朝起きて早々そんながっつけない。それは昔からで、だから朝は本当に少ししか食べない。ちゃんと食べた方が良いのは知っているけど、無理してもな…とも思うのだ。
「…あと半分、くらいかな」
手の中にある野菜ジュースを振って確認。なんでも1日分の野菜が取れるとかで。今は便利なものがあるな、なんて窓の外を見ながら思う。
「便利だよな…。低コストだし」
それに野菜野菜してない。だから飲みやすいし、手軽で便利。さて、あと残り半分を飲もうかと椅子に凭れてる。
「柴崎」
「…烏間」
振り向けば烏間が。後ろから伸びてきた手が持っていたパックを奪って行ったのだ。
「またこれ飲んで。少しで良いから固形を食べろ」
「食べたよ、固形。…でもあんなには食べれないからさ」
「はぁ…。倒れないか心配だ」
「大丈夫だよ。そんな柔じゃないし」
「…まぁ、そうだがな。…だが、これは没取」
「え"…」
「朝あまり食べないでこれ飲んだんだろう?あと少ししたら授業も終わりだ。昼はちゃんと食べさせるからな」
教室の前に掛かる時計を見れば確かに。
今は自習時間。なんでも担当教諭が出張で留守にしているとか。だから教室内は騒めいておりその中で柴崎は1人窓の外を見て飲んでいたのだ。隣の席の烏間が席を外している間にと思ったが、バレた。
「烏間が戻ってくる前に飲み終えようと思ってたんだけどな…」
「残念だったな、それは」
自席に体を横にして腰を落とし、持っていたパックと資料を机の上に置く。
「あれ見て」
「?…よくまぁあんな体勢で寝れるな」
「おまけに間抜け面。…隣の花岡も似たようなもんだけど」
「あいつもあいつで体痛くないのか?」
「さぁね」
自分たちの二つ前の席に座る赤井と花岡に目をやれば爆睡だ。しかし体勢が体勢なだけに本当に爆睡かどうか怪しい。
赤井は椅子に座って体の殆どは机の下。首と辛うじて腰が椅子に触れ体を支えており、顔は天井を向いているという見ていて辛そうな体勢だ。
花岡は何故か椅子の上で正座。そのまま上体を倒して額を机につけて寝ている。手はダランとされたまま。悪い事でもしたのかと言う体勢である。
「あれで起きてみろ。…赤井はそのまま滑るぞ」
「花岡は足が痺れて立てないね」
どの道あの2人が起きれば身に不幸が舞い降りる。だが敢えて起こさないのが、この2人だ。
柴崎は前2人から目線を離すと窓の外を見る。だいぶ桜が散った。夏にはこの木も葉桜だろう。開いていた窓から風が吹き、ふわり…と2枚の桜の花びらが机の上に乗った。
「入って来ちゃった」
「ん?…ああ、桜か。その木だな」
「うん。でも…もう咲いてないね。これが最後かも」
チラリと窓から見える桜の木に目をやり枝につく花を見るももう見当たらない。机に乗った2枚の薄紅をした花弁を手に取る。
「桜の花言葉知ってる?」
「花言葉?…知らないな。知ってるのか?」
「知ってる。本でたまたま読んだんだ」
「へぇ…。なんて言うんだ?」
「「優美」とか「精神の美」だって。桜らしいよね」
「…確かにな」
「でもフランスじゃ違うらしい」
「違う?」
「うん」
烏間は目の前の柴崎にフランスではなんと言うのか聞く。
「「私を忘れないで」だったかな」
「…随分桜のイメージから離れるな」
「日本じゃ桜は綺麗ってイメージだけど、他国フランスじゃ桜は儚くて切ないイメージらしいよ」
「それでか。それなら納得いく。…フランスらしいな。桜をそう捉えるとは」
「国が違うと捉え方も違うね」
そう言うと手の平にあった桜を窓の外へと。桜はヒラヒラと舞い、落ちていく。
「てっきり取っておくのかと思った」
「下に落ちてしまった桜の花弁と仲間外れなんて可哀想だろ?」
「ふっ、柴崎らしい。あの2人なら持ったままだな」
「だろうね。で、どっかに挟んで次開けたら色褪せてた…って言うオチだよ」
「あり得そうだ。実際に過去あったかもな」
「ふふっ、烏間が言うとあり得そう」
未だ爆睡中の2人を見て、烏間と柴崎は笑う。あそこは日がよく当たるからより眠気を誘うのだろう。そこで終了の鐘が。
「あーぁ、昼だ…」
「昼が来て気分が下がってるのはお前くらいだ」
「食べなくても生きていけたらいいのに」
「無理だ。ほら、行くぞ」
「んー」
2人が席を立てば寝ていた2人が急に顔を上げる。それに少しばかり驚く。
「飯のじか…っあだっ!…〜ってぇ、頭超いてぇ…っ」
「昼め…っててててっ、足…っ!足が…っ、痺れて…っ」
その様子を一部始終見ていた烏間と柴崎。
「…っふ、ふふっ、」
「っふ、くく…っ」
「ははっ、烏間…っ、言った通りだね…っ」
「お前もな…っ、柴崎…っくくっ」
赤井は滑り落ちて頭を椅子に打ち付け、花岡は足が痺れて悶えていた。そんな2人を見て烏間と柴崎は笑いを殺すのだった。
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