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2年になり、陸上自衛隊、並びに第一空挺団へとめでたく入隊した。



「柴崎」

「?」


振り向けば3年の空挺団員・川島がいた。1丁のライフルを手に。


「今から狙撃訓練だ。何回かしただろ?ここでも」

「はい。4度目です」

「今日はちょっと変わった狙撃訓練でな」

「変わった?」

「まぁ来い来い。見てのお楽しみだっ」


川島に腕を引かれ行けば空挺団長の黒川がそれはもういい笑顔で立っていた。



「おー、川島。柴崎連れて来れたか」

「はい。まあまだ話してませんので」

「なんだ話してないのか?」

「…あの、なんですか?」


そう柴崎が聞けば2人はニコリと笑う。嫌な笑顔だなと心のうちで毒を吐く。



「実はな、もう他の新入隊員には今日させたんだがな。残るはお前だけなんだ」

「はぁ…」

「烏間と赤井と花岡には柴崎に黙っといてくれって言ったから、その分だとなーんにも聞いてないな。よしよし」

「?」


確かに赤井、花岡、烏間とは共に第一空挺団だが何も聞かされていない。そんな素振りも見せなかった。



「まぁこれな。あと、革手袋」

「あ、はい」

「で、あそこに見える紙見えるか?」

「…えぇ、まぁ。…えらくバラバラに吊られてますね。あれじゃ風に煽られて軌道が読み辛い上に砂埃もあるんで視界が悪いんじゃないんですか?」

「流石柴崎。目の付け所が違う。あれをな、撃ち抜いてくれ」

「……は?」


思わず黒川を見てしまう柴崎。そんな彼は変わらず笑っている。



「距離は5km先からだ。さっ、川島。柴崎を案内してやってくれ」

「はい。ほら行くぞー」

「っえ、5kmって無茶ですよ!あんな縦横無尽に飛ぶ紙撃ち抜けって言うんですか?」

「1年の時のお前の射撃・狙撃成績はトップだ。大丈夫!問題ない!」

「(大有り…!)」


川島によって連れて行かれる柴崎を赤井、花岡、烏間は見ていた。彼らは黒川から柴崎に言うなと言われていた為ずっと黙っていた。そして今から彼がやらされる事は彼が別の訓練をしている間にさせられた。



「おーおー、連れてかれたな。柴崎」

「どう?撃ち抜けると思う?」

「まぁあいつの射撃・狙撃の成績は郡抜いてたからなー」

「烏間でも10枚舞う中の4枚だぜ」

「照準が定め辛い。目が慣れなければ全てを撃ち抜くなんて出来ない」

「そんな烏間は柴崎がどれだけ撃ち抜くと思うんだよ」


赤井が烏間の肩に腕を回す。回された彼の目は遠くなる柴崎の背中だ。



「……全弾命中かもな」









5km離れた場所に柴崎は立っていた。スコープを覗けば、それは縦横無尽に、好きなように舞う紙10枚。さらには舞い上がる砂埃で視界も良いとは言えない。あれを撃ち抜けというのか。


「はぁ…」

「どうだ、出来そうか?」

「どうでしょう。やってみなきゃ分かりませんね」

「(…!…へぇ)」


普通なら無理だと、出来そうにないと一言二言いざ目の前にすれば出てくるもんだ。だが目の前のこの男はどうだ。「やってみなきゃ分からない」と言ったではないか。あのどちらへ向くか分からない…自由奔放なあの紙を相手に。今までの記録上、この訓練で最高8枚命中が最高記録。それ以上の記録はない。川島は目の前のこの男に言い知れぬ期待と高揚感を抱いた。もしかすると…なんていう予感が過ぎったのだ。


柴崎はライフルから顔を離し、革手袋を嵌める。そしてライフルに手をやり、弾を確認すれば10発分。失敗すれば全弾命中はならない。流石空挺団。やることが違う。この状況下で、この難題。普通なら意気消沈だ。だが柴崎は違った。どこかこの状況を楽しんでいるような…、勇気凛凛としている。

そして、狙撃体勢に入る。



「(…なんて集中力だ…)」


じっと、獲物を狙うその姿勢。動かない体。呼吸をしているのか。そう思ってしまうほど。ただその5km先にある獲物を得る為にスコープを見る。トリガーには指が掛けられない。打つ瞬間のみに添えるのだ。そして、1発の弾が撃たれた。



パシュッ!


それからただ指を動かし、たまに銃口を僅かに変える。その程度の動きだけをし10発撃ち終えた。


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