そして次の日。烏間・柴崎は自分達の部下、鶴田の前に立っていた。既に鶴田の頭には大きなコブが出来ており、本人は痛みのあまり涙を流している。
「いいな。幾ら上からの命令だったとしても、報告はしろ」
「はい、申し訳ありませんでした…」
「烏間が叱ったなら、俺からは別に言うことはないかな」
「柴崎さん…」
「柴崎…」
「十分だろ?反省したみたいだし、同じこと再三聞くのもね。ほら、鶴田着いておいで。手当てしてあげるから」
部屋を出ると数名の生徒と園川が居た。
「あれ、園川」
「あ、柴崎さん。…その、鶴田は…」
「お叱りちゃんと受けて頭に上司からのお土産貰ったよ。今からその手当て」
「…烏間さんの、アレですか?」
「アレ」
「………」
園川はやっぱりと言い肩を震わせる。それを見て苦笑い。
「じゃ、また後で鶴田の回収よろしく」
「はい」
柴崎は鶴田を連れて保健室へ。その後ろ姿を3人は見ていた。
「どうしたの、鶴田さん」
「軽率にシロに協力したのを烏間先生に叱られたんだって;;」
「あれは烏間さんの殺人げんこつ。直径4cmに渡って頭髪が消し飛び、頭皮が内出血で2cmも持ち上がる、恐ろしい技です」
「あれデフォルメ的なたんこぶじゃないの!?」
「じゃあ柴崎先生からは?何もないの?」
「烏間さんと柴崎さんが揃えば、あの人は飴と鞭どちらかと言うと、飴の方。鞭は烏間さん担当です。その後の手当てなどは全て柴崎さんが」
「なるほど…;;」
「きちんと連携が取れてる…;;」
「はい。どう?まだ痛む?」
「…少しだけ」
「烏間のアレは容赦ないからねぇ。…ま、今回は仕方ないか」
消毒液やガーゼ、テープを救急箱へと直す。
「…シロね。襲ってきたのは、イトナくんかな」
「はい」
「触手、って誰にでも扱えるものなのかな…」
「え?」
「…いや、なんでもない。さ、園川待ってるから行っていいよ」
「あ、はい。…手当てありがとうございます、柴崎さん」
「いえいえ」
出て行く鶴田を見送って、柴崎も立つ。元の位置に救急箱を直し、ゴミを捨ててから部屋を出た。
「柴崎」
振り向けば烏間がいた。
「ん?」
「今回のことだが…」
「十中八九、上の焦りが問題」
「あぁ…」
「焦るのは分かるけど、やり方がね…。…このままじゃ、あの子暴走するよ」
「あの子?」
「堀部イトナくん」
「!…彼か」
「強さに偉く固執している。そんな彼が負け続きときた。以前戦いっぷりを間近で見させてもらったけど、負けた後の力の制御が出来ていない。…放っておくと、壊れるよ。そのうち」
「お前が言うならそうなんだろう。…だが、どう手を打つべきか」
「俺たちが手を打たなくても、きっとあいつが動く」
「…奴か」
「休学してるとは言え、生徒は生徒。放っておくとは思えない。あれが動けば、生徒も動く。なら、俺たちがすべき事は一つだけ」
「…はぁ。後始末か」
「そういう事」
深く深くため息をつく烏間の隣を柴崎は歩く。余計な事はしなくていい。触手には触手を。生徒には生徒を。それぞれ嵌る枠同士が角を削り合えば、丸くなり事は全て済む。そこに第三者が入り込む必要などはどこにもないのだ。
「手が必要なら、差し出せばいいさ」
「…今回は、差し出す必要がありそうなのか?お前から見て」
「なさそう」
「…なら、やっぱり俺たちがする事は後始末のみだな」
「だね」
それから数日後。
「はい…、えぇ。分かりました。そちらの費用などはこちらで出させていただきます」
「損傷品などはこちらが受け取りに行きますので。…はい、失礼します」
掛かってくる電話対応をし、修理代・部品代など全てを防衛省が負担する事になった。
「大きく暴れたなぁ…」
「ますます費用が嵩む…」
「今回は後始末係りだからね、俺ら」
「彼に関しては、生徒達が解決してくれたようだしな」
そう。堀部イトナ。彼は制御不能なあの触手を制御した。勿論一人ではなくE組生徒達、そして殺せんせーの力で。そんな彼も、今日から改めて登校である。そして、初めての授業だ。
「じゃあ、ちょっと応用問題をしようか」
「え"…!?」
「受験問題ね。…そんな嫌がらなくても。本番皆解くんだから」
あからさまに嫌な顔をした生徒に苦笑いをし、青本から数問抜粋し、黒板に書く。
「所要時間は一問10分。2問出したから、大体20分後を目処に答え合わせするからね」
生徒達はみんな黒板の問題をノートに取ると解き始める。勿論、イトナも。『問題児』なんて札を貼られているが、こうして見ていると周りの生徒達となんら変わりない。少し寡黙で、なんだかんだで好奇心があり協調性もある。柴崎は少し早めにクラスに来たが、廊下から生徒達の様子を伺えば、イトナはもうクラスに馴染んでいた。
「(そろそろ20分だな…)…はい、そこまで。じゃあ答え合わせするよ」
黒板の方まで歩いて行き、柴崎も青本に目を落とす。少し難易度が高かっただろうか。頭を悩ます生徒が見ていて多かった。だが、一人だけ。休む事なく手が動いている生徒がいた。
「…イトナくん」
「?」
「この問題、解けた?」
黒板に指差し聞いてみる。生徒の視線はイトナに向く。そんなイトナは小さく、コクンと頷いた。それを見て、柴崎は口元に小さく笑みを浮かべる。
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