それは一週間前の一本の電話からだった。
「?柴崎、携帯鳴ってるぞ」
「え?あ、本当だ。…本部長?…はい、柴崎です」
烏間は電話をしている柴崎に目を向ける。相手は本部長。何かあったのか。
「……しかしながら本部長、それは生徒達に不安を与えはしないでしょうか」
「(不安?)」
烏間の眉間には僅かに皺が寄る。電話を受けている柴崎もそれは同様だった。だが彼は上の意向が変わらないことを感じ取ったのか、軽く肩で息をした。
「…それで、その人物はどのような」
聞こえてくる話。それを一語一句聞き逃さず頭に入れていく。その片隅では、ついに日本もその手を取ったのかと。少しばかり目を伏せてしまった。
「分かりました。烏間にも伝えておきます。失礼します」
電話を切り、息を吐く。画面にはもう何も写っておらず、役目を終えたかのように暗くなっていた。
「なんの電話だった」
「…新しい教員が来るんだってさ」
「新しい教員?」
「でもただの教員じゃない。…正真正銘、プロの暗殺者だそうだよ」
「暗殺者!?」
今まで、この日本という国が平和になってから一度だってそのような存在の姿はなかった。必要がなかったのだ。暗殺者を招き入れるような機会も、事態も、何もなかった。
「国が決めたことだそうでね。生徒の不安と地球の不安、どちらが優先か。二つを天秤にかけて国も考えた結果なんだろうけど…」
国が守るのものは国自身。その国を守れてこそ国民を守れる。上層部のお堅い頭の中ではそういう図式になっているのであろう。言いたい事は分かる。だがその彼等の頭の中にきちんと生徒達の安全も視野に入っているのかは…証拠も何もない為に不確かなものだ。
「相手は世界各国で11件の仕事の実績があるそうだよ」
「…まさか、暗殺者を送り込んでくるとはな」
「期限は1日1日確実に消えて行っている。国も焦っているんだろうね」
「生徒達に悪影響が出なければいいが…」
「そこは、俺たちが対処するしかないさ」
それが現場責任者として課せられた役目の一つでもあるのだから。
「…今日から来た、外国語の臨時講師を紹介する」
「イリーナ・イェラビッチと申します。皆さんよろしく!」
「これは若干特殊な体つきだけど気にしないで」
「ヅラです」
「構いません!」
新しい講師、基暗殺者がやってきた。まだ殺せんせーには彼女が暗殺者であること話していない。いずれバレるが、今話すべきことではないだろうという判断だ。
「本格的な外国語に触れさせたいとの学校の意向だ。英語の半分は彼女の受け持ちで文句無いな?」
「…仕方ありませんねぇ」
「…なんか凄い先生来たね。しかも殺せんせーにすごく好意あるっぽいし」
「…うん」
茅野と渚はイリーナを見ながらそう話した。
「…でも、これは暗殺のヒントになるかもよ。タコ型生物の殺せんせーが…、人間の女の人にベタベタされても戸惑うだけだ。いつも独特の顔色を見せる殺せんせーが…戸惑う時はどんな顔か?」
じっと観察する。されている殺せんせーの視線はイリーナの胸元。そしてその顔はだらしなく緩んでいる。
「「「「(普通にデレデレじゃねぇか!!)」」」」
「…何のひねりも無い顔だね;;」
「…うん。人間もありなんだ;;」
「あぁ…、見れば見るほど素敵ですわぁ。その正露丸みたいなつぶらな瞳。曖昧な関節。私、虜になってしまいそう」
「いやぁ、お恥ずかしい」
「(騙されないで殺せんせー!!)」
「(そこがツボな女なんて居ないから!!)」
生徒達の心中でのツッコミ。しかしそれは声に出されていない為全く一つだって彼、殺せんせーには伝わっていない。デレデレと、だらしのない顔を見せる彼の横でうっとりとした表情を見せる女性教師、イリーナ。その様子を見ていた烏間と柴崎と言えば、看過せずといった風だった。
「…まぁ、演技だろうな」
「どっちがだと思う?」
「どっち?」
「…見てればわかるよ」
どちらが演技をし、どちらが騙されているのか。嵌めて、嵌められていることに気付くのは一体いつになるのか。柴崎は相も変わらず腑抜けたような顔色を見せる殺せんせーに一瞥し、そして静かに逸らした。
校庭では殺せんせーと生徒達が烏間・柴崎が考えた暗殺サッカーをしている。それを校舎の窓から烏間・柴崎・イリーナが見ていた。
「色々と接近の手段は用意してたけど…。…まさか色仕掛けが通じるとは思わなかったわ」
「…本当にそうだと?」
「どういう意味?」
「いや…。情報は貰ってる。イリーナ・イェラビッチ。その美貌に加え、実に10ヶ国語を操る対話能力を持ち、如何なる国のガードの固いターゲットでも本人の部下を魅了して容易に近付き、至近距離なら容易く殺す。潜入と接近を高度にこなすと」
「へぇ。私も有名になったものね」
そう言い、彼女は烏間と柴崎に背を向け歩き出す。それを呼び止めるように烏間は口を開いた。
「だが、ただの殺し屋を学校で雇うのは流石に問題だ。表向きの為、教師の仕事もやってもらうぞ」
「…あぁ、別にいいけど。私はプロよ。授業なんてやる間もなく仕事は終わるわ」
余程の自信があるのか。イリーナから見受けられる表情は笑っていた。そのまま殺せんせーの元へ行くつもりなのか、彼女は二人から離れ外へと出て行く。
「……」
黙り込む烏間。それを見た柴崎は烏間に話しかける。
「…不安いっぱいって顔だね」
「仕方ないだろ…。あれで生徒達と話せばどうなるか」
「まぁ十中八九、信用・信頼は得られないだろうけど」
「……」
「今は」
「今は?」
「変われば、生徒との信用・信頼は得られるってことだよ」
意味深な発言。それには烏間も隣に立つ柴崎を見遣る。だが答えはくれないのか。彼は小さく笑みを浮かべるだけでその先を詳しくは教えてくれなかった。
「……俺にも問い掛けか?」
「そんなつもりはないけど、人は変わる生き物でしょ?」
変化があれば、尚の事。それがどれ程にその人間の心に影響を及ぼすかは予測不可能だが、此処にはあれだけ健気な生徒達がいる。感化されるか、されないか。動かされるか、教えられるか。人とは案外染まりやすい生き物。それは彼女、イリーナだって例外ではないはず。
「今は様子見をする時期なんだと思うよ、俺はね」
「…様子見、な」
視線を窓の向こう、校庭へとやる。彼女は彼女なりに仕事をしようとしているのだろう。その姿は目に映った。烏間はもう一度そこから柴崎へと視線を動かす。合えばうん?と首を傾げられ、それには何もないと返した。…どうやら、やはり的を射る答えは貰えないようだった。
英語の授業。二人はやはり生徒とイリーナの関係が心配(主に烏間が)で、授業を見に来た。案の定、良い状態ではなさそうだ。授業終わり、二人はイリーナを呼んだ。
「怪しい三人組を呼び込んだそうだな。聞いていないぞ」
「…あぁ。腕利きのプロ達よ。口は固いし私に惚れて無償で手足になってくれる。彼等の協力で仕込みは完了。今日殺るわ」
そこに殺せんせーがインドから戻ってきた。どうやら彼は先程イリーナにインドのチャイを頼まれたらしいく、それを買ってきたようだった。
「イリーナ先生!ご所望してたインドのチャイです」
「まぁありがとう殺せんせー!午後のティータイムに欲しかったの!…それでね、殺せんせー。お話があるの。5時間目、倉庫まで来てくれない?」
「お話?えぇ良いですとも」
機嫌の良さそうな顔色を見せて、殺せんせーは鼻歌を歌い歩いていく。イリーナと言えばこちらを振り向き、自信に溢れる色を持ってその口元に笑みを浮かべた。そして此処には用はないと言うかのように彼女はこの場を去って行く。
