decide

開始の合図が始まって、早速2名の脱落者が出た。



「…お前、伝授でもしたのか」

「ん?何が?」


向き合い岩と岩の上に立ち、会話をする2人。だが目は合わせず、お互いに現状に向けている。



「狙撃だ。…あんな技術、与えられるのは柴崎くらいだろう」



『あんな技術』

それは開始同時に速水・千葉が行った超遠距離狙撃の事だ。



「狙撃に関してお前の右に出る奴は居ない。百発百中の命中技術、いつ彼等に教えたんだ?」

「教えたっていうか…、…聞いて学んだって感じかな」

「聞いて…?」


速水と千葉は狙撃や射撃に関して積極的に柴崎の指南を乞うていた。それに彼もまた、時間が出来た時は2人に自身の狙撃・射撃の技術を教えてやっていたのだ。



「勿論実践もしたけど、やったのは大凡2、3回程度。……殆舌を巻くよ、あの2人のセンスにはね」


持ち前の動体視力の良さ。そして空間計算の正確さ。スナイパーとして申し分ない力をあの2人は持つのだ。




「……あー、後、神崎さんもかな」

「……はぁ。このクラスは隠す生徒が多いな」


何処からともなく現れた神崎。彼女は静かにそこへ降り立てば、何の戸惑いもなく岡島と千葉を銃で脱落させた。終いには「激戦は必至」と言うではないか。




「ゲームで敵の守備や攻撃場所を熟知したのか…」

「まるで卓上術だね。それを実戦に使うなんて、彼女も中々だ」

「あぁ。幾ら画面とはいえ、ここまでその力を付けるとはな…」



神崎の暗殺術。それは殺すためではなく助けるためのもの。彼女は戦場を駆け巡りながら思った。


「(暗殺のためにと始めて極めたゲームだけど、やってて良かった。殺すのじゃなくて助けるために役立ってるから)」



華麗な身のこなしで見事彼女は3人目、菅谷を脱落させた。




「(この限られた中で中央突破は難しい。…そんな中での定石で突いた攻めか)」


外側から回り込み、そして攻める。敵の背後を取った戦術だ。



「(…それもここまでみたいだけどね)」



神崎の背後に迫る気配に柴崎は僅かに気付く。気配に鋭い彼だからこそ、暫し離れたそこでの気配も拾うことが出来た。

柴崎は視線をある方向へ移す。その先には、恐らくもう1人の鷹が彼女の首に喰らいついている頃であろう。



「…神崎さんはアウトか」


烏間はインカムから聞こえた神崎の脱落にそう呟く。


「要所の、更に上を突いたみたいだね」

「…のようだな。裏を取ったか」


要所を攻めるならそこで待ち伏せを。鋭い彼、カルマに裏の裏を読まれ、最後は堕ちた。



脱落者は次々と殺せんせーとイリーナの居る場所へ集まる。


「おや。お疲れ様でした、片岡さん、竹林くん」

「迂闊…。開始と同時に殺られるなんて」

「恐らくカルマくんの指示でしょうねぇ。君の指揮能力で小隊を組んで速攻されると脅威ですから。竹林くんも火薬を使って何か企んでいたでしょう?」

「上空でペイント弾を爆発させて…、敵陣にインクの雨を降らせようと思ってたよ。…読まれていたか」

「…要するに、イチバン爪を隠していたのはあの赤いボーヤってわけ…」


イリーナはカルマの先を読む力に些か驚嘆した。






次々と脱落者が出ていく。だがただ撃たれ、切られ、敗北していくわけではない。生徒達は互いに力の限りを尽くし真剣に相手と向き合っているのだ。それは暗殺技術も然り、そして相手の中身も然り。敵対しても同じ仲間であることに変わりはない。だからこそ真っ向から仕掛け、油断も手も抜かずに立ち向かっていくのだ。





「……」


ちらり、と手元の携帯に目をやる。青5、赤7。優勢なのは殺す派である赤側だ。ここまでの人数になると、そろそろ互いに旗を奪(と)る戦略を練り始める頃合い。



「(…どんな策で奪い合うかな)」


手っ取り早く、味方を囮に使い力ある者が奪うか。それとも互いに残りの人数を減らし合いながら油断を突いて奪うか。防衛線を張る者達を先に伏せさすという策もある。……あとは、



「(……まるで影だね)」


全てを蹴散らし土壇場でひっくり返して勝利を手にするという策。柴崎は自分の視線の先に立つ烏間を見る。



「………」

「………」



彼は本当に良く育った暗殺者だ。柴崎は零れた小さな笑いを顔を下に向けることで誤魔化した。




「(……)」


普通ならなんてことないその笑い。だが烏間には分かった。彼は自分を見て笑ったのではないと。



「(……俺もお前の観察眼には殆舌を巻くさ)」


その位置では見えないだろうに。自分の存在が壁となって。なのに彼は気付いた。



「(…柴崎の目には、この先の展開がどう見えているんだろうな)」


残り僅かな周りの生徒に目を向け意識を向けながら、彼の頭の中ではこれからの展開を描いていっているように烏間には思えたのだ。

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