photo -Extra edition-

最近、律はモバイル律としても活躍しているそうだ。つまり、どの人の携帯にも律は居るわけで、勿論柴崎の携帯にも居る。

仕事が終わり、後は持ち帰って家でするだけの分だ。



「終わったか?柴崎」

「終わった終わった。じゃあ帰ろうか」

「あぁ」



烏間と柴崎は席を立ち、教員室を出る。2人は車出勤だが、烏間の車の調子が悪いため、今日は柴崎の車に乗せてもらって来たのだ。




「そういえば、そろそろまた転校生来るんだっけ?」

「みたいだな。まだ報告は来てないが、そろそろだろう」

「どんな子かな。…とんでもなかったりして」

「お前の予想は大概当たるからな…」

「そこは否定してよ。俺だって好きで当ててるわけじゃないんだし」

「どうする、もし今日限りで防衛省を辞めろと言われたら。占い屋でもするか?」

「ンなことする訳ないでしょうよ。インチキ占い屋で引っ叩かれるって」

「案外いけそうな気もするがな」

「…烏間くん?君は俺を辞めさせたいわけ?」

「とんでもないさ。お前が居てくれないと俺は凭れかかる所がなくなる」

「ったく、縁起悪い事言っておきながらそう言うだもんな…」



車を運転する柴崎、助手席に座る烏間。別に珍しいことではない。逆の場合の時もあれば今日のような時もある。



「はい、烏間のマンション」

「あぁ、助かった」

「エンストしたんだっけ?忙しいと思うけど見せに行きなよ」

「次の休みにでもな。じゃあまた明日」

「あぁ、また明日」



助手席の扉が閉まるのを確認してから車を走らせる。ネオンが輝き、すっかり夜も更けてしまった。然程そう烏間のマンションから遠くはないところのマンションに住んでいる柴崎は10分程走らせて車を停めた。
マンションの入り口に入り、オートロック式なので解除する。扉が開いたのを確認して中に入り、エレベーターのボタンを押す。




「…ふぁ…」


小さく欠伸が漏れる。毎朝早く起き、出勤し、防衛省の仕事と学校での教師としての仕事を両立させるのは大変である。そこにまたFBIがどうだとか転校生がどうだとかという話が舞い込んで来るもんだから頭が痛い。
開いた扉の中に入り、自分の階のボタンを押す。数秒後、エレベーターが止まり扉が開く。外に出て自分の部屋を目指す。鞄から鍵を出すと隣の部屋が開く。





「あら、柴崎さん今帰り?」

「えぇ、そうです」

「遅くまで大変ねぇ。体壊さないようにね」

「ありがとうございます。周防さんも体が冷えないように気を付けて下さい」

「いやぁね!私は太ってるから平気よ!あ、話しかけちゃってごめんなさいね?疲れてるのに…」

「いえ、気にしないで下さい」

「じゃあ私ももう寝るわ。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


部屋が閉まる音を聞いてから自分の部屋の鍵を開け、中に入る。電気を付けて靴を脱ぐ。上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながら中に入って手を洗いに行く。




「…えっと…、まずこの書類とこの資料をまとめて…」

リビングに戻った柴崎は鞄から何枚かの書類を出して机に出す。携帯を出して返事をしなくてはいけないメールが来ていたか確認しながらお風呂を入れる。お風呂のお湯が入るまでの間携帯で返せる分の返信をする。お湯が沸けた音が聞こえたので、仕事は後にして風呂に入る。







「ふぅ」


お風呂上がり、髪をタオルで拭きながらパソコンを起動。ノートパソコンだ。携帯はパソコンの横に置く。ブルーライトメガネを掛けて資料を片手にパソコンに打つ。柴崎の集中力は凄い。なので、気付かなかった。携帯が作動し、モバイル律が動いていたのを。



カチカチカチ…


「…これは…、烏間に明日聞こっか。こっちは、これだけあれば足りるな…。これは…」

「(はわわわっ!メガネの柴崎先生かっこいいです!!それに、髪が濡れてるから色っぽいですし…っ!はっ、これを私だけ見るのは不公平!動画にすることはきっとダメですね…お仕事のことも話していますし…、でしたら写真を撮りましょう!そして皆さんの携帯に送っておけば万事OKです!)」





