この第一空挺団を纏める黒川団長は既に酒を開けて煽っている。それを止める川島と甘い物を食べては飲む冴島を蹴っている。宮野は進藤と桜を見上げながら話している。だが進藤は無口な面があるため会話が出来ているかは…謎である。
赤井と花岡は省略だ。いつもとなんら変わらない。
そして、
「烏間さーん、柴崎さーん」
「お2人もこっちでどうっすかー!」
「あの、あのっ、桜!綺麗ですよ!」
新しい空挺団員、土井・倉木・間宮。他にも勿論居るが、入団当初からメキメキと力を伸ばしているのは主にこの3人だ。
「…あの子達も元気だね」
「ま、何よりだがな」
「ふふっ、言えてる」
未だ呼ぶ土井に今行くと声を掛けてそちらへ足を運んだ。
「あの、柴崎さん、」
「ん?なに?」
「……さ、ささ、」
「?」
間宮が柴崎を少し見上げて何かを言おうとするが言葉が出て来ない。話し掛けられている彼も間宮が何を言いたいのかまだ察せず首を傾げる。
「さ、」
「……」
「っさ、…っ桜の下には本当に人は眠っているんでしょうか!?」
「……え?」
真面目に聞いています。そんな文字が彼の周りに見えて、最近安眠出来ていないのかな…なんて言葉が浮かぶ。
「…埋まってるか埋まってないか知らないけど、「桜の樹の下には屍体が埋まっている」っていうのは元々小説から来た一説だよ」
「え、そうなんですか?」
「あぁ」
土井がそれを聞き、へぇ…と声を漏らす。そして桜へと目を移し、見上げる。
「こんなにも綺麗なのには理由がある。その理由はさて何か。…物語の主人公は2日3日と考えてようやく出た答えが、「桜の樹の下には屍体が埋まっている」だったんだ」
見上げる桜は満開で、薄紅色をした花弁が重なり合い、空を桃色に染めた。
「この綺麗な桃色は、きっとその下に眠る者から吸い取られ滲んだ血の色なんだろう。っていう話で…って、あれ、怖かった?;;」
少し青い顔をする間宮にごめんね、と謝る。
「じゃ、じゃあ…あそこの下には…」
「土と小さな石くらいしかないと思うよ。あ、あとは虫かな」
そう言えばパァッと明るくなり、分かりやすい子だなと柴崎は小さく笑った。
「これでもう怖くない?」
「怖くないですっ」
「なら、今からでも良いから見ておいで」
「はいっ」
桜の木の下へ小走で出かけていく後ろ姿に笑みが浮かんだ。それを見てから先にある桜の木の下へ向かう。喧騒から少し遠ざかったそこは静か。しかし人影を見付け、覗いてみる。
「…あれ、ここに居たんだ」
「?…あぁ、柴崎か」
見上げていた木のそばに座っていたのは烏間だった。きっと彼も騒がしさの中よりもこうして静寂な所の方が落ち着くのだろう。
「……お前は桜が好きか?」
「え?……んー…、…普通かな。綺麗だけどね」
「そうか」
「烏間は嫌い?」
そう聞くと、彼は桜の木を見上げる。
「特別好きでも嫌いでもないな」
「らしい答えだね」
くすり、と一つ笑えば舞い散る桜を見上げた。紅色に色付いたそれは春しか見られない。風が少し吹けば、1枚、2枚…と緩やかに落ちてゆく。誰の手に落ちることなく、その一片は先に落ちてしまっていた花弁の中へと混じり、分からなくなった。
「……?」
「…付いていた」
一片の花弁が髪に落ちていたようだ。
「ありがとう」
「いや、」
その花弁を手放せば、それもまた同じように地へと落ちて行った。ヒラヒラと舞って落ちるそれを目で追う。
「……紛れてしまいそうだな」
「なにが?」
「…柴崎がだ」
「え?」
桜の木の下で、眠る人。
桜の側で、見上げる人。
「…消えそうだ」
淡い色の中に、柔らかな温かさを持つ彼は紛れて見えなくなってしまいそう。埋もれる根が這って、その足を掴んでしまいそうだ。
「ここの桜の中じゃ流石に紛れられないよ」
「……」
「でも、桜吹雪の中だと少し見えなくなるよね。並木道に立っていたら、紛れていたかも」
そう笑って話す柴崎に、烏間も一つ小さく笑った。
「…そうだな。その中にいれば、紛れて見えなくなるかもしれない」
「視界も悪いんだろうなぁ」
「舞うとな」
2人して見上げる桜は満開。時折散る花は、風に吹かれて飛んで行った。
春霞たなびく山の桜花 見れどもあかぬ君にもあるかな
───春霞がたなびく山の桜のように、いくら見ても飽きない貴方です
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