「今週は出張だって言ってたっけ?」
「アメリカにな。こっちのことは頼んだ」
「了解。そっちも出張気を付けて」
「あぁ」
「今週から二者面談ですねぇ」
「…あぁ、今週からだっけ?」
「はい。生徒達の進路相談が始まります」
「で、俺が三者面談担当ね」
「はい。烏間先生は出張中ですからね。お一人でさせてしまう事になりますが、よろしくお願いします」
「私は?」
「「あ、イリーナ/先生は大丈夫/ですね」」
「なんでよ!!」
この時期になると、受験真っ盛りの生徒達は進路希望調査だったりの面談時期。今までぼんやりと考えていた人も、そろそろ本腰入れて考える時だ。そして、始まる進路面談。
「…見るたび変な変化してるの止めようよ。どした」
「いやぁ、生徒達から頂いたものが体に反応してしまいまして!」
「今のそれは何が原因?」
「奥田さんの濃硫酸と、原さんの塩分多めのお弁当と、狭間さんの呪いと、菅谷くんの落書きですね」
「…後半おちょくられてるの分かってる?甘んじんでるの?;;」
「生徒からの愛かと。あ、メイク落としと痩身クリームと化粧水持ってません?」
「持ってるか!」
「…さてさて、次はカルマくんですねぇ。彼はどんな進路希望なんでしょうか。官僚になりたいと以前は言ってましたが」
どこから取り出したのかメイク落とし、痩身クリーム、化粧水を手に取る。
「へぇ、官僚にね…。国家運営の裏方か。彼にしては地味だね。もっと表立つと思ってたけど」
「何か理由があるのかも知れませんね。では私はカルマくんの面談に行ってきます」
「いってらっしゃい」
「あぁ、そうだ柴崎先生」
「ん?」
「これを菅谷くんと狭間さんに。忘れ物をして行ってしまったようで」
渡されたのは絵の具のパレットと一冊の本。
「はいはい」
それを受け取って部屋を出た。
「なによガキ共。進路相談やってんの?」
そう言って教室に入ってきたイリーナ。だが、その姿にクラスの全員が目を開いた。
「ビッチ先生…」
「フツーの服だ」
「…フツーの安物よ。あんた達のフツーの世界に合わせてやっただけじゃないの。…何よ、やっぱりもっと露出が欲しいわけ?」
「(いや…隠した事で寧ろエロに凄みが出た)」
「(あの人もある意味成長したなぁ…)」
「?;;」
コソコソと岡島、三村に話されている事に気付きながらも何を話されているか分からないイリーナは頭に「?」を浮かべた。そこでガラガラっと開く教室の扉。
「菅谷くん、狭間さんいる?」
「あ、柴崎先生!」
「なんですか?」
「はい、これ」
「あ、俺のパレット」
「私の本…」
「進路相談の教室に置き忘れて行ったから渡してくれって頼まれて」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「いいえ」
渡すだけ渡して部屋を出ようとする彼を女子生徒達は引き止めた。
「ちょ!待って待って待って下さい!」
「まだ帰らないで下さい!」
「え?」
「イリーナ先生を見てあげて!!」
「イリーナ?」
え、居たの?と教室内に視線を向けると、磯貝・前原の後ろに隠れる誰か。壁にされている2人はうーん…と乾いた笑いを。
「ほらビッチ先生。俺らの後ろに隠れんなよー」
「折角だから見せてあげたらどうですか?」
「で、でも…っ」
「あー!あん時あんな愛の告白してんだから服装くらいでウダウダ言うな!ほら!!」
「きゃっ!」
前原がそのイリーナの腕を掴んで前に突き出す。当然出されたイリーナはもう隠れる場所も何もない為曝け出すしかない。
「……………」
「……………」
「……………」
「…………な、なんか言いなさいよ!」
「え、あぁ…、いや…」
見慣れない格好。髪型も少し変えたのか、いつもと違う。
「こうも変わるもんなんだ」
「…へ、変?」
「いや、似合ってるよ。可愛い可愛い」
「〜っ!!」
笑ってそう言った柴崎にノックダウンさせられたイリーナは顔を真っ赤にしてへにゃへにゃ〜…と座り込んでしまう。
「っえ!?大丈夫?」
「あ、あんた…破壊力、あり過ぎなのよ…っ!」
「? なんの話?」
「しかも無自覚!!」
「…いろいろ本当に大丈夫?」
座り込んだイリーナの前にしゃがんで話している柴崎。そろそろ会話ができなくなりつつある。一方通行だ。
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