クラス内での悶着がひと段落し、次なる課題が生まれた。
「普通に考えてみよう。各国首脳は…、本当に先生を殺すことしか考えてないのかな?」
竹林が黒板の前に立ちそう話した。
「僕は違うと思う。だって本来の目的は地球を救う事なんだから。殺せんせーを殺す以外の方法で爆発しない様に出来るなら…、それも立派な選択肢になるはずだ。殺す研究と平行で……必ず少しは助ける研究も進めてるはず。そしてその研究は…、「死神」だった頃の頃せんせーが知っていた内容より進んでいるはずだ。それを皆で探ってみないか?」
ある一つの案。確かにそれは一理あるとも言える。研究というものは日々行われ、そしてその結果というものは変わり続けている。中でも医学関係は特にそう。その他の何においても今の現代社会というのは種別を問わず確実に進歩してきているのだ。
「…残念だけど、それは恐らく無理に等しいかな」
「柴崎先生…」
「俺も柴崎と同意見だ。このタコを作った研究組織は…、月の爆発以降その責任を問われ、先進各国に研究データと主導権を譲り渡した。今では…各国でもトップの科学期間が研究を分担し、地球を救う国際プロジェクトチームを形成している」
「当然、プロジェクトの情報は全て最高機密。そうなると、研究内容を君たちが知るのは至難の技だ」
この任務に携わる2人からのその言葉。確実性あるそれに生徒達は顔を暗くする。が、
「プロジェクトのデーターベースに侵入しました」
「は!?;;」
「何っ!?;;」
まるでその空気を壊す様な律の声に2人はなんだって、とそちらに顔を向ける。最高機密のデーターベースに侵入など、なんて危険な事を…と、つい冷や汗が流れる。
「オンラインで繋がっているCPUなら大体侵入れます。この1年…いっぱい機会拡張さしましたから」
「律…!!」
「…すげぇ!!世界中でやってる研究項目と研究スケジュールが全部分かる!!」
「柴崎先生、私頑張りましたかっ?」
「…いや、その…まぁ、…うん;;」
なんとも言えない、複雑な心境故素直に褒めてやれない。凄いとは思うが、事が事である。
「…でも幾ら律でも具体的内容は機密保護が厳重過ぎて分からなかったんじゃない?」
「…はい。先生の言う通りです。研究の核心に関わる情報はほぼ全てオフライン。最重要情報のやり取りに至っては…専用回線すら使われた形跡がありません」
その言葉にやっぱりな、と思う。これ程の事柄を、国が最高任務だと名付けたこの件の情報を、そう簡単に他者へと漏らせる訳がないと彼は考えていたのだ。
「…となると、情報の受け渡しは顔を見ての手渡しか」
「正解です、烏間先生。ヒトの手で直接厳重に管理したメモリを運ぶ。原始的な方法ですが最も情報を盗まれにくい。FBIでもこの様な手法は時に行われていると思いますが如何ですか?」
「…まぁ、機密な事なら尚更に手渡しさ。味方だっていつ敵になるか分からないからね」
世の中、そういう世界に行けば行くほどそんなもの。いつその手の平をひっくり返し、憎たらしくも悠々と嘲笑いだすか分からない。
「……で、肝心の殺せんせーを救う研究はやってんのかよ?」
「タイトルを見れば大体の内容は察しが付くね。えーと…、。殆どが殺す研究ばっかだな」
不破が指でパネルを操作し、羅列する研究タイトルをスクロールしていく。しかしある一つの文字にその指は止まる。
「!! これ!!今研究中でそれらしいのはこれしかない!!アメリカ班の研究!「触手細胞の老化分裂に伴う反物質の破滅的連鎖発生の抑止に関する検証実験」!!最終結果サンプルは、1月25日。ISSより、帰還予定…?」
「ISS…って、」
「こ、国際宇宙ステーション!?」
「そんなところで研究してやがったのか…」
「あっ、ありえます!!無重力や真空じゃないと出来ない研究も多いっていうし…、それに…その…万が一大爆発する様な研究をしていたとしても…宇宙空間の方が被害が小さい!!」
大きな実験。しかも平地ですれば周りに確実被害が出るようなもの。だがそれを行うに最も適した場がただ一つある。…それが無限に広がる、宇宙空間だ。なんの被害もなく、なんの影響もなく、静かに結果のみが浮上する永遠の空間。
「…研究云々はさておき、」
「「「「っ、」」」」
冷静に、落ち着いた声が生徒達の鼓膜を叩く。
「…君達はその結果とやらがすぐに手の内に入る、なんて事を考えている訳ではないよね」
「先生…」
