しだけ烏間の目元に触れる。
「誤魔化さなくて良いのに」
「…格好がつかないだろ」
「ふふ、そう?俺はどんな烏間も格好良いと思ってるけど」
「、…っはぁ…それをこの距離で言うか…?」
「言っちゃ駄目?」
少し笑って、けれど優しく淡い瞳の色に烏間の次の言葉は飲み込まれていく。
そんな顔をして、駄目?と言われて、一体誰が駄目だと言えるのか。
「いいや、構わないさ」
「ふふ、」
笑う柴崎を見て、烏間も僅かにその口元を和らげる。そうして見える瞼に唇を寄せてキスをすれば、腕の中の彼は擽ったそうにまた笑った。
そんな時だ。丁度扉の向こうから人の気配を感じたのは。
ん?という風にそちらを見遣る柴崎の頭の上にははてなのマークが。その彼を腕に抱く烏間の頭には…特に何も飛んでいない。なんなら彼はその腕に掛けている腕時計へと目を落としていた。
「誰か来たのかな?」
「あと三秒だな」
「へ?」
そうしてカウントされる、3、2、1。直後礼拝堂の扉が大きな音を立てて(本来ならば静かに開けるが礼儀である)開けられた。
それにはさすがの柴崎もビクっと肩を震わせて、烏間の方へ向けていた顔を扉へとやった。瞬間、彼の顔は唖然というか…目の前に広がる光景に目が点といっても可笑しくない顔をしていた。
「柴崎ー!!烏間ー!!おめでとー!!!」
「おめっとさーーん!!」
「烏間ーー!!柴崎ーー!!っう…ッ、おめ、おめでとうな〜〜〜っっ!!お前ら、幸せになるんだぞ〜〜っ!!!」
「惟臣〜っ!良くやったわ!それでこそ私と忠正さんの子よ!」
「夕起子、落ち着きなさい。しかし惟臣、よくやった。これから先はお前がちゃんと柴崎くんを支えるんだぞ」
「志貴〜〜!!幸せになるのよ〜〜!!お母さんずっと、ずっとこの日を、この日を〜〜…っ!」
「えぇ!?母さんなんで今泣くんだよ我慢しろよ…!って、もうっ、あ、兄貴ー!あーその、なんだ!幸せになんねぇと許さねぇかんなー!!
「柴崎先生〜!烏間先生〜!!おめでとう〜〜!!」
「やっとですね烏間先生ー!!これでもう本物の夫婦っすよ!!」
「柴崎先生、おめでとうございます!」
「おめでとう先生!幸せになってね!」
「〜〜っシバサキ!カラスマに飽きたら私もいるんだからね!!」
「ビッチ先生、それはないよ」
「なんでよ!!」
「うん、ない。烏間先生と柴崎先生だもん」
「なんでよ!!!」
赤井、花岡、宮野、烏間の母・夕起子と父・忠正。そして柴崎の母・香織に弟の雄貴。更には去年一年間共に過ごして来た元E組の卒業生たちに、祝っているんだか悔しがっているんだか分からないイリーナ。
そのあまりの勢揃いさに柴崎は開いた口が塞がらない。
一体どうやって、こんなにも…と。困惑を通り越して驚きしか湧かないし、先程までの涙も衝撃のあまり引っ込んでしまっていた。
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