「5時間目に殺るつもりか」
「上手くいくと良いけど」
「お前はいかないと思ってるのか?」
「途中までは、行くんじゃない?」
「途中までは?」
「案外、あれも馬鹿じゃないってこと」
体育の授業。生徒達は殺せんせーを見立てたボードに銃口を向ける。だが、三村がイリーナと殺せんせーが二人で倉庫へ行くのを見付けた。
「…おいおいマジか。2人で倉庫にしけこんでくぜ」
「…なーんかガッカリだな、殺せんせー。あんな見え見えの女に引っかかって」
「…烏間先生、柴崎先生。私達、あの女の人好きになれません」
片岡から発せられた真っ直ぐとした言葉。それには烏間は苦い顔を、柴崎は苦笑いを浮かべた。
「…すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな」
「まぁ、少しだけ辛抱してあげて」
「だが、僅か1日で全ての準備を整える手際。殺し屋として一流なのは確かだろう」
暫く倉庫の方をみんなで様子見をする。すると暫くすると大きな悲鳴が聞こえた。これはイリーナのものだ。そして同時にヌルヌルという音も聞こえてくる。生徒達はどうにもそちらが気になったのであろう。連れ添って彼等はその倉庫へと走っていく。すると倉庫から殺せんせーが出てきた。そんな彼に生徒はイリーナはどうしたかと聞くが…。
「いやぁ…もう少し楽しみたかったのですが、皆さんとの授業の方が楽しみですから。六時間目の小テストは手強いですよぉ」
「…あははっ、まぁ頑張るよ」
そんな話をしていると倉庫から健康的で、またレトロな服にされているイリーナが出てくる。その足取りはフラフラとしていて非常に安定しない。
「まさか…僅か1分であんな事されるなんて…。肩と腰のコリを解されて、オイルと小顔のリンパマッサージされて…早着替えさせられて…その上まさか…触手とヌルヌルであんな事…」
「「「「(どんな事だ!?;;)」」」」
そのまままるで力尽きたようにパタリと倒れるイリーナ。何をされたのか気になる生徒。だが殺せんせーさえも教えてくれない為、これはどうやら保留のようだ。その様子を少し後ろから見ていた烏間と柴崎といえば…。
「一体何されたんだ…」
「さぁ…。でも知らないほうがいいことも、世の中あるって言うしね」
つまり、深追いは禁物だと言うわけである。人間引き際を持つことも大切だ。
殺せんせーと共に去っていく生徒達。だがイリーナは一人、そこに倒れたまま。そんなイリーナに柴崎は近付くと、来ていた上着を脱ぎその肩に被せてやった。今がまだ春半ばとは言え女性がこの格好では冷えてしまう。余計なお節介かもしれないが、体調を崩されてしまうよりはマシだ。やることをやり終えたのか、彼は特に何を言うわけでもなくその場を離れる。そして烏間の元へ行き、共に教員室に戻って行った。
次の日。
「あ、今英語の授業か」
ポツリと呟いた柴崎。それには烏間もパソコンから顔を上げた。
「…イリーナだな」
「あれの後だし、様子見しに行ったほうがいいかもね」
初見からも見て分かる程のプライドの高さ。それをあんな風に崩されては癪に触らないわけもないだろう。二人は席を立ち、教室へ向う。…だが少々来るのが遅かったようだ。中では既にイリーナが生徒の反感を買って物を投げられている。その様子には思わず烏間と柴崎も同時に額に手を当てた。
場所は変わって教員室。
「なんなのよ、あのガキ共!!こんな良い女と同じ空間にいれるのよ!?有難いと思わないわけ!?」
「有難くないから軽く学級崩壊してるんだろうが」
「生徒達に謝ってくるんだ。このままここで暗殺を続けるのならね」
