slumber



「…それもう何冊目だ?」

「んー…。…15冊くらい行ってるんじゃない?」

「(15冊……)」


隣に座る柴崎が目を落としながらしているそれ、数独。彼曰く、15冊目位らしい。



「……出来た」

「相変わらず早いな」

「ふふ」


今日したかったところまで出来たようで数独を閉じ、自身が座る横に置く。



「……っはぁ、」

「疲れたか?」

「…目がね。視力が悪いわけじゃないけど、使うと疲れるだろ?」

「まぁな」


目を閉じて少し眉間に皺を寄せる柴崎。そんな彼の首に手をやると揉んでやる。



「っぅわ、ぇ、え?」

「…ここ、目の疲れに効く」

「…へぇ。…んー、…確かにね」


首の、頭に繋がる少し凹んだ部分。そこを指圧すれば目がじんわりとするのだ。



「凝り易いか?」

「どうだろ…。…そうでもないと思うけどなぁ」



ただ時々腕を回せば音が鳴る時もあり、そんな時に限って本を長時間読んでいたり机に向かっていたりする時だ。



「同じ姿勢をとり続けると凝るぞ」

「気を付けないとね。本とか読んでたらすぐ時間過ぎるから」

「集中し過ぎだ」

「癖なんだよ、これは」



すると小さく小さく、一つ欠伸をした。



「……やっぱり疲れてるな」

「…疲れてるっていうより、」

「?」


首の指圧か、隣の存在か、この…今誰もいない空間がか、



「(…妙に安心する)」


それは今まで出会ってきた人の中では感じなかったこと。どの人とも、側に居て話していてもこうは感じなかった。家族といてどこか素を出せる自分が今ここにいるようで、可笑しな感じがする。

目を閉じていれば、いつの間にか意識が落ちた。




「…?」


そ、と傾いた体。その頭が自身の肩に乗る。少し覗き見れば、



「……ふっ、」



目を閉じて、どこかリラックスしたように眠っていた。そう人に気の抜いた姿なんて見せない柴崎。そんな彼がこうも無防備になって烏間の肩に凭れて眠る。それは本人に自覚はなくても、彼にとって烏間が気の置けない人になりつつあるから。




「(……暫くは、このままだな)」


動けば起こすだろうし、起こしてしまうのも可哀想だ。それにこうして凭れて眠ってくれるのは、安心してくれているという事なのだろう。

優しい、温厚だと言われている柴崎だが、人の気には敏感で、観察眼は鋭く周りに見せない警戒心を持っている。それらはきっと彼が得意とする空手や合気道といった体術から来るものなのだろう。その事は烏間ももう1年以上共にいる為分かりつつある。




「あれ、烏間と……柴崎か?」


後ろから声がして首だけで振り返る。



「木下か」

「おー。…柴崎寝てるのか?」

「…あぁ」

「へぇ…珍し…」


小声でそう言う辺り、彼も起こすのは野暮だと思ったのだろう。



「あ、木下いた。…って、おっ。烏間も居たのか」

「坂木」

「あ、坂木だ」

「何してるんだ?」

「しーしー…!」

「?」


木下に静かに、とジェスチャーされた坂木はなんだろうか?と首を捻りながら烏間と木下が居る方へ近付く。



「……柴崎寝てる?」

「そうなんだよ。珍しいよな」

「…いや、本当に珍しい…。初めて見たかも、柴崎が寝てる姿なんて…」



やはり坂木も珍しいと思うのか、やや驚いた様子だ。



「……安心してんだな」

「…?」

「…お前もそう思う?」

「思うよ」


木下と坂木は互いに笑い合ってそう話す。それに烏間は何がだろうか、と疑問に思う。



「…柴崎、烏間が側にいるのが安心するんだな」

「………」

「だって、俺ら小声で話してるけど柴崎起きねぇもん。気配に敏感なのにさ」



確かにその通りで、これだけ近くで、こうも話しているのに彼は起きない。烏間に凭れたまま、眠りの中だ。


prevnext





.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -