それだけの理由


※名前は捏造

その日は休日で、母さんの体の調子も良くて俺もバイトが休みだったということもあって久々に家族で外に出かけた。普段は公園や広場だから、たまには街に出た。休日のせいか人も多い。あまり贅沢はできないけど、買う物も買えて、ブラブラするだけだ。



「あんまり離れて歩くなよ?」

「「はーい!」」


弟の悠太と妹の春香にそう言う。2人は家族で出かけられた事が嬉しい様だ。



「その体育担当の先生方って凄いのねぇ」

「あぁ。烏間先生も強いし、柴崎先生も凄く強いんだ!それに柴崎先生は数学も担当してて、分かりやすいから数学が面白いんだ」

「そうなの。…ふふ」

「?」

「笑ってごめんね。1ヶ月前くらいからかしら。それくらいから悠馬がとても楽しそうだからお母さん嬉しくて」

「そ、そうかな…」

「えぇ」


確かに、学校は楽しい。家族には言えないけど、殺せんせーや防衛省の烏間先生、柴崎先生に殺し屋のイリーナ先生。俺らのクラスには頼もしい先生がいるから本校舎から何を言われても余りへこたれなくなった。勿論、周りのみんなのおかげもある。


「良い友達や、良い先生に出会えて良かったわね」

「あぁ。…あれ?」

「どうかしたの?」

「あれって…」


母さんから目を離して前を見ると本屋から出てきた柴崎先生だ。私服だからイメージが変わるけど、あれは絶対に柴崎先生。




「柴崎先生!」

「?」


声を掛ければ振り向いてくれる。やっぱり先生だ。


「磯貝くん?」

「はい」

「偶然だね」

「ビックリしました。前を見たら先生がいたので」


近寄れば笑いかけてくれて、自然と俺も笑顔が浮かんだ。


「1人で来てるの?」

「いえ、家族とです」


後ろを振り向けば、母さんと弟と妹がキョトンとしていた。3人を連れて来て、少しだけ端に寄る。



「悠馬、この方は?」

「さっき話してた体育と数学担当の先生の1人、柴崎先生だよ」

「まぁ、この方が!初めまして。悠馬の母です」

「こちらこそ、初めまして。磯貝くんの体育と数学を担当してます、柴崎です」


母さんと柴崎先生は互いに頭を下げると笑い合っていた。



「お若いんですね」

「いえいえ。もう28です」

「え!もっと若く見えました…」

「ははっ、ありがとうございます」


母さんの言うことは分かるかも。柴崎先生は実年齢より若く見える。穏やかだからかな。優しい人柄が出てるっていうのもあるのかもしれない。




「磯貝くんはとても優秀で優しい子ですよ」

「へ?」

「本当ですか?私がこんな体ですし、弟も妹もまだ幼いのでこの子に頼りっきりで…。無理してないかと心配で…」


いつの間にか俺の話になったいてビックリした。って、母さんそんなこと気にしなくて良いのに…。



「学校生活ではいつもお友達と仲良くされてますよ。学業の方にも一生懸命勤しんでいますし、こちらからは何も言うことはありません。それに、磯貝くんは無理をすると案外顔に出る方なので、すぐに分かります」

「え!?お、俺出てますか?」

「ふふ、時々ね。他の人は気付いてないかもしれないけど、俺はそういうのに敏感だから」

「知らなかった…」



いつの間に顔に出てたんだろう…。無意識に出てるのだろうか。でも、周りに気付かれてないならそれに越したことはない。心配をかけずにすむし。



「無理をしていれば、私が気付きますのでご心配なさらないでください。…とはいえ、母親はいつまでも子の事は心配ですから難しいかもしれませんが」

「そうですか。柴崎先生がそう仰ってくださるなら安心です。…そうですね。いつまでも子供は子供なので。柴崎先生のお母様も同じですか?」

「えぇ。私の母親もよく心配してか電話が来ます。大丈夫だと言っても、やはり心配なようで」

「親はそういうものですものね」

「はい。…あぁ、立ち話では疲れませんか?ご用事もあるだろうしあまり引き留めるのも申し訳ない」

「お気遣いありがとうございます。そうですね、そろそろお暇させていただきます。…あら?悠馬、春香は?」

「え?さっきまで隣に…。悠太、春香知らないか?」

「分かんない…」

「どこ行ったんだろう…」


本当にさっきまで近くに居たのに、一体どこへ。



「ママぁ!」


そこに大きな子供の声が聞こえた。よく知っている。この声は…


「春香!」

「ママぁ!お兄ちゃん!」

「おらッ!道開けろ!」


ナイフを持った男が春香を捕らえて周りの人に向けている。誰も近寄れない。本物のナイフ。あれが、もし春香に当たったら…っ!



「磯貝くん、お母さんと弟さんのそばに居てあげて」

「え…」

「大丈夫。ちゃんと助ける」

「…っはい」


そうだ。ここには柴崎先生がいる。先生なら、あんな男…。

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