いや全くOKではない。寧ろNGだ。しかしそれに気付かないのが柴崎。彼の集中力は半端ない。あの生真面目な烏間が声を掛けなければ辞めないほどに。



「(真面目な表情に、真剣な瞳、巧みにパソコンを操作するその手付き、時たま欠伸をするそのあどけなさ!学校では見ることのできない面がこうして見れるなんて律は感動です!!)」

「んー…、あ、そっか」

「(そしてその時々悩ましく眉間に皺を寄せる表情!はぁ、フォトブック集を作るべきでしょうか…!!)」

「…よし、終わった」



律はその言葉にピクリとし、急いでアプリを落とす。柴崎はパソコンの電源を切ってUSBを抜く。それを鞄に入れて、無造作に髪をタオルで拭く。粗方乾いたところでタオルを洗濯機に放り込み、スタートを押す。朝になれば干すだけだ。閉じかける目をなんとか開き、寝室に行くと枕元の電気だけを付けて布団に入る。アラームをいつものように携帯で設定し、眠った。今AM1:30。








ブーブーブー…

「…ん…」



部屋に朝日が入る。時計を見ればAM6:00。起きる時間だ。一つ伸びをし、掛けておいた服に着替える。枕元に置いてあった携帯を手に取り洗面所へ。顔を洗いリビングに行く。パンを焼いている間にコーヒーを入れる。彼はブラック派だ。そうこうしている間にパンが焼けたのでコーヒーを片手に食べる。パパッと朝食を終わらすと洗濯をし、時刻を見ればAM6:35。鞄を持ち、上着を羽織ると部屋を出た。








いつも通り車で出勤し、駐車場に停めて、校舎に向かう。その時だった。後ろから声が掛かったのは。



「ちょっ!シバサキ!!」

「ん?あ、イリーナ。おはよう」

「え、あ、おはよう。じゃなくて!!これ何!?」

「これ?」

「これよこれ!!律から送られてきたのよ!」



携帯の画面をこちらに向けるので、なんだと見てみる。




「………………は?」

「なにこれ!!なんなのこの激レアショット!!私だけ!?私だけよね!!」

「………………まさか」




柴崎は珍しくも走った。後ろでイリーナが何かを言っているが無視だ。そんな事よりも確かめるべきことがある。走りながらあるアプリを開くも開かない。こうなったら直接教室に行って物申すしかない。鞄を持ったままE組教室へ向かう。息は乱れない。流石は精鋭部隊所属。




「おい!!柴崎!!」

廊下で呼び止められる。振り向けば烏間だ。



「なに!?今忙しいんだけど!」

「これはなんだ!朝起きたら律から来てたんだ!」

「これって…烏間にも!?」

「俺にもって…一体どういう…っておい!柴崎!どこ行くんだ!」

「E組!!」




E組に着いた柴崎は勢い良く扉を開ける。進む先はただ一つ。



「り…「柴崎先生!!この写真なんですか!?」

「え……」

「朝起きたら携帯に来てて!律から!!」

「これってお風呂上がりですよね!きゃー!先生色っぽいー!」

「こっちは眼鏡してる!柴崎先生眼鏡してたんですね!」

「この欠伸してる先生普段じゃ見れないからめっちゃレアじゃね!」

「悩んでる顔してる柴崎先生もかっこいい〜!」

「律に聞こうと思ったけどなんかアプリ起動しないんだよな〜」

「〜〜〜っ、ちょっとストップ!!」


それにピタリと声も動きも止まる生徒達。柴崎の後ろから烏間・イリーナ・殺せんせーがやってくる。生徒達が止まったその隙に柴崎は真っ直ぐとある方向へ向かう。その顔はいつもの温厚で優しげな柴崎とは一変、どこか怒っていて不機嫌な顔だ。




