decide 5

粗方の汚れを取り終えれば、手早く消毒液を染み込ませたガーゼや絆創膏を貼っていく。



「…はい。顔は終わり」

「ありがと、先生」

「いいえ。…じゃあ次は潮田くんね」

「あ、はい」


カルマにした事を同じように渚にもしていく。




「…あの、先生」

「ん?」

「口の中って、すぐに治りますか?」

「え、切れてる?」

「…みたいで…」

「そっか…。…まぁ口の中だったら直ぐに治るから心配しないで。当分は染みるかもしれないけど」


あれだけの攻防があれば口の中が切れたって可笑しくない。だが口内の傷は治りが早い為、放っておけば知らない間に元通りであろう。

渚の顔にもガーゼや絆創膏を貼り、処置完了。




「ほほー。相変わらず手早いですねぇ」

「昔もそうだけど、ここに来てもこの作業結構してるからかな…」

「なんだかんだ、シバサキが保険医みたいになってるものね」

「初めの頃はよく彼等も怪我をしたからな。その度に柴崎は手当係だ」

「別になりたくてなった訳じゃないのに、怪我したら皆俺のところに来るんだよな」


ね?と他の生徒に言えば、彼等は笑う。



「だって、なんか自然とね」

「足が柴崎先生の方に行くっていうか」

「怪我した=柴崎先生のとこ!みたいな図式出来てたよな」

「出来てた出来てた!」


その図式が出るたび、彼ははいはい、と救急箱を開けるのだ。



「ーっ、! つっめた!」

「そりゃ湿布貼ったからね」

「一言言ってよ先生ー。ビックリすんじゃん」

「これでも一声掛けたんだけどね。貼るよって」

「え、マジ?」

「うん。疲れてぼんやりしてるのかな」


首筋に湿布を貼ってやり、剥がれないよう綿テープで固定する。



「はい、これで君は終わりね」

「はーい」


次に再び渚へと向き直る柴崎。その手には先程カルマにも貼った湿布が数枚。



「右腕見せて」

「右腕?」

「そう」


言われるがままに渚は右腕を見せる。二の腕まで捲れば、柴崎はそこにヒンヤリとする湿布を貼り付けた。



「っ、!」

「…さっきの肩固めでここを酷使してると思ってね」

「ぁ…、」


確かにあの時は腕を主に使った。今更ながらに腕が重く感じる。




「……柴崎先生」

「何?」

「…僕、今どんな顔してますか?」

「え?」


処置し終えた腕から目を離し渚を見る。浮かべられる表情を見て、しばしば瞬きをすれば優しく彼に笑いかけた。そして傷に響かないよう、頭に優しく手を置いた。



「…嬉しそうなのに泣きそうな顔」

「…っ、」

「お疲れ様。…ちゃんと貫けたね」

「っ、…先生…!」

「っと、」


抱きついてくる彼に柴崎は咄嗟に受け止めた。肩から聞こえる小さな声と、見える震えた肩。




「(…天性だとか天賦だとか、そんなものの前に、まだこの子は15才なんだ)」


プレッシャー。不安。緊張。色んなものがやっと解けて、色んな思いが今溢れているのであろう。

ホロホロと、流れるそれを受け止めて、彼はただ優しくその背中を叩いた。柴崎に抱き付く渚に烏間も小さな笑みを薄っすらと浮かべ、彼の肩に埋めるその頭を撫でてやった。




「…良くやり抜いたな」

「っ、烏間先生…っ、」

「立派だったよ、潮田くん」

「柴崎先生…っ、」


うう〜っ、と先程より顔を埋めてしまう彼に柴崎は苦笑し、それから顔を上げて烏間を見上げた。



「余計泣いちゃったよ」

「共犯にしたいのか?」

「あれ、もう既に共犯じゃないの?」

「頭を撫でた事でか?」

「正解」


軽いそんな掛け合いをしてから烏間は地面に片膝を突きしゃがみ、柴崎は渚の顔を覗くように見る。



「ほら、そろそろ泣き止め」

「あんまり泣くと目が腫れるよ」

「っ、はい、」


そっと顔を上げた渚の目元を濡らすそれにお互い笑い、拭ってやる。




「さっきの君と同一人物とは思えないな。今はまるで中学生だ」

「緊張の糸が切れたんだよ。それに元々中学生だし可笑しくないでしょ」

「あれを見てからこれを見ると、多少なりともそう感じるだろ」

「まぁ、分からなくもないけど…、…二面性があるってことなんじゃない?」

「ああ、柴崎みたいな人種か…」

「待って待って。俺のどこが二面性?」

「普段は温厚でどこか抜けている面もあるが、スイッチが入ればそれも消えるだろう」

「……、……そうかなぁ…」

「っふふ、」

「「?」」


声のする方を向けば、そこには少し目元を赤くした渚が笑っていた。



「ふふっ、…っあはは!」

「……、」

「……、」


恐らく、笑うその原因は自分達にあるのだろう。何処だか分からないが。…だがこうして笑ってくれるなら、分からないままでも別に構わないかとも思うのだ。



「…親子みたい」

「ね、親子みたいだ」

「良い親子関係になりそうだよね」

「渚くんがお子さんでしたらあの2人も手が掛かりませんねぇ。まぁまぁイリーナ先生、そう震えず」

「〜〜っんもう!カラスマの馬鹿!」

「「「「(あはー…)」」」」


ぷんぷんっ、と拗ねるイリーナに殺せんせーは笑い、生徒達は苦笑やらなんやらと様々な表情を浮かべた。

そして柴崎といえば「二面性あったのかな…」と考え、そんな彼に烏間は「そう真剣に悩むな」と呆れ笑いを返していた。



「(…やっと、また皆で同じ方向を向けるんだ)」


広がる光景。一つになった目標と目的。信念を貫いた先に見えたそれらに、渚はその目元を柔らかく、それで居て嬉しそうに緩めたのだった。

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