firm belief



明日で此処を出る。そんな日の夜、外へと出てみた。近くにあったベンチに腰掛ける。



「……冬はやっぱり綺麗だな」


澄んでいてはっきりと見える。夏は此処まで見えなくて、星の数も少なく感じる。

この1週間、…いやここ最近の事を思い出す。そして考える。心の中を。



「(…初めて会ったのは、…去年の2月か)」


そう考えるともうすぐ2年。あの頃はこんな風に考えたり思ったりしなかった。過ごす時間が増えて、一緒にいる時間が増えて、怒られたり泣いたり笑ったり助けられてり安心したり…。色んな事があって、初めのあの頃と少しだけ違う、そんな気付きはあった。




「(…どうしてあの時騒ついたんだろう)」


小さな丘で寝転がって、いつかこの人の隣には寄り添う人が出来るんだろうな。そう思った時、騒ついた。…嬉しくない、かも。そんな気持ちが浮かんで、最低だなと思った。




「なんで、素直に喜んであげられないのかな……」



良かったねって。大切にしてあげてよって。言えなさそうな自分が居そうで、そんな自分が嫌だ。




「っ、」

「…冷えるぞ」


ふわり、と肩に掛かる薄手の羽織。肩に温もりを感じて見上げれば烏間が居た。



「…烏間、」

「寒いだろ。体、冷やしてやるな」


こんな風な気遣いも、本当に彼は誰より優しいと思う。



「うん、ありがとう」


肩に掛かった羽織を少しだけ引き寄せた。温かい。自然と表情が穏やかになった。





「…星か?」

「そう、星。冬は綺麗なんだ」



見上げれば満天の星空。晴れているからとても綺麗に見える。一段と輝くのはシリウス。このシリウスと残り2つの星、ペテルギウスとプロキオン。この3つを結ぶと、あの有名な「冬の大三角」が出来る。

そしてシリウス、プロキオン、ポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲル。この6つの星を結んだものを「冬のダイヤモンド」と呼ぶ。




「…綺麗だな」

「うん。…綺麗」


烏間に良かったら隣に座れば?と言えば、彼は座った。星空を見上げて、3つ縦に並ぶ星を見つける。



「…あれってなんだっけ?」

「ん?」

「あれ」


柴崎が指指す先を見る。確かにそこには縦に並ぶ3つの星。



「……あれじゃないか」

「ん?」

「…オリオン座」

「あ、そうだそうだ。オリオン座だ」


忘れてた。そう言って夜空を見上げる。



「…懐かしいね」

「……」

「…去年の夏、烏間とこうやって観てた」



あの時は防衛学校で。夏場の夜空を見上げて、あれが彦星、あれが織姫。晴れれば会える。雨なら会えない。でももしかしたら鵲が橋渡しをしているから会えたのかもしれない。




「…あの時のお前はどこか悲しそうだった」

「……」

「良く良く考えれば分かった。…父親の事があったからだと」



まだ余命を聞かされていなくて、それでも夏季休暇の間に行かなければならない事は知っていたから、あの時見た空は悲しかった。




「…凄くね、辛かったんだ」

「……」


空から目を離して、ベンチの背凭れに凭れて少し遠くを見る柴崎。



「……だからあの時のあの空が、何だか寂しくって」


綺麗な星を、儚く光る星を、月が天高く周りを灯す中見るのは辛かった。



「…でも今年の夏に見た空は全然マシだった」

「……」

「…今見る星も、全然悲しくない。素直に綺麗だなって思える」


空を見上げている柴崎を烏間は見た。その表情からは嘘が見えなくて、本当なんだろうなと思えた。



「1つ区切りがついたからって言うのもあるんだと思う。…けど、きっと1番は」


空から目を離して烏間を見た。?、と言うように見てくる彼に柴崎は小さく笑う。



「烏間が側に居てくれているから」

「…っ、」

「去年も、今も、こうして側に居てくれて…時々止まりそうになったら手を引っ張ってくれた。でも無理に引っ張らないでくれて、ペースに合わせてくれた。だから立ち止まらないで居られるし、笑っていられる。…ありがとう、烏間」



笑う柴崎を見て、何かがストンと落ちた。それが分かって、小さく小さく…口元に笑みが浮かんだ。




初めて会ったのは2年前の2月。

再会したのはその年の4月。

春を過ごし、夏は共に海に行った。1人涙を流すその背中を見て、烏間は背を向けた。

秋は枯れ葉散る中また過ごし、冬が来たのだ。



家族を1人喪った柴崎が、周りに心配をかけたくないと泣かずに耐えていた。しかしその閉じていた蓋を開けて、我慢をさせなかった。
倒れて、目が覚めて、ほろほろと流したその涙が、その理由が未だに頭に残っている。けれどその後からの柴崎の表情は柔らかくて、心に余裕が出来た、そんな風で…あの表情が好きだ。


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