「修学旅行でも奴の暗殺に進展無しか。大丈夫なのかね、Mr.カラスマ、Mr.シバサキ」
「…全て私達が至らぬゆえ。なお一層尽力致します」
「ときにMr.シバサキ。君は先日狙撃にあったそうではないか。大丈夫なのかね」
「問題ありません。この通り、完治しております」
「うむ。5月ももう終わる。タイムリミットは刻一刻と近付いているぞ」
「なに、いざとなれば核ミサイルで学校一帯を…」
「良したほうがいい。リスクがでかすぎる。奴なら爆風より早く逃げかねん。この前太平洋上で迎撃ミサイルを打った時も…、後日破片を繋げて返しに来おった」
「…なんと…、打つ手はないのか?」
「ご心配なく。同志数カ国で科学技術を結集して研究しています。その結晶を使用すること、日本の防衛省とも先ほど合意に達しました。2人の特殊な暗殺者を…、あの教室に送り込む。2人共、科学力で人知を超えた能力を持つ。教室に帰れば驚くだろう。Mr.カラスマ、Mr.シバサキ。1人はまだ調整に時間がかかるが、もう一人は旅行の間に実働準備を終えている」
「…分かりました」
「では、我々は失礼します」
烏間・柴崎、そして他の防衛省員が部屋を出ようとするその背中に声が掛かる。
「あぁ、Mr.シバサキ」
その声に柴崎は足を止め、振り返る。
「はい」
「我々はアメリカの連邦捜査局にも依頼をしている。まだ返事は来ていないが、恐らくOKだろう。その時は、頼んだぞ」
「…了解しました」
部屋を出ると鶴田が柴崎に話しかける。
「柴崎さん、アメリカの連邦捜査局って…」
「FBIのことだ」
「え、FBI!?」
「なぜFBIと柴崎さんが関係あるんですか?」
「…過去3年間、アメリカに居た時FBIで世話になっててね。そのせいだよ」
「そうだったんですか…」
「顔が広いんですね、柴崎さん」
「そうでもないよ」
しかし、FBIが動き出すなんて。それほど世界は危機に面している。国も、切羽詰まっている証拠だ。
「……疲れるね」
「…え、これ?」
「…のようだな」
「人間超えたねぇ…」
「もう何も言うまい…」
2人が朝一に教室に行き確認すれば、そこには一体の機械が。どう考えても昨日はなかった。これが例の転校生というのだろうか。
「またとんでもないものを寄越してしてきたもんだ」
「だが、国の命令だ。従うしかない」
「生徒達もびっくりするだろうね」
「恐らくな」
そして、教室に生徒が集まり席に座る。烏間と柴崎はなんとも言えない顔で、その機械を説明するのだった。
「おはようございます。今日から転校してきました、”自律思考固定砲台”と申します。よろしくお願いします」
「「「「(そう来たか!!!;;)」」」」
「…みんな知っていると思うが、転校生を紹介する。ノルウェーから来た、自律思考固定砲台さんだ」
「…仲良くしてあげてね」
「(烏間先生と柴崎先生も大変だなぁ…;;)」
「(俺、あの人達だったらツッコミきれずおかしくなるわ;;)」
それを笑うのがこいつである。
「プーーックスクスクス!」
「お前が笑うな…っ!!同じ色物だろうが!」
「笑える立場になってから笑え…!」
「柴崎先生、私は人ではありませんので無理かと…」
「死ね!!」
素早くナイフを投げるがそれもかわされる。
「はぁ、…言っておくけど、「彼女」は思考能力と顔を持ち、れっきとした生徒として登録されてる」
「あの場所からずっとお前に銃口を向けるが、お前は彼女に攻撃できない。「生徒に危害を加える事は許されない」それがお前の教師としての契約だからな」
「……なるほどねぇ。契約を逆手に取って…なりふり構わず機会を生徒に仕立てたと。良いでしょう、自律思考固定砲台さん。貴方をE組に歓迎します!」
こうして、自律思考固定砲台はE組の生徒となった。
「…本当にあんなのであいつを殺せるの?」
イリーナ・烏間・柴崎は今国語の授業をしているE組を廊下側の窓から見ていた。
「どう攻撃するかまでは、知らされていない。俺たちも見るのは今日が初めてだ」
「なんせ、朝来たらあの機械があったんだからね」
「ふぅん…」
じっと見ていたが、自律思考固定砲台は動きを見せない。何もしないのかと思っていたが、急に画面が光り出す。するとサイドからいくつもの銃器を出すと殺せんせーに発砲した。それをいつも通り避ける殺せんせー。
