Irina

「わかったでしょ?サマンサとキャリーのエロトークの中難しい単語は一個も無いわ。日常会話なんてどこの国もそんなもんよ。周りに1人は居るでしょう?「マジすげぇ」とか「マジやベェ」だけで会話を成立させるやつ。もっと身近な存在だとあの忌々しいカラスマと文武両道なシバサキの会話。ほぼほぼ主語なしで話すわ」

「「「「(烏間先生と柴崎先生の扱いの差;;)」」」」

「で、その「マジで」に当たるのがご存知「really」木村、言ってみなさい」

「…リ、リアリー」

「はいダメー。LとRがゴチャゴチャよ。LとRは発音の区別付くようになっときなさい。外人としては通じはするけど違和感あるわ。言語同士で相性が悪い発音は必ずあるの。韓流スターは「イツマデモ」が「イチュマデモ」になりがちでしょ。日本人のLとRは私にとってそんな感じ。相性が悪いものは逃げずに克服する!これから先、発音は常にチェックしてるから。LとRを間違えたら…公開ディープキスの刑よ」












「はぁ、疲れるわ」


授業が終わり、廊下を歩くイリーナ。今まで暗殺者として生きてきた彼女にとって子供に何かを教えることは大変。経験もない。疲労も溜まる。




「イリーナ」

「シバサキ」

「疲れてるみたいだね」


後ろから声をかけられて振り向けば、資料を持った柴崎。




「そりゃ、こんな経験ないもの」

「そうじゃなくて、疲れてるってことはそれだけ子供達と向き合おうとしてるってことだろ」

「…」

「お前なりに頑張ってる証拠さ」



ポンッと頭に手を置かれ、そのまま柴崎は歩いて行った。頭に手を置かれるなんて、もう何年も無い。置かれたところに、手を当てる。





「……シバサキのバカ」


誰にでも優しくしてたら、いつかバチ当たるんだから。
















でも、やっぱり……




「はぁー、もう!面倒臭いわ!授業なんて!」

「……その割には生徒の受けは良いようだぞ」

「何の自慢にもなりゃしない。殺し屋よ私は!!あのタコを殺すためにここに居るの!!その肝心のタコと言えば!!私のおっぱいを景色に見立てて優雅にお茶を飲んでいる!!」



柴崎はコーヒーを飲み、烏間にも渡す。礼を言い、一口飲む。





「焦るな。そういう暗殺対象だ。こいつは」

「そうそう。今に始まった事じゃないし」

「腰をすえてじっくり機会を窺うためにお前は教師になったんだろうが」

「Fuck!!やってらんないわ!!」



殺せんせーに向けていたナイフを放り、そのまま教員室を出て行った。





「…気が立ってますねぇ」

「全て誰かのせいだがな」

「そろそろ殺されろよ、お前も」

「そんな簡単に殺されたんじゃ面白くありませんよ」

「面白さを求めるな」

「ヌルフフフ。…さて、では私は少し上海まで行って杏仁豆腐を食べてきます」


そういうと、殺せんせーはいつもの如く窓から出て行った。



柴崎と烏間はそれからしばらく仕事をしていた。その時、微かに音がした。本当に、耳を澄まさなければ聴こえない音。それは廊下の方から聞こえる。まるで、そう、ロープが伸びるような音。そして、足音。



「……」


意識を廊下に向けたまま柴崎は腰をあげる。それに気付いた烏間は彼を見上げた。



「柴崎?どうした」

「…音がした。僅かだけど。ロープと足音だ」

「ロープと足音?」

「…誰かが侵入した可能性が高い」




その言葉に烏間も席を立ち一緒に行くと言い出す。それに頷くと2人は教員室を出た。




「あれは…」


廊下に出れば一人の男と、首にロープをかけられて釣られているイリーナ。烏間と柴崎は目でお互いを見ると気配を消し、近付いた。






「What are you doing? Drop her off.(何している、下ろせ)」

「It wouldn't be the work prepared for a woman.(女に仕掛ける技じゃないけど)」



声をかけられて初めてその存在に気付いた男は振り返る。


「…Bez obav. Hodně ochrana proti drátu učím.(…心配ない。ワイヤーに対する防御くらいは教えてある)」




そう言い、ロープをナイフで切る。切れたせいでイリーナは床に倒れる。



「(…東欧の言語)Who is it? It is saved at least when it is English.(何者だ。せめて英語だと助かるんだけど)」

「…これは失礼。日本語で大丈夫だ。別に怪しい者ではない。イリーナ・イェラビッチをこの国の政府に斡旋した者……と言えばお分かりだろうか」

「「!」」



殺し屋・ロヴロ。腕利きの暗殺者として知られていたが、現在は引退。後進の暗殺者を育てる傍、その斡旋で財を成しているという。暗殺者になど縁のなかった日本政府には貴重な人脈だ。しかし何故ここにいるのか。



「ところで殺せんせーは今どこに?」

「…上海まで杏仁豆腐を食いに行った。30分前に出たからもうじき戻るだろう」

「フ…、聞いてた通りの怪物のようだ。来て良かった、答えが出たよ。今日限りで撤収しろ、イリーナ。この仕事はお前じゃ無理だ」

「…、ずいぶん簡単に決めるんだね。彼女は貴方が推薦したんだろう」

「現場を見たら状況が大きく変わっていた。最早こいつはこの仕事に適任ではない。正体を隠した潜入暗殺ならこいつの才能は比類ない。だが一度素性が割れてしまえば、一山くらいのレベルの殺し屋だ。挙句、見苦しく居座って教師の真似事をし、要らぬ気持ちまで持ち始めるとは。こんな事をさせるためにお前を教えたわけじゃないぞ」



