「やってらんねーよ」
「マジでそれな。やってらんねぇ」
「ノートとか見たくねぇもん」
「シャーペンも握りたくない」
「教科書も燃やしたい」
「このプリントも破りたい」
「「てかテスト消えろ」」
「「煩い」」
自習室にあるテーブルで教科書やらノートやら参考書を開き手を動かす烏間、柴崎。その反面、そのテーブルにダラーリとする赤井にシャーペンを鼻下と唇の上に置いて宙を見る花岡。
「なぁー柴崎」
「ん?」
「疑問に思わねぇ?」
「なにが」
「テストってもんがこの世の中にあるって事が」
「明後日テストで大した余裕もないくせに余裕感(かま)してる方が疑問」
「もう嫌だ!嫌!嫌ー!」
「はぁ…分からないから教えてくれって言ってきたんじゃなかった?」
「古典分からん!」
「ここさっき教えた」
「違う!ここ!」
「似た問題だから解いてから聞いてっ」
「見ただけで分かる!分からん!」
「面倒臭いな、本当に…っ」
どこ?と花岡の方に体を寄せて聞く柴崎。待ってました!とそれに飛び付く花岡。それを見ていた赤井と烏間。
「マジオカンだな」
「基本、困ってる奴を放って置けない質だからな」
「それがマジでオカン。いやぁ、てーへんだ」
「そう思うなら助けてやったらどうだ」
「花岡を?無理無理!あいつの古典の出来なささは天下一品」
「物理も似たようなもんだがな…」
そんな会話をしつつも途中から烏間は手を動かす。赤井の手は止まってるが。そして耳に入ってくる会話。
「だから、ここは詠嘆で訳して…」
「…?詠嘆?」
「…詠嘆っていうのは、〜なことだねとか、〜だなぁっていう訳」
「あ!この木はデカイなぁみたいな?」
「…ま、うん。そんなの」
「ははーん。なるほどな!」
「本当に分かってる?」
「分かってるって!んじゃ、こここうだろ?そこに1人の男がいたなぁ」
「そこは、居たそうだ。だよ」
「は!?なんで!」
「そういう文。前後文訳して」
「訳せねぇ」
「……」
机に腕を突いて項垂れる柴崎。そんな彼に、あれ?どした?と聞く花岡。赤井は机にうつ伏せて笑う。烏間は手を止めて笑いを殺す。
「く…っ、ふっはは…っ」
「…っふ、」
「あいつ…っ、ばっかでー…っ。マジでなにその訳…っ」
「珍回答だな…っ」
「そ、そこに…っ、男が居たなぁ…って…っふ、ブブッ…っ」
「…っつ」
「えー?なんで?居たなぁじゃ駄目なのかよ」
「……あのな、「けり」の詠嘆って短歌でよく出てくるわけ。で、この文はどう考えても詠嘆では訳さないの。過去で訳す。分かった?」
「居たそうだって?」
「そう」
「んー…。あ、じゃあこれはこうだろ。大きな穴があったなぁ。だから嵌ってしまったなぁ」
「〜っ違うから。大きな穴があったから落ちてしまったって訳」
「何が違うんだよ!」
「ニュアンス。察して!」
「無理!察するとか無理!」
「大体文切れてないのになんで切ったんだよ」
「そんな感じがしたから切った」
「切るな、勝手に」
「…っ無理、もう、無理…っ!腹捩れそう…っ」
「…っ、」
「なんなんだよ…その、訳…っぶ、っふふっ、」
腹に腕を回して体を折る赤井。シャーペンを持たない方の手を額に当てる烏間。聞こえてくる花岡の珍回答が辛い。それに答える柴崎もまた健気で聞いていて辛い。
「もう古典いいや。柴崎、漢文教えてー」
「…漢文の何が分からないの」
「んー…まぁ大まかに言うとぜ…「全部はなし」……こことか?」
「んー…。ここは反語だよ」
「反語?…あ!あれだろ。〜か、いや〜だ!」
「花岡…!」
「へへっ。これくらい俺も分かるぜっ」
「やれば出来るんだからやろう。花岡出来ないわけじゃないんだからさ」
「そ、そうか?そう思う?」
「思う。はい、頑張って」
「おっしゃ!やるべ!」
漢文のプリントと向き合い始めた花岡。それを見届けてから柴崎も自分の勉強に戻る。
「上げんのうま…」
「…意識的だと思うか」
「…いや、ありゃ無意識だ」
「…だろうな」
「いやん、柴崎くん罪な男っ」
「……」
「おい、烏間。無視すんな。なんでここで無視すんだよ」
「無視してない。聞いてないだけだ」
「嘘を吐くな!嘘を!」
そして3日後のテスト。花岡はなんとか国語科のテストをクリアし、柴崎に感謝の涙と共に抱き付いた。
「ありがどーー!柴崎ー!!俺生きたーー!」
「はいはい良かった良かった。頑張ったね」
「神様ー!仏様ー!女神ー!アベマリアー!」
「なんでも上げたら良いってもんじゃないから」
「仏陀ー!如来蔵ー!金剛力士ー!」
「誰がだ!!思い付くもん上げるなっ!」
「テスト終わってもあいつは大変だな」
「後で甘いものやるか」
「あぁ、イライラに効く糖ね」
「見ていて不敏だ」
「ついでに烏間側に居てやれー。そしたら柴崎も息付けんだろうよ」
「俺が居て息付けるのか?」
「あれ、気付いてねぇの?お前らお互いにお互いが側にいる時めっちゃ気抜けてんの」
「……」
「だからお前が居たら柴崎も気抜けるし、お前も柴崎居たら気抜けるから一石二鳥だろっ。また明日から変わらず訓練と座学だからなー」
未だ柴崎の背中の上に乗っかり感謝の言葉を述べる花岡を赤井はまだやってらーよと言いながら止めに行く。それを烏間はただ見ていた。
「(…気が抜けている、か…)」
「花岡、退いて」
「柴崎ー!ありがどー!」
「おーい。花岡降りろー」
「…そうかもな」
なかなか降りない花岡に四苦八苦する柴崎と赤井を見てそう呟き、近寄ると花岡の首根っこを捕まえて降ろすのだった。
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