awake



次の日、朝に目が覚めても隣で眠る柴崎の目は覚めていなかった。朝食時に赤井と花岡に柴崎はどうしたか聞かれ、また昼食時にも聞かれたが濁した。言うなら本人から言うだろうし、倒れたと言えば何故かとなる。そうなれば父親の事も話さなければならなくなる。それこそ俺の口から話す事じゃない。




「………」


医師は朝と昼に様子を見に来たが、まだ眠っている事を確認すると点滴だけ変え、また夕方に様子を見に来ると言いここを後にした。今は3時。もし来るなら、後一時間後くらいだろうか。


休みの日は殆ど柴崎と過ごしていたな…。まぁ、休みが明けて少ししてからは殆ど柴崎は父親の元へ足を運んでいたが。眠るその側の席に座ってそんな事を考えた。




「…その頃からか」


過労、精神的ストレス、心労。もしかするとその頃から柴崎の体に蓄積されて行ったのかもしれない。そうだとすると、それらを背負った状態で過ごし続け、その状態で父親の死を知り、その状態で続く通夜と葬式に出ていた事になる。



「……そんな様子、全く見せなかったな」



変わらない様子を見せ続け、弱っている事なんて微塵も感じさせなかった。ただ、11月下旬頃から12月に入ってからはぼんやりとする事が多くなっていた気がする。廊下で話をした時もそうだ。それでも毅然と振舞って過ごしていた。どこまでも隠すのが上手い奴だ。



「……っ…、」

「…!」


少し顔が動く。そしてゆっくりとその目が開かれた。


「…柴崎」


烏間が声を掛ければ、ぼんやりと宙を見ていたその目が、顔が、彼に向けられた。



「…っ、」

「待て、水を渡す」


声を出そうとしたが上手く出ず、布団の中にあった手でその喉を抑える仕草をした。それを見て烏間はすぐに水を用意した。



「体起こせるか?」


それに彼は一つ頷き、点滴を打ってない方の腕で体を支えて上体を持ち上げる。その背中に手を当て支える。水を手渡せば、礼の代わりに小さく笑い受け取り喉に通した。



「…声、出るか?」

「……ん、…うん、出る。ありがとう」

「良い、気にするな。受け取る」

「ありがとう」


水の入ったコップを烏間に渡す。それを受け取った烏間は近くに置いた。



「昨日の事、覚えてるか?」

「…なんとなくね。ごめんね、烏間。迷惑かけ…「柴崎」……?」

「ごめん、じゃないだろ」

「…!…ありがとう」

「…それで良い。あと、迷惑だってかけられた覚えはない」

「烏間…」


柴崎の目を見て烏間はそう言った。それに少々驚いたように目を開く。そんな彼を見て、烏間は近くにあった点滴を受けるその手を取る。



「…俺の方が謝るべきだ」

「なんで?烏間は何も…」

「倒れるまで…、…そこまで無理をしてる事に気付いてやれなかった」

「…っ」

「…倒れたのは過労と心労、それから精神的ストレスが原因らしい。…すまない、柴崎。比較的、周りより側にいたのにな。もっと早く…「烏間」


柴崎は烏間の言葉を遮る。そして握られる手の上に手を置いた。



「ありがとう、烏間」

「…っ」


それに詰まる烏間に柴崎は優しく笑った。



「気付いてくれてありがとう」

「柴崎、俺は…」

「気付いてなかったら俺にあんな風に言ってくれた?」

「……」

「…気付いてくれたから言ってくれたんだよね。烏間が気付いて言ってくれたおかげで、俺はきっとこの程度で済んだ」


あのままでずっと過ごしていれば、きっと倒れて意識を失うだけじゃ済まなかっただろう。最悪…命にだって関わる可能性もあったのだ。


柴崎は手に視線を落とし話す。



「誰にも頼らないで、誰にも言わないで、全部一人で背負い込もうとしてた。……あの言葉も、すごく嬉しかったんだよ」

「柴崎…」

「「全部代わりに背負ってやる」って…。…本当に嬉しかった。だから涙も止まらなかったんだと思う」


手から目線を離して烏間に向ける。



「烏間が気付いて、言ってくれて、側に居てくれて…。そのおかげで俺はずっと泣けなかったのに泣けたんだ。すごくスッキリした…。全部、烏間のおかげなんだよ」


柴崎は烏間の手を少しだけ強く握った。


「だから謝らないで。烏間は何にも悪くない。…気付いてくれて、本当にありがとう。言ってくれて、泣かせてくれて、ありがとう」


優しく、柔らかく笑ってそう言う柴崎に烏間は言葉が詰まった。そして、口元に笑みを浮かべ、彼もまた握る手に少しだけ力を込めた。



「…安心した」

「…?」

「…もう笑えるんだな」

「…ぁ…」

「良かった…。…もっと早く…なんて、考えても仕方のないことばかり考えていた」

「……」

「だが、今より酷くなる前に気付けて、言えて良かった。…頑張ったな、柴崎」

「っ、」


バッと柴崎は烏間から顔を逸らし、置いていた手を離し口元に緩く握った拳を添えた。それに逸らされた本人はどうした、と声を掛ける。


「柴崎?」

「…っ、今こっち見ないで…」

「具合が悪いのか?」


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