wall 2



風呂から上がり、濡れる髪を軽く拭いた程度にしてタオルを首にかけた。見えた窓から見える外の風景は真っ白で、正しく雪化粧。



「ったく、こら」

「あ、」


首にかけていたタオルが取られ、振り向けば烏間が居た。



「髪、ちゃんと拭かないと風邪引くだろ」

「そんな長くないから別に良いかなって思って」

「長くなくても拭け」


タオルを手に取り、近くの椅子に座らせるとそれを頭に乗せる。烏間はそのまま柴崎の髪を拭いた。




「ふふ、烏間はよく髪拭いてくれるね」

「お前が拭かないからだ」

「だって根元ちゃんと拭いて、後はさっとしておいたら問題ないかなって」

「そこまでしたなら最後まで拭け」


そうは言うものの、拭く手付きは優しい。雑でもなくちゃんと水気を取っていく。



「…なんかね、」

「ん?」

「…烏間の手って、落ち着くんだ」

「……」

「安心感みたいなの感じて、…なんだろう、…ほっとする」


目を閉じて、享受する。安心感や、落ち着きを。烏間の手は、安心する。…手も、の方が合ってるかもしれない。こんな風に側に居られると、知らない間に肩の力も抜けてしまう。それにこうして髪を拭かれる時、いつだって雑じゃなく優しいから少しうとうととしてしまう。




「…初めてだなぁ、……こんな風に思うの…」


誰かが側に居て、誰かの手がこんなにも安心するなんて。不思議な感覚なのに、初めての感覚なのに、全然嫌じゃない。



「……」


座るソファの背凭れに少し体が傾く。横向きになって座って居たため、腕だけが軽くソファに触れる。彼の前に座り髪を拭いていた烏間の手は止まってしまっていた。


そっと、そのタオルを取る。閉じられた目。少しゆっくりと上下する肩。目に掛かった髪。それを払ってやる。それでも体がそちらに傾いているため戻る。



ソファに手を突いた。きっと意識は少し沈んでいるだろう。そんな柴崎に影が出来る。近付いて、近付いて…。丁度雪の中で倒れ込んでしまったあの時の様に。鼻先が触れそうな、そんな距離まで近付いた。




「……ん…」

「っ!」


漏れた声にハッとし、離れた。自分は何をしようとしていたんだろうか。眠りに落ちていた相手を前に、近付いて。



「…っはぁ……」



何を、なんて。そんな事態々問いただすとも分かる。



キスを、しかけた。



ああ、まただ。また靄がかかる。鬱陶しく、ハッキリさせてくれない靄が。触れたいと無意識に思って近付いて、声が聞こえて正気に返った。目を閉じて自分を叱咤した。そして開け、凭れて寝てしまった柴崎を見る。



「(…確信がないんだ。それにハッキリとも答えを出せない。…きっと邪魔をしている)」


性別という大きな壁が。だから靄ついて確信が持てない。だからハッキリ答えを出せない。


眠る柴崎の頬に手を当てて、その白い肌を指の腹で少し撫でた。




「(……だが、多分)」



唇にはしない。出来ない。ハッキリともさせられないのに。「多分」なんてものを付けているのに。そもそも、……例えそうであっても、一方通行の時に、唇になんて触れられない。




「……俺はお前が好きだ」




そう、小さく小さく呟いて、彼の頭に小さく唇を落とした。


この「多分」と付く想いに、「多分」が取れれば、きっと靄も取れる。その時ちゃんとこの胸にその想いが腑に落ちる。納得出来て、受け入れられる。きっと…。

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