Itona

一枚の新聞が全ての始まりだった。




「……柴崎先生」

「……………なに?」


ここは教員室。朝はいつも通りだった。けれど次に帰ってきた時は異様なほどのテンションの下がり具合。何かあったなと3人は思ったがあえてなにも聞かなかった。
そしてもうすぐ4時間目。数学だ。



「……生徒たちに何を言われても信じないでくださいね」

「…?」

「絶対に、絶対にです!!私無実なんですから!」

「…わ、分かったから…近い…」

「離れろバカだこ」

「近寄らないで、エロだこ」



グワッと柴崎に迫った殺せんせーとの間に烏間・イリーナが間に入る。いつもなら「酷い!お二人とも!」というはずが、2人の言葉にとてつもなく落ち込んだ殺せんせー。



「エ、エロ…だこ…」

「え、何でそんな落ち込むのよ」

「いつもなら普通に返してるのに」

「日頃の行いが祟ったんじゃないか」

「「あぁ…」」

「納得しないで!柴崎先生!イリーナ先生!」


涙を滝のごとく流す殺せんせーを少し引いた目で見て、柴崎は机の上に置いてあった数学の教科書を手に取る。



「まぁ何があったかは知らないけど、言われたら流すようには努力する」

「お願いです!頼みました!!」

「…はいはい」



教員室から出て、Eクラスへ。何をそんなに必死になることがあるのだろうかと考えながら歩いた。


チャイムが鳴り、授業開始。いつも通りである。



「この部分の連立方程式は…」



黒板でチョークを削る音。白い文字が緑の板に塗られていく。


「じゃあ下の練習問題解いてみて」

「「「「はーい」」」」


その間、特にすることもなく、窓際に立ってぼーっとしとく。残り時間あと15分。この問題を解き終わったら終わりだな、と考える。その時にたまたま見えた。


「新聞?」



珍しい。今時の中学生は新聞も読むのか。偉いな…と思いながら、その落ちている新聞を手に取る。それに気付いたのが片岡・前原だった。



「あ、それ…」

「君達新聞読むんだね。好きなの?」

「…いやぁ、好きとかじゃないんですけど…その、たまたま載ってた内容が…」

「内容?」

「はい。…ねぇ?」

「あぁ…」


口籠るような記事が載っていたのだろうか。柴崎はふーん…と心の中で言うと、その新聞をチラリと見る。



「……ん?」


色んな記事がある中で、一つ…気になる記事が目に入った。



「(もしかしてこれのこと…?)」

「あ、気付いちゃいました?」

「え?…あぁ、まぁ」

「なんかガッカリですよ…!こんな事してたなんて…」

「だよな。犯人は黄色い頭の大男で、笑い声は「ヌルフフフ」とか、1人しかいねぇし」

「あ、柴崎先生もその記事見たんだ」

「いやマジでねぇよなぁ」



気付き始めた生徒達が柴崎の持つ新聞のある記事について話し出す。


「まさか…」

「「「「下着泥棒なんて…」」」」


完璧生徒達からの信頼を下げかけている殺せんせー。柴崎はその様子を見て、まぁ日頃を見れば否定出来ないけど…と考える。しかし、生徒達からの信頼を損ねる事を良しとしないあれがこんな見え見えの事をして自分を下げるだろうかと思うと、なかなか首を縦には振れなかった。



それから答え合わせをして、丁度チャイムが鳴ったのをいい事に、今日はここまでとし教員室へ戻った。









ガラガラ


教員室の扉を開けた途端、目の前に広がる黒と黄色。


「柴崎先生!!」

「!?」

「あの、あの…えー…」

「………」


さっきの勢いはどこへ行ったのか。そんな疑問を匂わせるほどのテンションの上げ下げに正直柴崎は付いて行けない。未だあー、うー、えー、と言う殺せんせーの隣を通り過ぎて机へ。


「見たけど」

「にゅや!!?」

「…でも証拠がないだろ」

「…にゅ?」

「お前が本当にしたっていう証拠」

「柴崎先生…」

「確かにお前に酷似な情報ばかりだけど、あんな見え見えで完全に生徒からの信頼を下げるような馬鹿なこと、お前がするの?」



机に教科書を置き、コーヒーを淹れに行く柴崎。烏間とイリーナにもいるかどうか聞き、2人ともいると言うので淹れる。


「はい、コーヒー。ブラック」

「ありがとう」

「イリーナはミルク多めね」

「覚えててくれたのね、ありがとう」

「にゅ〜…」

「…え、何欲しかった?」

「……砂糖多めで」

「はいはい」



コップを用意してもう一杯、用意する。


「どれくらい砂糖入れる?」

「スプーンに5杯お願いします」

「………それコーヒーじゃない」


だが言われた通り5杯分の砂糖を入れて渡す。それに礼を言った殺せんせーはズズッとコーヒーを飲む。





「一体誰の仕業なんでしょう…」

「…こいつはなんでこんなに落ち込んでる」

「あ、烏間知らない?」

「私も知らないわ」

「イリーナも?…実は…」



かくかくしかじか…と話すと、2人はなるほどなと頷く。


「そりゃああの子達も疑うわよ。なんたってあんたのバイブルあれだもの」

「うううう…っ」

「これに懲りて、少しは控えるんだな」

「ううううううう…っ」

「…あんま落ち込まないで」

「柴崎先生…っ!!」

「そこら辺にキノコ生えそうだから」

「……っ!!!」



ガーンとまたしても落ち込む殺せんせー。柴崎の発言に笑いを堪える烏間・イリーナ。自分の発言で落ち込んだ殺せんせーを見て、しまった…と顔を歪める柴崎がそこに居た。





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