「授業中の発砲は禁止ですよ」
「……気を付けます。続けて攻撃に移ります」
様子が変わる。それをじっと見る。
「弾道再計算。射角修正。自己進化フェイズ5-28-02に移行」
「………こりませんねぇ」
数多くのBB弾が撃たれる。だが、それも避ける。目の前に飛んできたBB弾をチョークで弾き、退路を確保したが、隠された弾が触手を撃ち抜いた。ブラインドだ。
「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認しました。次の射撃で殺せる確率0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率0.003%未満。卒業までに殺せる確率、90%以上。よろしくお願いします。殺せんせー。続けて攻撃に移ります」
暗殺対象の防御パターンを学習し、武装とプロクマラムに改良を繰り返し少しずつ逃げ道を無くす。誰もが思った。彼女を甘く見ていたと。いや、認識を間違えていた。目の前にいるのは機械でもなんでもない。殺し屋だと。
「自己進化する固定砲台…か。凄いわね」
「”彼女”が撃っているのはBB弾だが…、そのシステムはれっきとした最新の軍事技術だ。確かにこれならいずれは…」
「…どうかな」
「どういう意味?」
「”彼女”が連続して攻撃をし続ければ、あれも退路のパターンを考えてくる。幾つもの国の攻撃をかわしてきた奴だ。そう簡単に殺られるとも思えない。最も、彼等の心理状態もどうなるか」
「彼等って、E組生徒達か?」
「そう。あぁも授業内に発砲されれば、受験生である彼等にとって”彼女”は煩わしい存在になる可能性もある。それについていけるかどうか」
「…確かにね」
「それに、この教室がそんな単純な暗殺場なら、イリーナはここで先生なんてしてないでしょ」
ね、と聞けばイリーナは頷いた。
「ええ、そうね。してないわ」
六時間目は数学。柴崎の授業だ。生徒達は二時間目も三時間目も四時間目も五時間目もあの発砲の有る意味被害を受けていたため、この授業なら!と安心していた。が、教室内は未だ彼方此方にBB弾が。
「…始める前に、掃除しようか」
「「「「…はい」」」」
本日5度目の掃除である。勿論柴崎も手伝った。粗方BB弾がなくなったところで授業を再開する。
「この場合、P点はB地点にいる。その時に表れる図形がこの三角形だ。この面積をまず求める」
今のところ、何事もなく授業は進む。それに生徒達も一息つく。だが、急に画面が光り始める。それに生徒達はビクつく。またあれが始まるのか?でも今は柴崎先生の授業で殺せんせーじゃないぞ。そんなことを考える。柴崎もそれに気付き、振り返り黒板に背を向ける。
「…なにかな、自律思考固定砲台さん」
「…貴方は殺せんせーではありません。殺せんせーを出して下さい」
「あれは数学担当じゃない。だから今は席を外している」
「私は殺せんせーを殺す暗殺機械。殺せんせーを出して下さい」
「頭の良い君にも、日本語は通じなかったかな。あれは今いない。だから幾ら今暗殺をしたくても出来ない。その対象がいないからね。君が今すべきことは、静かに寝ておく事」
「…寝ておく事?」
「そう」
「それは命令ですか?」
「命令」その言葉に柴崎は僅かに目を開く。なるほど、命令ね。よく躾けられた機械のようだ。
「……、ふぅ。そうだね、命令だ」
「分かりました」
そう言うと、自律思考固定砲台は静かになった。生徒達は息を吐く。もしかしたらまた発砲するのではないかとヒヤヒヤしたのだ。そんな彼らを見て柴崎は苦笑いだ。
「ごめんごめん。冷や冷やさせた?」
「しましたよー…。また発砲するんじゃないかって」
「相手は人間なのにとは思ったけど、そんなの関係ないかもって…」
「先生、あれなんとかならないんですか?」
「こんなんじゃ私達まともに勉強も出来ません…」
生徒の言い分もわかる。暗殺にしては良いが、その他となると困る点が多い。改善するべきだろうが、いかんせん国からもたらされたものであり、そう簡単には動かせないのだ。
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