ダァンッ
「………」
的に残る、照準がズレた為付いたミスの残痕。それを見て一つため息をついた。
「なんだ、柴崎調子悪いのか?」
「宮野さん…」
「珍しいな、お前が射撃で外すなんて」
悩み事か?そう聞かれ、少し黙る。
「的からズレるって時は大概心が乱れてる時だ。だが多少の乱れじゃ、冷静沈着なお前がど真ん中から外すなんて事ないが…、」
的にもう一度目を移す。大凡5cm程真ん中からズレた跡。
「…なかなからしくない位には外したな」
「……合わせたつもりだったんですけど」
撃てば照準が乱れていたのかあのザマだ。元あった場所に銃を直し、ゴーグルを取った。
「?」
「まぁ来い」
腕を取られ連れて行かれる。休憩場に行けば誰も居ず、近くにあった自販機から宮野は缶コーヒーを2本買う。
「ブラック飲める?」
「はい」
「なら、ほら」
「…すみません、ありがとうございます」
渡される缶コーヒーを受け取る。熱くて火傷してしまいそう。
「……で、」
「…?」
一口飲んだ彼は口を開く。プルタブに指を掛けていた柴崎はそんな彼に目をやる。
「何にお悩みだい?」
「え……、…悩みって…、」
悩み。そんなものは一つしかなくて、それしか思い付かない。
「烏間にも言えない事なんだろ?」
「………(だってあいつの事だしな…)」
本人の事で悩んでいるのに本人に言える筈がない。見てくる宮野に柴崎は考えると、その口を開いた。
「……宮野さん」
「ん?」
「ちょっと俺の頬触ってみてください」
「は?」
どした柴崎。風邪引いたか?
引いてません。
「………これで良いか?」
「(…なんとも思わない)」
触られたが何にもなんとも思わない。もっと言えば熱くもならなければ速くもならない。
「…なんだこれ?なんか意味あるのか?」
「……あの、」
「ん?」
「……、…これされて、心臓って速くなりますか?」
「……え、…あ、いや…、…そうだな…」
なかなか無い、柴崎からの質問にこれは答えてやらねばという気持ちが芽生える。
「………」
「………(…された側、…柴崎されたのか?誰にだ…!?)」
「………」
「………(…どこのどいつだ?第一空挺団のある意味癒しな柴崎に手出したの…。兄ちゃん怒んぞ)」
「……あの、」
「あ?」
「……すみません、やっぱり良いです。自分で考えます」
なかなか返答の無い宮野に変な質問した自分が悪いと思った柴崎は立ち上がりコーヒーありがとうございました、と言い歩こうとした。
「っ待て待て!すまんっ、考え事してた!」
「変な質問しましたよね、すみません」
「あーっ、いやっ、俺が悪かった!だから行くなっ」
「……?;;」
必死に止めてくる彼に柴崎はなんでそんな必死なんだと首を捻る。まぁ待て、と言うのでそれに従い腰を下ろす。
「…あー…と、…そうだな。…速くなるかならないかといえば状況にもよるが、少しでも相手に好意があると速くなるんじゃないか?」
「…………好意?」
「好意って言っても、like寄りじゃなくてlove寄りな。好きな人にそんなことされたらドキッとしねぇ?」
「…………」
好意、……好きな人。
「好きな人?」
「? あぁ。好きな人が出来るとさ、ちょっとした事が嬉しいだったり、悲しいだったりするもんなんだよ。こん位小さくて何気ない事が、恋したら面白いくらい一喜一憂させて来てさ」
指で大きさを表し、そう話す。
「相手の小さな事に気付いたり、隣に居て安心したり、落ち着いたり。でもなんかそれとは違う、んー…こう、ドキッとする様な事があったら慌てたりしちゃうんだよ」
それこそさっきの頬触られるとか。そう言って話されるのを聞き、あれ…、と心の中が変に騒ついた。思い当たる節があるからだ。
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