しかしどうにも納得行かないのか。イリーナは柴崎の言葉を聞いては机をバンッと叩いた。
「なんで!?私は先生なんて経験ないのよ!?暗殺だけに集中させてよ!!」
言いたいことは分かる。分かるが、此処ではそれは通用しない。なんなら社会に出てもそれは同様のことだ。一つのことだけに集中して行う。そんなことが出来るのは恐らく学生時代まで。大人になれば否が応でも二つも三つも請け負い同時に熟さなければならない局面がやってくる。
烏間と柴崎は顔を見合わせるとお互い席を立つ。そしてイリーナに付いて来いと伝えれば、教員室から場所を移動した。向かった先は林の中。視線の向こうにいるのは殺せんせーだ。
「何してんのよ、あいつ」
「テスト問題を作ってる。どうやら水曜六時間目は恒例らしい」
しかし作成途中にくしゃみをしてしまい、飲んでいたぶどうジュースで折角作ったテスト問題はおじゃんだ。これではまた一から作り直しである。
「…なんだかやけに時間かけてるわね。マッハ20なんだから問題作り位直ぐでしょうに」
「一人一人、問題が違うのさ」
「え…っ」
「数学の時間に生徒に見せてもらって驚いた。苦手教科や得意教科に合わせてクラス全員の全問題を作り分けている。防衛省の仕事で忙しくてなかなか数学の問題を作ってやれない俺の授業の分まで作っている。どこで情報を手に入れたのやら…」
「高度な知能とスピードを持ち、地球を滅ぼす危険生物。そんな奴の教師の仕事は完璧に近い。生徒達も見てみろ」
次に三人は校庭へ赴く。そこには何かをしている生徒達の姿があった。
「…?遊んでるだけじゃないの」
「俺と柴崎が教えた「暗殺バトミントン」だ。動く目標に正確にナイフを当てるためのトレーニングだ」
無邪気に、遊ぶように、笑って彼等はそれを行なっている。だがこれも訓練の一つ。動体視力に反射神経を養うもの。しかしそれでも彼らは楽しそうにしていた。
「暗殺なんて関係ない彼等だけど、勿論賞金目当てといえ、勉強の合間に熱心に腕を磨いてくれている。暗殺対象と教師。暗殺者と生徒。あの怪物のせいで生まれた子の奇妙な教室では、誰もが2つの立場を両立している」
「お前はプロであることを強調するが、もし暗殺者と教師を両立出来ないならここではプロとして最も劣るという事だ。ここに留まって奴を狙うつもりなら、見下した目で生徒を見るな。生徒達が居なくなればこの暗殺教室は存続できない。だからこそ、生徒としても殺し屋としても対等に接しろ!それができないなら、殺せるだけの殺し屋など幾らでもいる。順番待ちの一番後ろに並び直してもらうぞ」
そう言い残し、烏間は先にその場を去っていった。視線を下にするイリーナ。柴崎は烏間の背中を見送ってから、側に立つ彼女に一度だけ一瞥をした。
「…ま、烏間の言うことは正論かな。今のままじゃ、彼等とは向き合えない。向き合えないどころか、暗殺にだって成功しないだろう」
「…っ」
「でも、人は変われるものだよ」
「え…」
「変わろうと思えば、いつだってね」
それは暗殺者であろうが、生徒だろうが、教師だろうが、気持ちがあるならば同じ事。皆同じ人間であり、心がある。違うものはその者が持つ思いの持ちようだけだ。志すべき何かがあるのなら、人は何度だって変わることが出来るのだ。すると何かが心に落ちたのか、イリーナは口を閉ざす。その様子を見届けた柴崎は彼女に何を言うこともなく背を向け歩いて行った。
その後。どうやらイリーナは生徒達と向き合い、生徒達も彼女と向き合うことが出来た。結局、ビッチという呼び方は消えず定着してしまったが。それでも仲の距離は縮まったのか、初めの頃よりは自然な空気になっていた。その様子を殺せんせー・烏間・柴崎は廊下側の窓から窺っていた。
