final

期末テスト。本校舎とE組が戦える最後の場。それを逃さないのが、この人である。



「え…ちょっと待って…。もう一度言って頂けますか?」

「あと10億必要です」



ここは理事長室。そこには理事長、烏間、柴崎、園川が居た。



「これから暗殺は佳境なのでしょう?何が起こるかますます分からない。我が生徒への危険も考えねばならないし…。機密の保持にもコストはかかる。この街に長くいるから感じますが…。大掛かりな計画も何やら進んでいるようですし」


理事長の言葉に烏間、柴崎は共に表情を僅かに変える。園川が理事長の言葉に意見しようとする。



「……!!だからと言って!」

「よせ、園川」

「でも、もう追加の口止めを要求されるのは何度目ですか!?このままだと3月までには賞金より高くつきますよ!?」

「忘れちゃ駄目だよ。…こちら側はこの学校を使わせてもらっている立場だ」


柴崎の言葉に園川はぐっと堪える。確かにそうなのだ。防衛省からすれば、この椚ヶ丘中学は謂わば暗殺場所として貸してもらっている場所。立場的に防衛省は下。この学校の経営者である浅野理事長の方が上なのだ。


「では振込の方お願いしますよ。当分忙しくなるので失礼します」


そう言って理事長は部屋を出た。



「…流石だな。なんてカンの鋭さだ」

「あぁ…。この街で進む最終暗殺計画まで察知している。…大した男だ。たった一人で、防衛省を、手玉に取るとは…」



やり手なのは確かだ。そして、目的の為ならば手段を選ばず、使えるものは使う。それが例え、自校の生徒であろうと。






「一学期の中間の時。先生はクラス全員50位以内という目標を課しましたね。あの時の事を謝ります。先生が成果を焦りすぎたして…敵の強かさも計算外でした。柴崎先生の咄嗟の手回しがなければ、50位以内の生徒はあれほど出なかったでしょう。

ですが、今は違う。君達は頭脳も精神も成長した。どんな策略や障害にも負けず目標を達成出来るはずです。堂々と全員50位以内に入り、堂々と本校舎復帰の資格を獲得した上で、堂々とE組として卒業しましょう」


殺せんせーの言葉に、杉野がそう上手くいくのかと聞く。今までの事も踏まえると、そういう疑問が生まれるのと致し方ない。


「A組の担任が変わったらしい。新しい担任はなんと…、理事長らしい」


その言葉にE組生徒たちは終にラスボスが降臨したと肩を震わせた。


「…そうですか。とうとう…!!」



この暗殺教室が成り立つのに、欠かせない役者が4人いる。

1人は勿論殺せんせー。賞金首の怪物教師だ。


2人目は烏間。ナイフ術もさる事ながら、射撃・作戦・指導力・頭脳…その他の戦闘技術に関しても底知れない人物。

3人目は柴崎。体術で右に出る者は居ず、射撃・狙撃のプロ中のプロ。冷静で頭の回転が早い。烏間に並ぶ底知れない人物。

この超有能な2人の働きなくして…生徒達は暗殺者として機能しなかった。


そして最後の1人、4人目は、学園の支配者。浅野理事長だ。自分の学校を暗殺の舞台に提供する懐の深さとそれでもなお一切揺るがぬ教育への自信。




「正直あの人の洗脳教育は受けたくないよ。異様なカリスマ性と人を操る言葉と眼力。授業の腕もマッハ20の殺せんせーとタメ張るし。あの人の授業受けたら…、多分もう逆らえる気がしない」


三村の言葉に殺せんせーはキィー!とハンカチを噛む。そして、その時教室の窓から本校舎から烏間より先に戻った柴崎の姿が。殺せんせーは窓から柴崎の名前を呼んだ。



「柴崎先生」


その声に気付きそちらを向く。


「なに」

「…浅野理事長が、A組の担任をなさります」

「……」

「確実今度のテスト問題、侮れないものばかりでしょう。…貴方の受け持つ数学も、もしかすると大学問題並み。…私は貴方を信頼しています。彼等の頭脳になってくれる事を。…最難問を貴方のその柔軟性のある頭脳で、彼等に教えてあげて頂けませんか?」


その言葉に柴崎は驚く。信頼していると言った。以前も、そんな事言っていた。どの教科も大切だ。期末は範囲も多い。その上今回は難易度中の難易度。ハイレベルだ。何が何でもE組生徒達に勝たせてやりたいと思っているだろう。今までの努力、積み重ねてきた過信し過ぎない自信で。その一角を、柴崎に任せてきた。殺せんせーの言葉に、柴崎は小さく笑う。



「…俺に任せて大丈夫?」

「貴方だから、…柴崎先生だからこそ、私は頼むのです」

「…了解。任せて。最短で答えを出せる解答方法を彼等に教えるから」

「頼みました。私は他の教科に全力を注ぎます。彼等のために」

「なら、今から問題見ておかないとね」


そう言うと彼は校舎へと足を踏み入れた。



その日から、怒涛の試験勉強期間が始まった。





「…さて、数学の問題といえば思考力、柔軟性、閃き。問題のレベルが上がるごとにそれらは最重要視される」

「「「「………」」」」


生徒達は黒板の前に立つ柴崎を真剣な目で見つめた。



「問題文から頭の中でどの様にイメージ出来るかという思考力。より一層の最短ルートで答えを導き出すことが出来るかどうかという柔軟性。どんなに難しい問題でも鍵となるものに気付けるかどうかという閃き。数学を解く上での三大要素。これは、1学期から言ってきたこと。…でも、次のテストでは更にこれにスピードが求められる」

「スピード…?」

「そう。悩めば悩むほど時間はロスする。かと言って、分からないから問題を飛ばしていると点数にはならない。ならどうするべきか」


それに生徒達は頭を捻る。確かにそうだ。分かる問題から解き、分からない問題はまず後回しにする。そして残りの余った時間でその後回しにした問題に手をつける。だがもし、分からない分からないと後回しにし、問題の半分程がその分からないで埋まれば、勝ち目はない。


「どうすれば…」

「時間をロスせずに問題を解く…」

「確実に点数にするために…」


悩む生徒達を一瞥して、柴崎は黒板に文字を書いた。擦れる音に皆の視線黒板へ。



「反復と理解。これがポイント」


黒板をコツンと指で叩く。


「反復と…」

「理解…」

「スピードって言うのは、ただひたすら解くっていう意味だけじゃない。さっき言ったように数学に於ける三大要素を如何に頭の中で出来るか。しかし何をするにも特訓が必要。特訓をして成果を出すには理解が必要。その特訓が反復」

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