「どういうことだ、律!!」


その声に、流石の律も機械を起動する。目の前の怒った柴崎を見て目を泳がせる。


「あの〜…これは、その…」

「アプリを開こうにも開けないし、他の生徒や教師も開けない!しかもあの写真!いつ撮ったんだ!その前にいつ起動した!」

「柴崎先生がお仕事をされた時に…。先生とても集中されていたので私が起動したことに気付いていられなくて…。最初は見ているだけだったんですけど、こんな素敵で色っぽくかっこいい柴崎先生を私だけが独占していいものなのか!そう思ったんです!いいえいけない、これは是非とも写真に収めて皆さんに送らなければと私は思ったんです!いつかは柴崎先生のフォトブック集を作ろうかななんて考えたりして…」

「作らなくていいし、写真撮ってそれを広めなくていい…っ!!」



柴崎は朝から疲れて首が垂れる。


「…で、なんでアプリは起動しなかったの」

「それは頭の切れる柴崎先生ならまずそれぞれ個人にインストールされている私のアプリを起動されるかと思いまして先に起動しないように作用させておきました!」

「そんな手の込んだことしなくていいし…」



そんな柴崎の肩に手を置いたのはこいつだ。



「まぁまぁ良いじゃありませんか、柴崎先生。こんなレアな柴崎先生を見ることなんて叶わなかったんですから、良しとしましょうよ」




殺せんせーだ。



「お前は…っ、人の事だと思って…っ」

「それに見てみてください、イリーナ先生を」

「はぁ?」



言われた通りイリーナを見れば携帯をまるで感動しているのか感激しているのかなんなのか分からない表情で凝視している。



「これも、これも、これも保存!永久保存版にしなくっちゃ…!機種変するときはまた移動させなきゃね…!」

「…ちょっと待てイリーナ、今保存した?」

「え?あ、いや!ほ、保存なんてそんな!ち、違うわよ違うわよ!シバサキの聞き間違いよ、いやぁね!」

「本当に?」

「いや、柴崎先生、ビッチ先生バッチリ保存してんの俺見ちゃった」

「なっ、このっ、赤羽業!!チクんじゃないわよ!!」

「イリーナ…っ!」

「あわっ、え、や、ぜ、絶対消さないんだから!!」

「消せ!!」


教室から逃げていくイリーナの後を追おうとした柴崎の腕を掴む者が一人。





「まぁ、なんだ、たまには良いんじゃないか」

「………烏間」

「生徒も喜んでるようだし」

「………ならなんなわけ、その顔は。まさか…、お前まで保存したわけじゃないよね!」

「しっかり保存させてもらったが?」

「ばっ、消して!大体そんなの保存して何になるわけ!」

「保養だな」

「だからなんの!」

「目の」

「ふざけんな!」







「私達も保存しよう〜!」

「これロック画面にしよっかなぁ」

「あ!私もそうしよっと!」

「俺も先生専用のフォルダー作っとこっと!」

「あ、それいいな!俺もそうしよっと!」

「律ー!またよろしくなぁ!」

「はい!お任せ下さい!」





「………………………」



開いた口がふさがらないとはまさにこのことである。烏間に掴みかかってた柴崎も顔が暗くなる。




「光栄だな」

「…なにが」

「お前からこうしてくっ付いてくるんだから」

「…は?」


生徒に向けていた顔を烏間に向ける。かなり距離が近く思わず体を後ろに引く。が、いつの間にか腰に腕を回されておりいけない。




「なにこの腕」

「なかなかないからな、こんな事は」

「っ、このば烏間…っ!」




パシャリ




「え…」

「烏間先生と柴崎先生禁断の恋!!第2章に持ってこいの話題であり写真ですね!!」

「あ!殺せんせー、その写真ちょーだい!」

「良いですよ。なんならクラスの皆さんに送りましょうか?」

「「「「お願いしまーす!」」」」

「………………………」

「おちょくり甲斐があるな、柴崎は」

「………ふざけんな!!」




そのあと、殺せんせーに銃を発砲し、生徒達に画像を消すように言い、律にはこっ酷く叱り、烏間を1日無視し、イリーナには無言の圧力を掛けたのだった。

しかし、殺せんせーは銃弾から逃げて、生徒達は消せと言われても消さず、律は叱られながらまた見つからないようにやろうと心に決め、烏間は無視されても涼しい顔をし、イリーナは無言の圧力になんとか耐えながらもチラチラと柴崎を見るのだった。



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