「すっかり馴染んでますねぇ」
「…まぁ、一応な」
「これで、心配はないんじゃない?」
改心、と言っても良いのかもしれない。変わろうとしているイリーナの様子に、今後の心配は特別見受けられない。気にかけるのも此処までであろう。教室の中を笑って見ている殺せんせー。そんな彼の隣に立つ烏間は、そっと懐から拳銃を出そうとする。だが、殺せんせーが話しかけたことによってそれは無かったことになってしまった。
「ありがとうございます。烏間先生、柴崎先生。やはり生徒には生の外国人と会話させてあげたい。さしずめ、世界中を渡り歩いた殺し屋などは最適ですねぇ」
まるで全てを知っていたような顔。余裕の色を見せたままに彼は二人を置いて歩いていく。…やはり、どうあっても油断のならない暗殺対象である。
「…あいつ、ここまで見越した上でか…?」
「何故だか、このE組の教師になった理由を頑なに語らないね。あれは」
「あぁ…。…だが暗殺のために理想的な環境を整えるほど、学ぶための理想的な環境に誘導されてしまっている」
「まるで、俺たちも生徒達も踊らされてるみたいだ。あの生物の触手の上でね」
「シバサキ…」
教員室に戻り、パソコンと書類を見ていた時だ。イリーナが柴崎の隣に立ち、彼に話し掛けた。彼は一度手を止め、顔を上げた。
「どうかした?」
「これ…」
渡されたのはジャケット。そういえばあの時…と思い出せば、彼はそれを受け取った。
「その、返すの遅くなって、悪かったわ。…あと、…えっと…、あり、がとう…」
顔を見ればこっちを見ずに背けている。視界の中には何故かニヤニヤと笑うあの生物。その生物にナイフを振る烏間の姿が見られたが、まぁこの光景もそろそろ日常と化しそうだなと思えば少し笑ってしまう。柴崎は再びイリーナへと視線を戻せば、返された上着を手に少しばかり目元を緩めた。
「…どういたしまして」
するとどこか嬉しそうにしているイリーナがそこに居た。それが受け取ってもらえたことなのか、それとも話せたことがなのか。その理由はまだ分からない。
「そういえば柴崎先生」
「ん?」
「私がイリーナ先生のハニートラップにかかっていないといつお気付きに?」
「!」
「え!?」
彼の発言には烏間とイリーナが驚いたように柴崎を見る。見られる彼はと言えば、あぁ、そのこと…と反応は薄い。
「…最初からさ。彼女に会った瞬間の微妙な体の動き。まるで何かに気付いたような感じだった。でもそれも一瞬。感ずく者なんてそういないだろうね。その後もお前はイリーナに惚れ込んでる様子だったけど、一人になった瞬間コロッと空気が変わる。演技をしているのはどちらかなんて、すぐに分かった」
「…そこまで気付かれていたとは、いやはや、貴方もなかなか侮れませんねぇ」
「お前ほどじゃない」
イリーナはただただ驚いていた。自分の接近術がこの生物に見抜かれていた。更にはこの男・柴崎にまで。暗殺者でもない。防衛省のこの男に。細心の注意を払い、誰にも見破ることなんてできないと思っていたのに。それを簡単に見抜いた。微々たる変化だけで。この生物を抜けば柴崎が最も強いのではないか、そう思わされるほどに。
また烏間も驚いていた。この生物が気付くのはわかる。だが、最も驚くべき存在は柴崎だ。なんて観察力。確かに空挺部隊にいた頃からこいつの観察力は半端じゃなかった。空気の変化、体の些細な動き。それらを敏感に感じ取る。だからこそ誰も柴崎との体術訓練は勝てなかった。しかしここまでとは…。
「…恐れ入るな」
ポツリと呟いた烏間の言葉は誰の耳に入ることもなかった。
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