ロヴロはイリーナを見下し、そういう。だがイリーナはまだ諦めていなかった。


「…そんな、必ず殺れます師匠!!私の力なら…!」

「ほう、ならば…」


余程動体視力が良くなければ見えない速さでイリーナの後ろに行き、左腕を後ろに捻ると首元に指を当て捉える。



「こういう動きがお前に出来るか?」

「(…速い!)…見えたか、柴崎」

「……まぁ、追えない速さではないかな」



ボソリと呟いた柴崎の言葉をロヴロはその耳の良さで聞く。





「(ほぉ…。この動きを見切ったか。あの男、やるようだな)お前には他に適した仕事が山ほどあり…、この仕事に執着するのは金と時間の無駄だ。ここの仕事は適任者に任せろ。2人の転校生暗殺者の残る1人が…実戦テストで驚異的な能力を示し、投入準備を終えたそうだ」

「……っ」

「相性の良し悪しは誰にでもある。さっきお前は発音について教えていたが、教室こそがお前にとって…LとRなのじゃないのかね」

「半分正しく、半分は違いますねぇ」



そこに殺せんせーがにょきっと登場する。ついでにロヴロとイリーナを放しながら。





「何しに来た、ウルトラクイズ」

「来るならもっと早く来い」

「酷いですねぇ、二人共。いい加減殺せんせーと呼んで下さい。…確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません。クソです」

「誰がクソだ!!」

「ですが、彼女という暗殺者こそ、この教室に適任なのです。殺し比べて見ればわかりすよ。彼女と貴方、どちらが優れた暗殺者か」

「「「「は?」」」」




イリーナ・ロヴロ・烏間・柴崎は突然の提案に声を漏らす。殺し比べる?どこでどうやってするというのだ。



「ルールは簡単。イリーナ先生は烏間先生を、ロヴロ先生は柴崎先生を殺せた方が勝ち!イリーナ先生が勝ったら…彼女が教室で暗殺を続ける許可を下さい」

「おい待て!!何で俺と柴崎が犠牲者にされるんだ!」

「烏間先生と柴崎先生なら公正な標的になるからです。私が標的になっては…イリーナ先生に有利なよう動くかもしれませんし。第一私じゃだ〜〜〜れも殺せないじゃないですか」

「……この異次元不思議生物が。大体なんで俺が殺し屋・ロヴロ相手なんだ」

「柴崎先生、貴方の身体能力はズバ抜けている。判断力、集中力、瞬発力、観察力、動体視力、戦闘力…その他どれにおいてもトップクラス。貴方の本気を、私も見てみたいんですよ。その本気を出す相手とすれば、今この状況ではロヴロさんが一番適任かと思いまして。まぁ、これで貴方が本気を出すかは分かりませんがね」

「…俺の本気なんて見せても意味ないと思うけど」

「そんなことはありませんよ。さて、使用するのは人間には無害な対先生ナイフ。期限は明日1日!この対先生ナイフをイリーナ先生は烏間先生に、ロヴロさんは柴崎先生に当てて下さい。互いの暗殺を妨害するのは禁止。生徒の授業の邪魔になっても失格です」



殺せんせーが二本のナイフをロヴロ、イリーナに手渡す。ゴム製で出来ているため、確かに人間には無害だ。



「…なるほど、要するに模擬暗殺か。良いだろう、余興としては面白そうだ」


ロヴロはチラリと自分の標的である柴崎を見る。その視線に気付いた柴崎はロヴロに背を向ける。




「…もういい、勝手にしろ」




そのまま背を向けて歩いて行く柴崎の背中にロヴロは呟いた。



「フッフフ…、殺せんせー、カラスマ、なかなか出来るな、あの男」

「それはもう。烏間先生の同期であり、過去あのアメリカ捜査局・FBIの捜査員に特別派遣された方で、この私の監視役に選ばれる位ですからね」

「気配の消し方、相手に感情を悟られないポーカーフェイス、隙の無い立ち居振る舞い。なかなかなもんだ」

「…あいつは、一筋縄では行かないぞ」

「なに?」

「あいつの実力は俺以上。本気のあいつなんて、この俺でも目にしたことはないからな」




そう言い、烏間も背を向ける歩き出した。






「ふ、あいつもなかなか出来る男だな。あいつに刃を当てる事などお前には無理だ、イリーナ。お前の暗殺の全てを教えたのはこの俺だ。お前に可能な事、不可能な事、俺が全て知っている。この暗殺ごっこでお前にそれを思い知らせ、この仕事から大人しく降りてもらう。そして、誰も殺れない殺せんせーよ。お前を殺すに適した刺客、もう一度選び直して送ってやるさ」



イリーナと殺せんせーをその場に残し、ロヴロは姿を消した。







「………私を庇ったつもり?どうせ、師匠が選ぶ新たな手強い暗殺者よりわたしのほうがあしらいやすいと考えてんでしょ。そうは行くもんですか!!カラスマもあんたも絶対私が殺してやるわ!!それに、幾らシバサキが強いからって師匠には敵わないわ!!」


そう言い放つと、イリーナも殺せんせーを置いて出て行ったのだった。

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