このスキー場に来て早3日目。
そしてこの3日間、この光景はよく見てきた。
「もう入らないよ」
「あっさりしたものばかり食べて…。ちゃんと肉気も食べろ」
「食べたよ?これくらい」
「それは摘むって言うんだ。食べた内に入らん」
「俺は食べたつもりなんだけどなぁ…」
食事時の攻防(?)の光景。
「柴崎今体重何キロ?」
「体重?」
赤井の問い掛けに考える。何キロだっただろうか。
「……64キロくらいじゃない?」
「かっる!!!」
「おまっ、俺と5キロちげぇ!」
「太りにくいのか?」
「昔からね。食べてもそう体重に変動はないし、食べる分だけ体動かすからプラマイ0」
「女の子が聞いたら殴られんぞ」
「……そんなこと言われても…」
事実そうなのだから仕方がない。カバーのしようがないのだ。
「柴崎65キロなの?」
「ん?うん、多分それくらい」
斜め後ろに座っていた溝淵が聞いてくる。それに少し顔をそちらに向けた返した。
「へぇ…。…だから柴崎腰こーんな細いんだ」
柴崎が前を向いて、その言葉が言い終わると同時程に腰、というより横腹を掴まれる。それに驚き思わず振り向く。が、振り向く前に周りの動きの方が速かった。
ゴツンッ
「ホンットに溝淵すぐ手が出んな!!」
「いきなり横腹なんて掴んだらビビんだろうが!!変態か!!」
「頭痛いよ天宮!!あと雪村酷い!!」
「大丈夫か?柴崎」
「溝淵はあぁ見えて…いや見ての通り変態だ。さっきのも知ってて触る事を口実に言った言葉だ。常にあいつはお前のその腰を狙ってる」
「…;;」
腕でバリケードを作り、超真剣な顔をして隣に座っている木下と坂木にそう言われ、柴崎はなんと返せば良いのか分からない。
「腰って…、…俺の腰の何が良いわけ?」
「それは!!」
「あっコラ!溝淵!!」
「取り押さえろ!」
「待って語らせて!!」
ぎゃー!わー!言っていた天宮・雪村・溝淵。柴崎の言葉を聞いた溝淵が抜け出し語ろうとするのを2人は止める。だが意地か何か、後ろから羽交い締めにされても口を開く。
「(あの状態で話すのか?;;)」
柴崎は段々溝淵という男が分からなくなってきたのであった。
「柴崎の腰って、斜め後ろから見たらすごい綺麗なんだ!」
「(…なんて反応したら良いんだろ)」
「訓練服着てる時のベルトで締められている腰とかこう…キュっとスッとしてて!」
「……;;」
段々早口になる溝淵に段々聞き取れなくなる柴崎。
「制服のカッターシャツ着てる時は腰の細さが際立つというか、横から見たら絶妙な細さで、なのに時たま腰捻られるともうなんか本当に色気というかエロさみたいなのが見え隠れし…「「止めろっつってんだろうか!!」」《《ゴツンッ》》…ッッたい!!痛い!!頭痛い!!」
とても早口で話す為周りは唖然茫然。そんな中再度天宮と雪村からの鉄拳が落ちた。
「マシンガントークする癖直せ馬鹿ッ!」
「1回この手の話させるといつまでも話すなお前はッ!」
「それが俺だから!!」
「「開き直んな!」」
「…聞き取れたのか」
「…半分以上分からなかったよ」
隣に座る烏間にそう聞かれ、そう返した。実際あの余りに早い早口言葉は流石に聞き取れなかった。未だ騒ぐ彼等から目を離して前を向く。
「腰なんて気にした事ないからなぁ…」
「まぁでも細いのは細いぜ、お前」
「…そうかな」
今一度自分の腰に手を当てる。…細い、のか?細いのかもしれない。
「まぁ、お前は軽いからな」
「ん?体重?」
「あぁ。抱き上げた時も軽くて驚いた」
烏間が初めて柴崎を抱き上げたあの時。心配さが勝っては居たが、軽さに驚いた。数字と実際の重さはこうも感覚的に違うのかと思ったのだ。
「あと数キロは増やさないとな」
「…はぁ。頑張るよ」
重い溜息をついた柴崎に烏間は口元に小さな笑みを浮かべた。
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