「生まれた可能性を消したい訳じゃない。それでも現状何をするにも難しいんだ。例え5日後、10日後に研究結果が出たとしても、それが現場の君達の元へ伝わる事は可能性としてとても低い」
あまりに機密の多い最先端技術。それらを含むデータ。況してや地球を救える程の情報なら、簡単に渡さず外交の材料にされても可笑しくない。
「…厳しい事を言う様だが上にとって君等は末端の暗殺者の一派に過ぎない。状況によっては最後まで君等に情報は来ない」
烏間も柴崎も、話しながらこのどうしようもない現状に眉を顰めた。懸命に動こうとする生徒達。目標を立て、今大きな壁を登ろうとしている。その手助けをしてやりたい。…だが、現実はそう甘くなく、酷く酷く厄介な糸が絡み合うのだ。
「…それじゃ、最悪の場合…私達は先生を救えるかどうかわからないままモヤモヤした気持ちのまま3月まで暗殺を続けろと?」
原の意見に何も言えなくなる。……そういう感情や思いを抱いても仕方がないのだ。こんな、先の見えない未来を目の当たりにすれば。
「烏間先生、柴崎先生」
掛かるカルマの声にそちらを向く。
「結果はどうあれ、俺等は暗殺止めないよ。けど半端な気持ちで殺りたくない。救う方法がもしあればまず救うし、無ければ無いで皆も腹を決められる。…でしょ、渚?」
「…うん。クラスの大事な目標だもんね」
目の合った渚とカルマ。カルマの言葉に渚は小さく笑って頷いた。そう、この目標は彼等が拳を交えて決めた事。大切な大切な課題なのだ。渚の返答を聞いた彼は今一度烏間と柴崎への向き直った。
「だから今はっきりと知りたいんだ。卒業まで堂々と暗殺を続けるために」
あまりにまっすぐなその言葉。そして固い意志に難題な要求。求められるそれに2人は頭を悩ませた。答えてやりたい。しかし答えられる程の力も、正解も、そして真実も、何もかもを持ち合わせてなどいない。…ああ、なんと歯痒いのか。
「烏間先生、柴崎先生。席を外してもらえませんか?」
「…?」
「、?」
徐に2人へそう言ったのは惑星になった殺せんせー。烏間を見てから、柴崎へと彼は目を移す。
「…、」
読めない顔。読めない目。しかしどこか、これからの話に貴方方は巻き込めない。そう語っている様に見えた気がした。
「…行こうか、烏間」
「あぁ…」
けれどやはり本心は分からないから、2人は心に浮かぶ疑問の種をそのままに教室を出た。
「「……………」」
出たは良いが、如何にもこうにも…晴れない。
「……柴崎」
「…なに」
「……心底、嫌な予感がするのは俺だけか」
「…………」
隣から聞こえてきた言葉に柴崎は烏間を見る。見られた彼もまた、隣にいる柴崎を見た。互いに目が合えば先に大きく深いため息をついたのは柴崎の方だった。
「……えぇ、烏間まで止めてよ。それ俺も感じてた事なのに…」
「はぁ…、…やはりお前も感じていたか。それならこの予感は当たりそうだな」
「…それなんの確信?」
「昔から今を辿って考えれば九割五分、柴崎の予感は当たる」
「なら残り五分に俺は賭けたいよ」
あぁ嫌だ嫌だ。この現状もこれからの事も。烏間も柴崎も痛い頭をつい抱えた。
「…とりあえず戻るか」
「そうだね…。今俺たちに出来る事は、どうやら無さそうだし」
彼がこの任務の責任者である自分達を教室外へ出してまでも生徒達に話したかった事。それがなんであるか分からないが、今は彼の意思に従おう。
互いに足を動かせば教室の側から離れていく。…中でとてつもなく大事な話をしているとは露ほども知らないままに。
1月の下旬。防衛省臨時特務部室内。
「…………」
「…………」
「……………」
「………柴崎」
「ん?」
「…あまり無言になってやるな」
「え?」
「こいつ等が怯えてる」
「は?」
烏間の言葉に顔を前に向ける。するとそこには…
「…な、何かありましたか柴崎さん…」
「か、烏間さんと、意見の不一致でしょうか…?」
「それとも私達何か気に入らないことでもしましたか…!?」
上から鶴田、園川、鵜飼。この臨時特務部のメンバーである3人が仲良く固まっては何やら顔を青くし震えていた。その様子に言葉に柴崎は柴崎は少しばかり身を引いた。
「っえ、や、いやいや…!怒ってないし烏間とも何にもないよ!」
「でも最近段々と無口度が高まっています…!」
「やっぱり烏間さんと何かあったんじゃ…!」
「…だから、何にもないって。大丈夫だって…;;」
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