poison 3

二週間後、驚異の回復力を見せた柴崎は医師の四週間という期限半分まで縮め、退院した。そして今日、二週間振りの登校だ。





「柴崎せんせーい!」


生徒の声に振り向く。


「どうした?」

「ちょっと校庭に来て!」

「校庭に?」



言われるがまま付いていけば、そこにはE組生徒と烏間、イリーナ、殺せんせーが集まっていた。そばに立つ烏間に尋ねる。




「どうした訳?」

「いや、お前もやられてばかりでは悔しいかと思ってな」

「は?」

「カラスマが防衛省に頼んで、今回の首謀者を連れて来てもらったのよ」

「え、?」

「柴崎先生の渾身の必殺技でもかけてやって下さい」

「……ん?」


イマイチ状況の飲めない柴崎。そんな彼に生徒達は笑い、首謀者を前に出す。両サイドには磯貝・前原が腕を掴み、首謀者を捕らえている。




「ほら!柴崎先生!やっちゃえやっちゃえ!!」

「銃で撃たれて、造血剤で血流されて、おまけに毒まで入れられて苦しんだんだからやり返したって文句言われないって!」

「柴崎先生お得意の挌闘技で締め上げてやればいいんだって!」

「…ふーん」



柴崎は目の前の首謀者に目を向ける。本人は目を逸らしている。




「…あのさ」

「!」

「なんで生徒を狙ったわけ?」

「そ、それは…」

「それは?」

「…あんな意味の分かんねぇ生物、こんなガキ共に殺せるわけねぇだろ。だから、代わりに俺が殺ってやろうと思ったんだよ。聞けばこの話は極一部の人間にしか話されてないとかだし、試し撃ちに1人殺ってもバレやしねぇって…」

「…あっそ。烏間、上着持っててくれる?」

「…あぁ」



柴崎は小さく笑って烏間に上着を渡す。ネクタイを緩め、腕を捲る。




「磯貝くん、前原くん。離れてたほうがいいよ」

「え?」

「離して良いんすか?」

「あぁ。逆に、離れてた方がいい」


2人は素直に離れた。他の生徒も、先生も離れた。烏間は感じていた。あぁ、柴崎は怒ってるなと。普段キレない人間が怒れば普段怒る人間の数倍怖い。




「じゃあ、まぁ。あぁ言われたんで、遠慮なく」


首謀者にニコリと笑いかけるとその男は暫し見惚れる。なんせ、相手はイケメンだからだ。が、気を緩めたが最後。次の瞬間体は倒れており、激痛が走る。





「っっっっ!!いってぇ!!!」





そう。柴崎は素早く相手の体を倒し飛びつき腕十字固めをしたのだった。本人はそれはもういい笑顔。



「これに懲りて生き方やり直すことだな」

「いたたたたたっっ!!このっ!」



足を振り上げてきたので上体を起こし、首謀者の体の下から足を出すとその足を蹴り、俯けにすると後ろからヘッドロックをかます。



「懲りない人間には…、躾だな」

「すみませんでしたぁぁあ!!」







「ぅわー…痛そう…」

「あんなのやられた日には腕違う方向向きそう…」

「てかいつ柴崎先生動いた?全然目で追えなかった…」

「気付いたらあの男が倒れてて柴崎先生が締めてたもんね…」

「まぁこれに懲りてあの男ももうしないって…多分」








十分に躾終わった柴崎は首謀者から退いて烏間の方に向かう。上着を受け取り羽織る。


「もう良いのか、あれで」

「ん?あぁ、だって…」


チラリと後ろを向く。そこに倒れてる男1人。





「もう動けないだろうしね」

「…お前の挌闘技にかかった奴は、大体気絶するからな」

「さしてるわけじゃないんだけどなぁ」



烏間と話している柴崎の姿をイリーナは見ていた。急に柴崎がこちらに振り向くもんだから肩を上げた。




「イリーナ」

「な、何よ」

「あれってまだ有効?」

「へ?あれ?」

「お茶」

「あ…、覚えて、くれてたの…?」

「勿論。で、まだ有効?」

「ゆ、有効!有効よ!」

「なら、今日の放課後な」

「え…」



言うだけ言って歩いていく柴崎の後ろ姿をイリーナは見ていた。




「へぇ、良かったじゃん、ビッチ先生?」

「柴崎先生と放課後デートですか?」

「いいなぁ、イリーナ先生!」

「私達も今度誘ってみよっと!」



イリーナは驚いて茫然としていたが、顔を赤くして、そして柴崎の後を追う烏間を呼び止めた。



「カラスマ!!」

「?」

「あんたにだけは負けないんだから!!」



それに驚いたような顔をする烏間。だが、直ぐに不敵に笑う。


「ふっ、俺もだ」


そして去って行く烏間にイリーナはムカつく!!と叫んだのだった。
残された生徒達は2人の短な会話であーだこーだと話していた。



「え、てことは、イリーナ先生は柴崎先生が好きなんでしょ?」

「そのビッチ先生が烏間先生に宣戦布告したってことは…」

「烏間先生も柴崎先生が好きなのかな!?」

「えー!なにそれ!面白い!」

「間の本人は全く自覚ないけどな」

「あー、柴崎先生鈍いから」

「色恋沙汰とか興味なさそう」

「いやでもさ、暗殺以外にも面白いこと出来たな」

「あぁ!まぁ、どうなるか見ものだな」

「イリーナ先生と烏間先生なんて私負けちゃうじゃん!」

「顔面偏差値良いからなぁ」

「柴崎先生は顔で選ばないでしょ?」

「ま、そっか」


生徒達の話題は尽きないのであった。











「烏間先生」

呼び止められ、振り返ればあの生物。


「なんだ」

「聞きましたよ、私」

「は?」

「病院で柴崎先生の容体が落ち着いた時、「志貴」…と、呼んでいましたね」

「…」

「…大切ですか、柴崎先生が」

「お前には関係ない」



背を向け立ち去ろうとする烏間に殺せんせーは声をかける。




「大切なら、守ってあげてくださいね。あぁ見えて、柴崎先生は無茶をする方なので」

「……お前に言われなくても知っている」

「そうですか。なら良いのです。良く夜遅くまで起きているようなのでね…」

「…ちょっと待て」

「にゅや?」

「何でそんなこと知ってるんだ」

「それは勿論夜にベランダの窓から柴崎先生の姿を拝見……、にゅや!!」

「お前…っ!」

「…逃げるが勝ち!!」

「待てコラ!!」








「あ?何やってんだ、殺せんせーと烏間先生」

「さぁ。追いかけてるな、烏間先生」

「また殺せんせーがなんかしたんじゃない?」

「烏間先生も苦労人だなぁ」

「あ、柴崎先生が通りかかった」

「殺せんせー柴崎先生の後ろに隠れたな」

「烏間先生を宥めてる」

「やっぱうちのクラスには柴崎先生いないとダメだな!」

「本当に〜!」


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