girl



「松本っ、ビシッとこいつに叩き込んでもらえ!」

「はいっ!」

「(……読めない)」

「体術に関してこいつはトップだ。おまけに空手は関東・全国大会優勝連覇者!吸収するものは多いはずだっ!」

「これを機に私も強くなります!」

「その域だ松本!!」

「(どの域だ。……大体…、)」



目の前で繰り広げられる読めない会話。その側で立つ柴崎。少し遠目から注がれる視線。集る訓練生達。



「頼んだぞ!柴崎っ」

「よろしくお願いしますっ!柴崎さんっ!」



何が頼んだで、何がよろしくなのか全く分からない。



「…平松教官、まだこの状況についてのご説明を頂いていません」

「うん?おっ、そうだったか?」

「何も言わずにただ腕を取られてズルズル引っ張られて来ただけです」



そう柴崎が言えば、平松はそうか、そうだったか。いやすまんすまん!と笑い飛ばした。そんな彼の隣に立つ女子隊員はピシッと背筋を伸ばして立っている。



「こいつは1年の松本。見ての通りまだまだ尻が青い防衛生だ。もう何度か訓練をしているが、いかんせん体術が苦手な様でな。同期と組手をしてはよく投げ飛ばされている」


なっ!と松本に声を掛ければ、彼女は少し顔を下に向け、お恥ずかしながら…と言葉を漏らした。



「なかなか自主訓練にも励んでいる様なんだが1人ではそう上達もせんようでな。…そこでだ柴崎!」

「察しましたので省いて頂いて構いません」


そして目の前の松本に目を移す。すると彼女はぱちりと目があった為肩がビクリと上がった。それに内心苦笑い。緊張しているのかなんなのか。だが恐らく緊張だろう。肩もそうだが全体的に硬くなっている。



「宜しければ訓練成績を見せて頂いても…」

「というと思ってちゃんも持って来た!ほらっ」

「ありがとうございます」


渡されたそれを見る。確かに組手成績はあまり良くなく、バツがよく見られる。




「松本さん、だっけ?」

「っはい!」

「ははっ、そんなに硬くならないで。体術はリラックスが大切。気張らないで普段通り、同期の子達と居るようにしてくれると嬉しいな」

「(き、キラキラして見える……!!)」


目の前で成績表を手に笑い掛けてくる柴崎に松本は変な汗をかいた。




「教官、一度実践してみてもよろしいですか?」

「ん?組手か?」

「はい。彼女が嫌でなければ、実際に目で見て確認したいのですが」

「まぁ紙面上の結果より目で見た方が尚正確だな。よし、どうだ松本!実際に柴崎を相手に組手をしてみんか?」

「ええっ!?えっ、あっ、えっ、うっ、えっ!?」

「無理にとは言わないから良いんだよ?;;」


あまりに吃る彼女を見て思わず苦笑。だが視線を彷徨わせ、暫くしてから顔をあげれば真っ直ぐ柴崎を見た。



「ッ是非!お相手よろしくお願いしますっ!」


勢い良く頭を下げれば再び頭を上げた。そんな松本を見て、どこか自身も所属している団の倉木に少し似ており小さく笑う。あれも熱血で熱心な男であるが、この少女もまた…真面目で熱心な子なのだろう。



「じゃあしようか」

「はい!」



そこから何度か軽めの組手をする。そして癖を見抜いた。



「松本さん、相手に向かって行く時少し尻込みするね」

「うっ、…はい」

「相手に仕掛けるのは怖い?」

「…怖いというより、どこから手を付ければいいかよくわからなくて…」

「…なるほどな」


向かうには相手のどこかを掴むか技を掛けるかだ。しかしそれで迷えばあっという間に相手に技をかけられ、自分は地面とご対面。という事になるのだ。



「まぁ、まずは相手を真っ直ぐ見て視線は逸らさない事かな。その理由のせいか、視線が彷徨う癖がある。そうなると隙が生まれて相手は技をかけ放題。視線が逸れた時にされると、体術が苦手なら咄嗟に受け身も上手く取れないから危険だよ」

「つい…。…どうしたら迷わず向かえるんでしょうか?」

「んー…。迷うって事は、相手を掴めるかどうかっていう意味だよね。体術は何においても間合いが大切なんだ。間合いを制したものが勝つ、なんて言われるくらいにね」

「間合い…」

「距離は人それぞれ。歩幅も違えば手の長さも違う。だからこれは自分で感覚を掴むしかないかな。間合いを掴むっていうのは基礎中の基礎だけど、とても大切なことなんだよ」


この間合いでは手は届かない。ではこれくらいならどうか。練習をし感覚を掴む。間合いは相手を見る事から観察力を伸ばすことが出来る。引いてはそれは相手の癖や引き際なんてのも見付けられる力に繋がるのだ。



「普段の訓練でまずは相手との間合いを掴むことから始めてみると良いよ」

「ありがとうございます!今度の訓練からまず間合いを掴むことから励みますっ!」

「うん。分からない事があれば聞きに来て。訓練以外は普通に校舎にいるから」

「何から何までありがとうございます!!」


何度も頭を下げる松本。その傍でそんなに下げなくて良いよと苦笑の柴崎。そして、



「(やはり柴崎に任せて正解だったな!)」



よしよし、と頷く平松の姿があった。

prevnext





.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -