防衛省へ行き、烏間と共にイリーナの後釜になる殺し屋を選別していたが、なかなか見つからない。
部屋を出て、一人になった時に掛かってきたロヴロさんからの電話。それが歩いていた柴崎の足を止めた。
『…シバサキ。カラスマにも伝えろ。この暗殺から手を引け。でないと…君達が危険だぞ』
「…どういう事かな」
『「殺し屋殺し」私の子飼いや提携関係の殺し屋達が…次々とある者達にやられている。その鮮やかな手口。凄腕達を仕留める技量。どこから得たのか膨大の量の情報。殺し屋「死神」と「悪魔」だ。とうとう奴等が動き出した』
「…貴方が言ってた、世界一の殺し屋達か」
『君も知っているように、優れた殺し屋ほど万に通じる。本当の顔を誰も知らないのは、変相技術が超一流だから。殺し屋達の居場所を難なく突き止めたのは…情報力が超一流だから。腕利きの殺し屋達が成す術なくやられたのは…暗殺技術が超一流だから。殺し屋達を仕留めた手口に凄まじい難度が…奴等の犯行である事の何よりの証拠だ。俺の命など別にどうでもいいのだろう。いずれにせよ、当分は仕事ができん』
ロヴロがここまでいう奴等…「死神」と「悪魔」というのは相当の手練れであり、最強の殺し屋と呼んでも過言ではない者達。油断をすれば、首を取られる。
「…つまり、腕の良い商売敵を排除して、満を持して殺しにかかるってことか。…百億の賞金首を」
『千を優に越す屍の山を築いた男達だ。誰でも殺すし誰でも利用するぞ。たとえ女だろうが中学生だろうがな!!」
「…でも解せないね。どうしてその2人はタッグを組む?殺し屋として動くならば個人の方が良いと思うけど。例え互いに最強の殺し屋だとしても、足手纏いは避けたいだろ?」
『…あの2人は2人で1つ。まるで…お前とカラスマのような存在だ。だが、決定的にお前達とは違うところがある。それは、例え相手が死んだとしても関係ない、という点だ』
「…なるほど。だから足手纏いでもなんでもないという事か…」
『そういう事だ。…いいか。忠告はした。首を取られる前に引け。俺から言えるのは、それだけだ』
「ありがとう。烏間にも伝えよう」
『あぁ。では切るぞ』
切れた電話を片手に考えを巡らす。この時期にして動き出した。なぜこの時期なのか。春の段階で手を出せば、それほどの力がある者はすぐに殺れるだろうに。何かを泳がす必要があったのか。
「……駄目だな。考え過ぎてもキリがない」
とにかく烏間にも報告しようと。ロヴロとの電話の内容を烏間に伝えたのだった。
「…そうか」
「いつ動き出すかは分からないけど、注意はしておくべきだと思う」
「生徒達に、何も無かったらいいが…」
「そこが一番…心配だね」
その頃椚ヶ丘中学3年E組に、その「死神」と「悪魔」と呼べる人物が、来ていたなんてことを、この2人は知る由も無かった。
防衛省からの帰り道、トラックに乗せた花が落ちているのに気付いていない男性が2人。それに気付いた2人は花を拾い、手渡す。
「花、落としましたよ」
「踏みそうだぞ、商品」
「あ!これは有難い!」
「わ!すみません、ありがとうございます。そうだ、お二人に一輪、お礼にどうぞ」
手渡されたその花は、よく見れば最近見た花だった。そう、この花は生徒達に渡され、そしてイリーナに渡したあの花束の花。
「……ガーベラか」
「ご存知で?わりと繊細な花なんです。貴方方は…野に強く咲く花や、萎れかけても真っ直ぐ上を向く花などがお好きでしょうが…手元の花は水をやらねばすぐに枯れてしまいますよ」
「はぁ…?」
「?」
言われたその言葉がよく理解出来ず、2人は曖昧な返答しか出来ない。しかし、貰ったのだからとそれを鞄に入れて礼を言った。
学校に着く。だが人の気配はない。酷く、静かだ。
「…生徒が一人もいない…」
「…妙だな。いつもこの時間なら…数人は訓練や遊びで残っているものだが…」
時計を見れば午後6:15。響く秒針、指針の音が、何時もより大きく感じた。
「烏間先生!柴崎先生!」
2人が振り向けば飛んで来たのか、殺せんせーがそこに居た。どうやら何か焦っているようだ。
「どうした」
「生徒達と連絡が全く取れません。…胸騒ぎがします」
そこで脳裏を過るのはロヴロと電話での話だった。
《「死神」「悪魔」が動き出した。》
もしも、今考えていることが当たっているのだとすれば、彼等は今…。
「…柴崎先生」
「!」
「貴方のその予想は、当たっているかもしれませんね」
心臓が大きく跳ねた。嫌な汗が流れる。動き出すならば、今しかないのではないか。
「行きましょう」
「行くって…一体どこにだ」
「生徒達は、今敵の本拠地でしょう。この校舎の中に薫る沢山の花の匂い。生徒達の匂いは分かりますし、後はこの花の匂いを辿れば直ぐに見つけられます」
「…今回ばかりは、お前のその鼻も役立つな」
「ふふん!でしょう。…さぁ行きましょうか。あ、変装はこれで」
「…止めろ、緊張感のない;;」
「…こんなデカイ犬が居てたまるか;;」
犬の着ぐるみを着た殺せんせーがそこに居て、烏間・柴崎に当然の如くリードを握らせた。そして急いでいるにも関わらず、途中コンビニに寄らされ、何を思ったのかトマトジュースを一本購入したのだった。この犬が。
prev | next
.